自分の財産をどう始末するか

──遺言のすすめ──

 たとえわずかであっても財産を残して親が亡くなると、それまで波風の立ったことのなかった兄弟姉妹の間に財産相続をめぐって争いが起きることはよく耳にするところです。「泣く泣くもよい方を取る形見分け」と古い川柳にもあるように、身内を思う情けもまことながら、物欲に燃えているのも人情の自然です。
 戦後、これまでの家族制度の法律が一変し、それまで長男1人が全財産を相続していたのが、あらためて配偶者や子ども等全部の者へ分割相続されるということになったことは、今ではもう常識となっています。
 しかしそのため、死後の身内に醜い争いを残しては、ほんとうに死にきれないのではないでしょうか。
 相続人である自分の子であっても、親の世話をし、また親とともに家業を継いでいく子もあれば、親元を遠く離れて生活している子もありという具合に、相続人の境遇や経済状態などはいろいろと違った事情があり、同じ自分の子であっても分ける財産は一律にいかないことがあるのが普通です。
 また、世話になった他人に財産を少しでもゆずりたいとか、社会事業に何がしかの寄付をしたい場合もあるでしょう。
 そのような場合に、それぞれその人の考えを生かし実情にふさわしいように、生前に自分の財産の処分を定めておく方法があれば、あとあとの心配もなく、安心ができるというものです。
 その方法はただ1つ、正しい「遺言」をしておくことです。そのようなわけで、以前と違って、遺言を作る人がだんだんと増えてきております。
 しかし、遺言だからといって、ただ希望を書き残しただけでは十分ではありません。法律に定められた形式を守り、正確な遺言を作っておかなくてはなりません。
 また、遺言を一旦作ったからといって、事情によって取消しもできれば変更することももちろんできます。私の知っている人は、毎年、年頭に遺言を新たに書き替えている人もいるほどです。しかし、老人ぼけで判断がくもらない前に、とにかくも、遺言書を一通作っておくことに重要な意義があります。
 それでは、その遺言はどのようにして作るのか、そのあらましを説明しましょう。
 遺言は、通常の場合、遺言者本人が作成する「自筆証書遺言」と、公証人が作成する「公正証書遺言」の2通りがあります。
 「自筆証書による遺言」は、遺言する人が自分で遺言の内容全部と日付・氏名を書く、つまり署名して捺印しなければなりません。この方式は自分1人で作れるから秘密にできる便利がありますが、そのかわり厳格な形式が要求され、わずかな不備で遺言が無効になる場合があり、また遺言者の死後家庭裁判所へ提出して「検認」という手続きを受けなければなりません。
 「公正証書による遺言」は、遺言をする人が証人2人の立ち会いのもとで公証人に遺言の内容を話し、公証人に作ってもらうものです。
 これは、国の公的機関である公証人が作成するので正確に作られるし、遺言書の原本は公証役場に保管されるので、紛失したり偽造・変造のおそれはありませんし、先ほどの「検認」の手続きを受ける必要もないので、この方法によることが安心だと思います。
 いずれの遺言を作るにしても公証人は相談に応じてくれますから、さらに細かいことは公証人にご相談なさるのがよろしいでしょう。
 公証役場は全国の主要都市にありますから、気軽に出向いて、または電話で、相談されることをおすすめします。

国が定めた公正証書作成手数料
目的の価額手数料
100万円まで5000円
200万円まで7000円
500万円まで11000円
1000万円まで17000円
3000万円まで23000円
5000万円まで29000円
1億円まで43000円
以下超過額5000万円までごとに
3億円まで13000円 10億円まで11000円 10億円を超えるもの8000円加算

※遺言手数料の場合は
目的の価額が1億円まで11000円加算された金額になります。

弁護士・元神戸公証役場公証人 合田 得太郎




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