[この記事は、育児休業法が制定された当時、1992(平成4)年4月の「そよ風」58号の記事を元に加筆したものです。]

育児休業等に関する法律の制定
育児休業「1歳」まで
女性も働きやすい職場へ 平成4年4月1日スタート

わが国における女性の職場進出にはめざましいものがあり、平成8年の女性雇用者数は2084万人、全雇用者の39.2%にものぼっています。夫婦の約半数は共働き世帯であり、既婚女性が仕事をもつことも珍しいことではなくなりました。しかし家事の多くは女性の負担となり、とりわけ育児は仕事を続ける上で大きな問題になっています。すでに女性の生涯出産数は1.39人と危険なまでに落ちこみ、大きな社会問題となりつつあります。
そこで、育児と仕事の両立をはかる方策の必要性が高まり、「育児休業等に関する法律」が制定され、平成4年4月1日より施行されました。
この法律は、育児休業に関する制度を設けることによって、子育てを契機に退職する者を減らし、より働きやすい職場をつくることを目的としています(1条)。
男女を問わず、自ら申し出ることによって、子が1歳に達するまで休業することができます(日雇い・臨時雇いを除く)。この場合の「子」というのは法律上親子関係にある子をいい養子も含みますが、養子縁組していない配偶者の連れ子や里子は含みません。また、ひとりの子については、特別な事情のある場合を除いて原則として一回しか休業できません(5条1項)。
休業を申し出るときには、休業期間の初日(休業開始予定日)と末日(休業終了予定日)を明らかにして届け出ます。また、休んだり休まなかったりを繰り返すと仕事の上で問題が生じるので、休業期間は何度にも分割したりせずに続けてとらねばなりません(5条2項)。ただし、両親があらかじめ話し合って最初の6ヶ月までは母親、残りの6ヶ月は父親といった形で交替で休むことはできます。
事業主は労働者からの休業申出を拒むことはできません。ただし、次のような者に対しては、労働者側と事業主の話合いで合意すれば、休業を認められないこともあります(6条1項)。
(1)継続雇用1年未満の者
(2)配偶者が専業主婦(夫)か、共働きですでに育児休業をとっているなど、育児ができる者(配偶者が病弱である、出産直後であるといった場合はのぞく)
(3)休業申出の日から1年以内に退職することを明らかにしている者
(4)1週間の労働日数が著しく少ない(2日以下)者
したがってアルバイトやパートであっても、臨時雇いでなく長年勤めていて、しかも1週間の労働日数も所定以上であれば育児休業をとることができます。
労働者には自ら申し出ることで育児休業をとる権利がありますから、事業主の承諾は必要ありません。また逆に休業を強制されることもありません。事業主は育児休業を申し出たことや休業したことを理由に労働者を解雇することはできません(10条)。もし解雇の意思表示をされたり、実際に解雇されたとしてもそれは無効です。
<この後、育児休業法は改正され、平成13年11月16日より、解雇だけにとどまらず、「その他不利益な取扱いをしてはならない」と明文化されました。くわしくは「そよ風」116号>
休業を申し出るときには、その会社で決められている育児休業の内容、たとえば休業中の賃金や休業後の職場復帰に関してあらかじめ知っておかなければ、あとでトラブルの元となりましょう。そこで事業主は、育児休業中の待遇(給与・昇給・社会保険料などの取扱い)、休業後の賃金・配置その他の労働条件を定めて労働者に知らせておかなければなりません(11条)。また、休業する者の担当していた仕事の振分けや代替要員を置くなどの措置も必要ですし、休業中でも労働者の希望があれば復職がスムーズにできるような能力向上のための援助を心がけねばなりません(12条)。
具体的な育児休業のとり方は次のとおりです。
