市民生活に介入する暴力団 もう泣き寝入りは無用です!!

暴力団対策新法いよいよスタート

平成4年3月1日〜

(これは平成4年3月1日に制定された暴対法について「そよ風」57号に掲載されたものに加筆したものです)
巧妙化する暴力団──広がる市民への被害

 平成2年末現在、全国で暴力団は約3300団体、暴力団員は約8万8600人にもなっています。とくに山口組・稲川会・住吉会は、3団体で暴力団員数の約半数を占め、名前を告げるだけで相手を威圧するほど勢力を拡大しています。
 近年、これら暴力団同士の対立抗争が相次ぎ、一昨年には沖縄で高校生が巻き添えとなって射殺されたり、大阪で会社員が暴力団幹部と間違われて射殺されるなど市民を巻き込んだ事件が多発しています。
 以前は暴力団は、覚醒剤・とばく・ノミ行為などを主な資金源として「客」となった市民が被害を受けることが多かったのですが、最近では債権取立て・示談交渉・地上げ・商売上のいいがかりなどで突然市民の日常生活の中に現れるようになりました。しかも、巧みな言い回しで、はっきり脅迫とわかるような威し文句を避けるなど、犯罪として取り締まることが難しい場合がほとんどです。
 さらに、暴力団は企業の形を借りて合法を装った資金稼ぎを行うようになり、世間を騒がせているイトマン事件などの大型経済事件の背後には暴力団と企業との癒着も明らかになってきています。
 こうした状況の下、全国各地で暴力団事務所の立ち退きを求める市民運動や訴訟が目立ってくるなど、一般市民による暴力団追放運動の動きが活発になってきました。そこで、実効力のある暴力団対策として「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」が平成4年3月1日より施行されることになりました。
 この法律は、暴力団員による暴力的要求行為(ゆすり・地上げ・示談屋などのいわゆる民事介入暴力)を規制し、対立抗争時の危険を防止し、暴力団員による被害を予防するための民間団体の活動促進によって市民生活の安全を図ることを目的としています(1条)。

「暴力団」を指定する


 まず、暴力団以外の団体や組織にまで規制が加わることを防ぐため、適用対象となる暴力団を指定しています。規制の対象となるのは、各都道府県の公安委員会によって指定された「指定暴力団」です。
 この指定暴力団には、以下の1〜3の条件を満たす暴力団が指定されます(3条)。
  1.  名目上の目的にかかわらず、資金獲得を実質目的として団員に暴力団の威力を利用させている
  2.  団員数のうちに占める犯罪経歴保有者(暴力団の典型的な犯罪等で禁錮以上の刑となり刑の執行終了後10年を経過しない者、同じく罰金刑となり刑の執行終了後5年を経過しない者など一定の前歴の条件を満たす者)の人数の比率が法で定めた一定の比率を越える

    指定される前歴者数の例
    集団の人数10人50人100人500人1000人
    前歴者数4人以上7人以上9人以上22人以上42人以上

  3.  暴力団を代表する者の統制下に階層的に構成される
 また、構成する団体の全部か大部分が指定暴力団であるような場合、これを「指定暴力団の連合体」といいます(4条)。
 指定するときには、暴力団に対して公開による聴聞を行ない(5条)、その実態を国家公安委員会に報告して、指定の要件に該当するかどうかの確認を求めなければなりません。そして、国家公安委員会が任命した審査専門委員(暴力団の指定に関し公正な判断を下せて、法律や社会に関する学識経験のある者)の意見に基づいて確認されれば(6条)、その暴力団の名称・所在地・代表者名などを官報に公示し、これによって指定の効力が生じます(7条)。この指定に不服のある者は国家公安委員会に審査請求できます(37条)。また、指定には3年間効力がありますが、その暴力団が解散したときなどは指定を取り消さねばなりません(8条)。

暴力的要求行為─→即、中止命令


指定暴力団員は、(暴力団名を告げたりバッジを見せるなどして)所属する暴力団やその系列で上位にある指定暴力団の威力を示して、次のような行為を行うことが禁じられました(9条)。

[ なお、暴力的要求行為は、その後の法改正によりいくつか追加されている。現在の規制については、そよ風91号(H10年2月号)参照]

