〔平成3年6月29日付サンケイ新聞より〕
マンション駐車場利用「半永久権」は認めぬ
神戸地裁「希望者に不公平」

 分譲マンションの駐車場の利用を半永久的に認める決議は無効─と、住民6人が管理組合を相手取り決議の無効確認を求めた裁判で、神戸地裁は28日、原告の訴えを認める判決を下した。来月(1991年7月)1日の車庫法の改正を前に、駐車場問題に一石を投じそうだ。
 訴えられていたのは、神戸市灘区鶴甲4の「鶴甲コーポ26号館管理組合」。
同マンションには18台分の駐車場があり、取扱要領で◇利用期間は原則1年◇申込みが多い場合は抽選─と決めていた。しかし昭和61年9月の臨時総会で、出席者24人のうち16人の賛成で利用を引き続き希望する者については管理組合が更新を認め、申込みが多い場合は申込順とする─と要領を改正した。これに対し原告側は、駐車場は「区分所有法」に定めた共用部分にあたるうえ、住民の4分の3以上の賛成がない決議は無効だと訴えていた。
 判決で長谷裁判官は、駐車場は共用部分と認めたうえで「毎年抽選していたものを、現在の駐車場利用者に優先権を認めるのは公平でない」と判断を示した。

ニュースの目

駐車場不足とマンション自治

 このマンションでも、当初は、車をもつ人は今ほどではなく、駐車場にも余裕があったのかもしれません。毎年抽選を行い1年交替で駐車場所をふりつけるやり方で、いっこうに支障のなかった時期もあったことでしょう。
 しかし近年、車の増加に伴い、駐車場の確保は多くの人びとにとって切実な問題となってきています。しかも平成3年(1991年)7月より車庫法が改正されて、青空駐車に対する規制が一層きびしくなるとともに、マンションの駐車場問題はさらに深刻なものとなってきました。
 さてこのマンションでは、昭和61年(1986年)9月、管理組合の臨時総会を開いて、当時駐車場所を使用している18名に対しその使用を恒久化する決議を出席者の過半数で可決しました。これに対し、来年の抽選に期待していた住民、将来の駐車場所の確保を危惧する住民などが反発し、とうとう裁判にまでなったものです。
 駐車場が足りないマンションの中には、足りない分を外部で借り、その費用をマンション内の車所有者全体で補助するなど工夫しているところもあります。また話合いで2階建ての駐車場の設置工事をしているところもあります。しかしこのマンションでは関係者の話合いは抜きでした。その年に抽選にあたって利用権をもった人たちが中心になっていわばゴリ押しをした(現在の利用者が転居し又は辞退しない限り半永久的に駐車場を利用することを認める決議を過半数で成立させる)ことがトラブルの直接の原因です。しかし裁判にまでいったことには、(1)マンション自治の未熟さと、(2)マンション法(建物の区分所有等に関する法律)が駐車場などの専用使用権の規定を欠いている点があげられます。
 一時的可変的な専用使用権を与える(たとえば1年ごとに抽選にする)ことは、共用共有部分(マンションの住民にとって駐車場敷地はこれに該当)の管理として過半数で行うことができますが、継続的・半永久的に与えるとなればそれは共用共有部分の変更や処分の領域となり、4分の3(民法の「全員」をマンション法が「4分の3」に緩和)の同意が必要というのが多数説です。
 また、たまたまその年に抽選であたっていた人を優遇するのではなく、一度全員をご破算にして、改めて抽選や申込順で半永久的に使用できる人を決めるというのであれば、今の使用者も落選するリスクがありこのような決議が敢行されたとは思われません。決議の背後には、強い既得者の「居座り」への志向があったのでしょう。たまたまその年の使用権を得た人が結束して使用の恒久化をはかったところに大きな「不公平」があり、このことを判決に指摘されるまでもなく、マンションの住民自治の枠内で気がつき良識的な話合いがもたれて善処されてほしかったところです。
 さて問題の決議は「駐車場取扱要領」の改訂という形で行われています。現在のマンション法では、マンションの管理規約を定めたり変更したりする場合は、区分所有者全員の4分の3以上の多数決で決められることになっています。今回の裁判では、「駐車場取扱要領」の改訂という形で決められたものとはいえ、その内容は、特別の人たちに半永久的に駐車場の専用使用権を与えるものとして「共用部分の変更」にあたり、改正には4分の3以上の多数決が必要として、単純多数決での決定を無効としたものです。
 駐車スペースが不足するに伴い、安定的に継続的な駐車スペースの確保を望むのは人情です。それだけに、(1)一方で、駐車場について関係者の良識ある利用調整が行われ、(2)他方で、駐車場にかかるルールがマンション法の中にきちんと整備されていくことが望まれます。さらにマンション建設にあたっては必要な駐車場が確保されるように制度や指導を改めていくことが強く期待されます。




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