まず、休業期間は基本的には労働者が「いつからいつまで」と希望するとおりにできます。しかし、明日から休みたいなどの突然の申出でも事業主は認めなければならないとなれば、仕事の都合上混乱をきたすことになります。そこで、事業主に対し一定の範囲で休業開始予定日を指定できる権限を与えて、最低の準備期間を確保することにしています。開始予定日が申出日の翌日から1ヶ月以内の場合、この予定日と申出日の翌日から1ヶ月経過する日の間のいずれかの日を新たな予定日として指定できます(図1)。また、早産や配偶者の死亡など予期できない突発的事由が生じた場合は、申出日の翌日から1週間以内で予定日を指定できます(図2)。ですから、原則として労働者は休業を開始したいと思う日の1ヶ月前までに申し出れば希望どおりに休めるわけです(6条3項)。
休業申出の後、子育てをめぐる状況が変化して休業期間の変更を迫られる場合もあるでしょう。そこで、労働者の申出による期間の変更を認める場合を定めています。ただし、すでに休業者対策をしているところに休業を切り上げて出勤されたりすると職場が混乱するため、延長は認めるものの短縮についての権利は認めていません(ただし、事業主が認める場合はOK)。また、何度も変更すると事業主の対応の負担が大きくなるのでそれぞれの場合につき一回限りしか変更できません。
休業申出後、早産や配偶者の死亡などの突然の事由が生じたときに限り開始予定日を繰上げ変更できます(7条1項)。ただし予定日の1週間以上前に変更を申し出たときは労働者の希望どおり認められますが、もっと差し迫ってからなら事業主が希望開始日から1週間以内の日に予定日を指定できることになります(図3、4条2項)。期間を延長したいときは終了予定日の1ヶ月前までに申し出ることによって繰下げ変更できます(7条3項)。
急に保育園に入れることになったり、世話をしてくれる人が見つかったりして休業を開始前にとりやめる気になれば、どんな理由であっても開始予定日の前日まで申出を撤回することができます(8条1項)。ただし、一度撤回すると原則として再びその子について休業を申し出ることはできませんから(8条2項)、撤回するかどうかは慎重に考えるべきでしょう。
また、休業期間は開始予定日から終了予定日までが原則です(9条1項)が、次の場合には期間途中であっても終了することとしています(9条2項)。
(1)子の死亡、養子縁組の取消などで養育しなくなった。
(2)終了予定日前日までに子が1歳になった(早産で開始予定日を繰上げたとき)。
(3)終了予定日までに産前産後休業期間や新たな育児休業期間が始まった。
一方、経済的な理由などで、全面的に休業するより働きながら育児することを希望する人もいるでしょう。その場合でも通常の規定どおりに働くのはなかなか困難です。このため、勤務時間の短縮、フレックス制の導入、時間外労働はさせない、託児施設を設けるなどの配慮も事業主には義務づけられています(13条)。
また、とくに1歳から小学校に入るまでの子育てにもやはり親の役割は大きく、多くの時間と労力が必要と思われます。そこで育児休業制度や勤務時間の短縮などに準じた措置をとることが求められています(14条)。
こういった措置の具体的内容は、基本的には事業主の判断に委ねられています。
* * *
育児休業法の施行によって「育児のためやむをえず退職する」といったケースも少なくなり、女性にとっても働きやすい職場づくりに一歩前進しました。ただし、法律を守らない事業主への罰則や休業中の所得保障の規定がないなど、すべての労働者が気がねなく休業できるための課題はまだ残されているようです。
この育児休業制度は、当初、常時雇用者30人以下の事業所については適用をみあわせる暫定措置が採られていましたが、平成7年4月からはすべての事業所に適用されています。これに伴い、育休労働者の代替要員として派遣労働者を雇うときに限り、派遣業務の制限が原則として撤廃されました(40条の2・3、平成8年12月16日施行。くわしくは「そよ風」87号)。
また、育休法は、平成7年6月に大幅に改正され、育児休業だけではなく、介護休業についての規定をも盛り込んだ法律として、「育児休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」という新たな名称のもと、再スタートしています。このうち、介護休業についての規定は平成11(1999)年4月1日より施行され、「そよ風」100号でくわしく解説しています。


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