これは、消費税が導入された当時、平成元年4月1日号(第40号)に掲載された記事です。現在も、仕組みそのものは変わっていません。今回の消費税率アップの記事の参考にご覧下さい。

物・サービスに一律3%の課税
63.12.30消費税法の公布・施行
元.4.1消費税の実施

消費税に不満をもっている人が圧倒的に多い状況(平成元・3・28朝日新聞によれば82%が不満)のなかで、平成元年4月1日、消費税が実施されました。「新税はつねに悪税」とよく言われますが、そうした一般心理的な問題にとどまらず、やはり消費税には早晩手直しの必要な、さまざまな問題点がありそうです。今回は新税制の最大の柱のひとつ、消費税のしくみについてとりあげましょう。
消費税は、物・サービスをとわず、国内で事業として行われる取引のすべてに課税されます。物とは、有形・無形(電気やガスなど)に加え著作権などの権利も含まれ、これらの売買取引(譲渡取引)はもちろん、賃貸借取引も対象となります。またサービスは、運輸・運送や工事、各種手数料など一般的なものにとどまらず、弁護士報酬のような専門的な知識の提供も含まれます(贈与・寄付など無償の取引や、消費者が家を売った場合のように事業として行っていないものには、当然消費税はかからない)。
わずかに例外として、土地や医療費・授業料など表1のようなものが除外されているにすぎません。しかし現実には、郵便切手を買うのは非課税でも郵便を出すのは課税、商品券を買うのは非課税でもその商品券で品物を買うのは課税、医療費は非課税でも薬代は課税、土地取引は非課税でも建物は課税等々、課税されない範囲は実にせまいものといえます。
表1.非課税とされた取引
<当初の非課税枠>
(1)土地の譲渡・貸付け
(2)国債・社債・株など有価証券等の譲渡
(3)利子、保険料など
(4)郵便切手・印紙等の譲渡
(5)商品券・図書券・旅行券・プリペイドカードなどの譲渡
(6)国・地方公共団体の手数料
(7)外国郵便、外国為替など
(8)公的な保険医療や療養など
(9)身体障害者施設や保育所などの事業
(10)学校の授業料及び入学・入園検定料
<平成3年改正で追加されたもの>
(11)第二種社会福祉事業等と身体障害者用物品
(12)入学金・施設設備費等と教科書代
(13)出産費用
(14)住宅の貸付け(家賃)
(15)埋葬料・火葬料
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税率は一律3%(ご存じのように、平成9年4月1日より5%)。ただし自動車についてのみ、当面3年間は6%、その後3%という措置がとられています(というわけで、現在は自動車も5%)。
といっても、この消費税の導入によってあらゆる商品・サービスが値上がりしたわけではありません。たとえば、自動車、家電製品、宝石・貴金属や毛皮、高級酒・洋酒、電気・ガス、航空運賃などは現実に値下がりしました。これは消費税の導入に伴って、他の間接税である物品税・電気ガス税・入場税・通行税などが廃止されたほか、酒税・たばこ消費税などが大幅に衣替えしたからです。
税金3%分はすべて最終消費者が支払うしくみとなっています。つまり、製造元→卸→小売→消費者と商品が流通するそれぞれの取引段階で3%分を納める(取引高税という)わけではありません。というのも、こうした制度では取引段階がふえるだけ課税額がつみ重なるのですから、流通段階を少なくすれば税金が安くてすむことは明らかです。そこで大企業が中心になって流通段階を減らすための大規模な産業構造の変革が起こり、独占化が極端に進む可能性があるからです(現実に戦前のドイツでみられた)。
今回導入された消費税の納税のしかたは下図のようになっています。たとえば、消費税導入前の小売価格が1000円の商品なら、その商品について納税される額は全部で3%の30円となりますが、その30円をそれぞれの流通段階で分担して納税するわけです。ですからたとえば、小売業者が、仕入れ値が21円上がったのだからと従来の価格を値上げして1021円にし、さらにこの値段に3%の税をかけて売ろうとするなら、これは明らかな便乗値上げといえます。なぜならその小売業者はけっして3%分すべてを納税はしないからです。
[以上、現状では、すべて3%を5%と読み替えて下さい。]
このように税が重ねて加算されるのを防ぐ制度を確実に行うには、きわめて厳密な計算が必要となります。消費税の先進国であるEC(ヨーロッパ共同体。ECでは付加価値税とよばれる)では、そのため、各取引ごとに伝票を付けることが義務づけられています。この伝票には「取引の年月日、売手・買手の住所・氏名、商品名、税抜き価格、税額」が明記されており、その伝票さえ集めれば、消費者はいくら税を負担したかが、事業者はいくら税を納めればよいかがまちがいなく計算されるわけです。
ところが日本では、納品・仕入れのたびごとに伝票をきるのは煩雑であるとの事業者の批判があり、また現実に、中小小売業者などでは日常レジスターを使うことさえ十分普及していないありさまです。ECのように付加価値税導入の前から何らかの消費課税がすでに行われていて下地ができていた国々ならともかく、 まったく何の準備もないまま、昭和63年の12月末に公布施行、平成元年4月1日に実施という慌ただしさです。そこで、日本独自の簡便な方法がいくつか用いられることになりました。