 こういった不当な要求を受けて生活の平穏や業務の遂行に害が及んだときには、すぐ警察に届け出て中止を命令してもらうことができます(11条)。この中止命令に従わなければ、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます(46条)。また、暴力団以外の者がこれらの行為を依頼して地上げや示談交渉に利用することも禁じられています(10条)。
 中止命令の際に、被害を受けた者が相手の暴力団員に対して金品の返還、明渡した建物の原状回復などを求めるための援助を申し出たときには、公安委員会はその暴力団員に連絡をとったり、不当行為に対する交渉を支援する団体を紹介したり、交渉場所として警察施設を利用させるなどの措置をとります(13条)。
 さらに事業者に対しては、被害を防止するための業務の責任者を選任するよう指導し、不当要求への対応の仕方、警察への連絡方法などについて助言することとしています。また、必要に応じて責任者に対する講習も行ないます(14条)。

抗争時の事務所使用禁止・加入強要の禁止


 その他、いくつかの禁止事項が定められました。違反があれば公安委員会によって中止命令が出されています。
 指定暴力団同士の対立で銃砲器などの凶器を使用するようないわゆる「対立抗争」となり、その暴力団の事務所が団員の集合や連絡の場所・凶器の保管場所として使用され、付近の住民に危険が及ぶような事態になれば、3ヶ月以内の期間を定めて事務所の使用を禁止できます。有効期間を過ぎても必要があれば1回に限り期限を延長できます(15条)。
 指定暴力団の事務所の外回りやその他外から見えるところに暴力団の標章や銃砲刀剣などを掲示・設置したり、事務所周辺で著しく乱暴な言動をとるなど付近住民に不安を与えるような行為は禁止されています。債権取立てや示談交渉などに事務所を用いることも禁止です(29条)。
 指定暴力団員が人を威迫して指定暴力団への加入を強要・勧誘したり、脱退の妨害をすることは禁止されます。ただし、相手が少年(20歳未満)の場合は、まだ判断能力が乏しく容易に加入してしまう危険もあるので威迫でなくともこういった行為をしてはなりません(16条)。相手が困惑しているときには、中止を命令できますし、再発の恐れがあれば1年を超えない範囲で防止命令ができます。また、少年が脱退を求めているときにはその旨の命令を出すことができます(18条)。

暴力追放センターの設置


 暴力団による被害に対応するには、法律上の罰則や警察の取締りだけでなく民間の努力も欠かせません。この民間の力を結集し、適正で効果的な事業として行えるようにするため、こういった民間団体の地位と責任を法的に明確化する必要がありました。
 そこで、公安委員会によって各都道府県に1つ都道府県暴力追放運動推進センターが指定されることになりました。これは、暴力団の不当行為の予防活動・不当行為に関する相談・少年に対する暴力団の影響の排除などを行うもので、暴力追放相談委員(弁護士・少年指導委員など一定の要件を満たす者)が置かれて相談にあたります(31条)。さらに、各都道府県センターの事業について連絡調整を行うものとして全国暴力追放運動推進センターが指定されます(32条)。

[ことば欄]

☆公安委員会

 警察法(昭和29年制定)に基づき、警察の民主的・非政党的管理運営のために設けられている委員会。数人の有能・適正な素人を委員として合議制で管理運営が行われる。
 国の公正取引委員会や地方の教育委員会などと同じく行政委員会といわれるものの一種。一般の行政機構からある程度独立して、公正・中立に警察事務が管理されることを期す。国家警察の管理のために国家公安委員会、都道府県警察の管理のために都道府県公安委員会がある。
 国家公安委員会の場合、委員長は国務大臣があたり、その他5名の委員は内閣総理大臣が国会の同意を得て任命する(任命前5年間警察または検察の職についていない者で、同一政党に属する委員は2名までとされ一政党による支配を受けないように配慮されている)。また、都道府県公安委員会は、5名あるいは3名で組織される。委員は、国と同様、政党所属の規制に加え、任命前5年間警察または検察の職についていない者でなければならない。都道府県議会の同意を得て知事が任命する。委員長は委員が互選で決める。

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