ニュースの目

〜離婚と税金〜

不動産の分与にかかる思わぬ税金


(平成元年9月15日毎日新聞より)

課税知らずに財産分与――離婚・夫の主張支持

 前妻と離婚する際、2億2千万円余の不動産譲渡所得税が課せられるのを知らずに東京の一等地の土地、建物を財産分与した夫が、「財産分与は思い違いでしたことなので取り消したい」と前妻を相手に所有権移転登記の抹消を求めた民事訴訟の上告審判決が14日、最高裁第一小法廷で言い渡された。大内恒夫裁判長は「思い違いがなかったら分与をしなかった可能性がある」として請求を棄却した1、2審判決を破棄、東京高裁に審理のやり直しを命じた。
  訴えたのは東京都板橋区、元銀行員Aさん(52)。訴えられたのは新宿区、B子さん(50)。
 1、2審判決によると、AさんとB子さんは昭和59年11月、協議離婚した。この際、B子さんが「自宅に残って子供を育てたい」と言い出し、AさんはJR市ケ谷駅近くの宅地約700平方メートル(当時の時価約8億円)と建物をB子さんに財産分与する手続きを取った。
 ところがAさんは離婚後、譲渡所得税がかかることを知り、「財産分与は課税のないことが前提で、分与契約は錯誤に基づき無効」などとして、とりあえず建物だけの所有権移転登記の抹消を求めて提訴。1、2審とも「財産分与に伴う不動産譲渡が課税対象となるのは、判例上確定した解釈」とAさんの主張を退けていた。


  通常、離婚により相手方から財産をもらった場合、それが慰謝料としてであれ財産分与としてであれ、もらった側に贈与税がかかることはありません。この場合、もらったといっても相手側から贈与を受けたものではなく、相手方に対する給付請求権(慰謝料などの支払を求める権利)に基づく給付を受けたものと解されます。よって、通常はもらった側は贈与税を払う必要がないことになります(もっとも例外的に贈与税がかかる場合もあります。たとえば、 離婚による財産分与がその夫婦の協力によって得た財産の価額やその他すべての事情を考慮しても、なお多すぎる場合、その多すぎる部分には贈与税がかかります)。
 それでは離婚に際して財産をわたした側はどうでしょうか。わたした財産が現金や有価証券であればわたした側にも何も税金はかかりません。しかしご注意下さい。やりとりした財産が不動産であった場合、もらった側はそこそこの不動産取得税を納めるだけですみます。しかし、わたし た側は、その不動産の譲渡につき、相当の額の、ときにはきわめて高額の譲渡所得税を支払わなければならないのです。わたした側が税金を支払わなければならない理由は、一寸わかりにくい理屈ですが(昭50最高裁判例によれば、譲渡所得税は、資産の値上がりによる増加益を所得としてその資産が所有者から他に有償で移転する機会をとらえて課税する税金。たとえば財産分与としてなされた資産の譲渡は、分与義務の消滅という経済的利益を譲渡者に生ずるから、すなわち有償譲渡であり、課税すべきである、と解する)、いずれにせよ、課税を知らずに不動産を財産分与して離婚した場合には、あとで不動産をわたした側にしっかり税金がかかっていくことを注意しておくべきです。
 しかしこのニュースの例のように夫にはお金はないが妻に住んでいる家や土地をわたして協議離婚しようとする夫婦のケースにおいて、税金が障害になって妥当な財産分与が妨げられるのはおかしい、という意見も一方で少なくありません。それはともかくとして現実には上の取扱いがなされていますので注意する必要があります。



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