まず、納税の基礎となる伝票の義務づけのかわりに、帳簿に基づいて課税が行われることとなりました。この帳簿は、一定の記載事項を充足させていれば、商業帳簿でも所得税や法人税用の帳簿書類でもかまいません(7年の保存義務。平成9年4月1日からはこの帳簿に加え請求書も保存を義務づけ)。この帳簿により、売上げから仕入れを引き、その差額に3%(現在は5%)をかけたものが事業者の納税額となります。といっても、売上げを出すには総収入から受取った利息・保険料・配当、土地や有価証券の売却利益などの非課税分を引く計算が必要ですし、仕入れを出すには単なる経費とは異なり、支払給料や利息・減価償却費用を引く必要があります。さらにそれぞれについて税抜き価格を計算する必要もあり、取引ごとに伝票を付ける手間と比べて格段に簡素化されたとはいいがたいようです。
そこで、この煩雑さを免れるために、売上高5億円以下の事業者(全事業者の96.7%)については簡易税率を選ぶこともできることとしました。これは、複雑な計算を排して、とにかくマージン率を一律20%(卸売業は10%)と法律で定め、これに基づいて納税額を決めるやり方です。具体的には売上額に20%をかけた金額の3%を納税することになり、結局、売上げの0.6%(卸売業では0.3%)が税金として納められます。いわばほとんど根拠のないどんぶり勘定による納税を法律で認めたわけです。
[その後、簡易課税の対象は売上高5億円以下から、4億円以下に、さらに平成9年4月1日からは2億円以下に引き下げられた。さらにマージン率も当初の2種類から4種類、そして現在の5種類と増やされている。]
さらに売上高3000万円以下の事業者については免税の措置がとられました。といってもその事業者が仕入れる課税商品はやはり値上げされるわけなので原価が割高となり、結局その分の値上げはやむを得ません。また、免税業者が課税業者となることを選択することもできます。この場合、その年の売上げがやはり3000万円以下となれば、集めた税金を納める必要はありません。
また売上高3000万円から6000万円の間の事業者については、限界控除制度といって、免税点を超えると税負担が一挙に増えるのをやわらげるために、売上げが3000万円を超過する程度に応じ3%よりも低い税率を適用したこととなるような激変緩和措置がとられています(この限界控除制度は平成9年4月1日をもって廃止された)。
このほか、具体的な課税方法をめぐっては業界・商品ごとにさまざま異なっているのは御存知のとおりです。たとえば、税額を価格の中に入れるか(内税)別記するか(外税)どちらの表示方法をとるか、端数処理はどうするか(1円未満を切捨て・四捨五入、10円未満を四捨五入等々)などには特段の定めがありません。そこでこれらの決定のため特別にカルテルを結ぶことも認められています。
消費税がすでに導入されている諸外国の例を見れば、その標準税率は概ね10%〜20%となっています。このことから考えれば3%は確かにうすい税といえましょう。しかし、日本のようにすべて一律に課税というのは少なく、医療や教育に加えて郵便や電話なども非課税、光熱費や食費・書籍などの文化教養費などは0%かそれに近い軽減税率を設ける一方、車や宝石といったぜいたく品やたばこなどの嗜好品には割り増税率を設けるのが、主要国の例といえましょう。
ダイヤを買うにも、米を買うにも同じ税率というのでは何としても納得できないと同時に、こうした同一税率にしてしまうと、税率の引上げが容易になされてしまうからです。というのも、複数税率にしておけばひとつを上げると残りの税率との兼ね合いがむずかしくなり自然と相互牽制がはたらくのに対し、一律課税ではそうした規制がききません(デンマークでは当初10%であったものが今日22%にもなった)。
そして何より、消費税のように誰にでも一律に課税することは、慎重に扱われない限り、貧しい者にとっては重く、富める者には軽い、一見公平・内実不公平な税となるでしょう。税金の大切な役割のひとつに所得の再分配という仕組みがあります。お金のある人にその分高い負担を持ってもらい、それを社会福祉などを通じて公的に社会的弱者に再分配しようという考え方がこの所得の再分配といわれるものです。その典型が累進課税となっている所得税であり、ぜいたく品にかけられていた物品税です。新税制では、その性質上逆進的な消費税の導入とともに、所得税の累進化の緩和、物品税の廃止等の改革を行いました。これによって国庫財源の確保と中高所得層の消費誘発による経済活動の活発化は期待できても、低所得の社会的弱者の経済生活は実質的にも心理的にもなかなかにきびしいものとなるでしょう。
消費税のような間接税の場合、税を負担する者と税を実際に税務署に納める者が異なっています。それだけにより確実な課税・納税体制が必要といえましょう。もし消費者が支払った税が確実に納税されていないなら、もし税が現実には支払われていないのに事業者が納税しなければならないなら、こんな不合理なことはないでしょう。
ところが簡便さを求めるあまり、帳簿方式にしろ、簡易税率にしろ、税がそのままきちんと課税・納税される保障はありません。消費者は便乗値上げを心配し、下請けなどの事業者は消費税を自腹を切って負担するしかないと心配しています。そのうえ、表示方法も一定でなくどれだけが税として支払われたのかすらわからないありさまです。これでは、確実な税でないことだけが確実にいえるといったありさまです。
これだけ大規模な税制の変革をするには国をあげての十分な論議、そして周到な準備が必要なのは明らかです。今回は制度の採用と定着のみを急ぐあまりそのどちらの手続きもが欠けており、税負担と納税の照応の不徹底、非課税とすべきものに対してまでの一律課税の行きすぎなど改善すべき問題を先送りしたままの見切り発車となりました。


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