<これは昭和63年11月16日施行された法改正について「そよ風」38号に掲載されたものに加筆したものです。その後、平成13年(2001年)6月1日より、訪問販売法「特定商取引に関する法律」(特定商取引法と名称が改められました。>

訪問販売法等に関する法律とは??
サービス取引・現金払いにもクーリングオフが適用されます



セールストークにごまかされないで!


 下の表を見て、ほとんどの方は何度かこうした商法で声をかけられた心当りがきっとおありでしょう。あるいは実際に身近でトラブルにまきこまれている方をご存知ではないでしょうか。これ以外にも、セールスマンが長時間いすわったり、しつこいセールス電話がかかってきて困った経験をおもちでしょう。もともと買う意思はなかったのに、いつのまにか契約してしまっていたなどという話はけっして他人事ではありません。

たとえば──こんな商法にはご用心!!

★かたり商法
 消防署の委託で…と消火器を売りつけたり、NTTの者です…と電話機を売りつけるなど、公機関・大企業の名をかたって信用させる。
★ホームパーティー商法
 自宅で商品紹介あるいは料理講習会を開きませんかなどともちかけ、近所の主婦を集めて、高価ななべや下着・健康食品の契約を結ばせる。
★キャッチセールス
 路上でアンケートなどと称して目的を隠して声をかけ、喫茶店や営業所に連れ込み長時間にわたって勧誘し、化粧品・健康食品・会員権などを売込む。
★アポイントメントセールス
 電話などで突然「あなたが当選しました」とウソをついて呼出し、英会話教材や書籍・会員権を売りつける。ときにはデートを装って近づき高価な和服を買わせることもある。
★士(さむらい)商法
 人の向上心につけこみ、劣悪あるいはでたらめな資格取得講座に誘う。あいまいな返事をしているうちに登録したと称して入会金を請求してくる。別名資格商法。
★霊感商法(開運商法)
 不幸が続くのは…縁遠いのは…と弱みにつけ込み不安がらせ、霊力のあると称する高価なつぼや印鑑・多宝塔などを売る。
★SF(催眠)商法
 安価あるいは無料の商品でつって会場の雰囲気を異様なほど作り上げ、最後に羽毛布団や健康機器など高額商品を売りつける。
★インチキ内職商法
 この講習を修了すれば有利な内職の口が…ともちかけ、受講料をとったうえ教材・器具などを売りつけ、そのあと一切内職紹介もしない。
★利殖セールス
 「短期で必ずもうかる」と専門知識のない人を商品の先物取引などに誘い込み、多額の証拠金支払いのドロ沼にひきずりこむ。
★ネガティブ・オプション
 頼んだおぼえもないのに一方的に本や商品を送りつけ、代金を請求してくる。
★マルチまがい商法
 「いいもうけ話」として、ネズミ講のように次の人その次の人と紹介すれば多額の手数料(勧誘料など)が入るともちかける。必ずもうかるのは最初の少数の人に限られ、被害だけは必ず広がる。

 訪問販売は、家にいながらにして買物ができるという利便性がある一方、消費者がくつろいでいる生活の場に突然プロのセールスマンがやってくるわけですから、慎重な買物の判断も鈍りがちです。あの手この手でやってくる悪徳商法から身を守るために、まず最低限の法知識を身につけましょう。ここでは、「訪問販売等に関する法律(訪販法)」(平成13年6月1日より、名称も「特定商取引に関する法律(特定商取引法)」と改められました)について見ていくことにしましょう。

キャッチセールス・アポイントメントセールスも規制対象に


 訪販法は昭和51年に制定された消費者保護のための法律です。ここで規制されるのは、訪問販売・通信販売・マルチ商法など非店舗販売が対象で、平成8年11月には電話勧誘販売(くわしくはそよ風84号)がこれに付け加えられました。こうした特殊な販売形態は昭和40年代に急速に拡大し、トラブルが多発したためこの訪販法が制定されました。その後、さらに改正をへて、平成11年12月1日より、エステ・語学教室などの特定継続的役務についても盛り込まれました(くわしくはそよ風102号参照)。これらは、たとえ店舗に出向いて契約した場合でも訪販法の対象となります。<そして、平成13年(2001年)6月1日より、内職・モニター商法をも規制の対象とすることになり、同時に、名称を「特定商取引に関する法律」(特定商取引法)と改めました。くわしくはそよ風111号参照
 しかし、法制定後も、被害はあとを絶たず、法の目をかすめて手口はますます巧妙となり、被害額も多額化しているのはご存知のとおりです。警察庁の「生活経済犯罪白書」によれば、昭和61年の利殖商法の摘発は53件・451億1700万円、訪問販売については86件・135億3000万円にのぼっています。刑事事件に至らない大多数のケースを考えると、被害額は膨大なものといえましょう。
 そこで、昭和63年、訪販法の大規模な改正が行なわれ(昭和63年11月16日より施行)、法の目がさらにきめ細かく整備されました。
 まず、新たな悪徳商法に対処するため、たとえ営業所で申込・契約をしたときであっても、「訪問販売」として法の適用を認める場合を定めました(法2条1項2号)。悪質な業者は、とにかく営業所に連れ込むことで訪販法の適用を逃れ、長時間にわたり説得し契約をとりつけるということが往々にしてあります。この改正で、路上などで呼びとめるキャッチセールスや、電話・郵便などで呼び出すアポイントメントセールスも法の対象となることが明示され、ようやく規制が届くようになりました。

貴金属・会員権、その他サービスへも規制拡大


 注意していただきたいのは、訪問販売・通信販売・電話勧誘販売については、売られているすべてのものが法の対象とされるわけではなく、実際にトラブルを引き起こしている商品が指定され(法律施行令別表第1〜3)、それらについて規制されるしくみとなっていることです。現実には日常品のほとんどすべての“モノ”(55種)は含まれています。<平成21年12月1日から,いよいよ”モノ”と”サービス”の指定制が廃止され,原則としてすべての商品・役務が法の対象となりました(くわしくはそよ風162号参照)>
 昭和63年の改正で、新たに次の表のようなものが追加指定されました。まず“モノ”では、日常品のみならず、豊田商事事件などで多額・多数の被害を出し問題とされた金など貴金属も広く対象となりました。さらに“モノ”に止まらず、ゴルフ会員権のような“権利”(3種)や、各種の“サービス”(17種)も規制されることとなったのが特徴です。近年、工事や講習などの役務(=サービス)のトラブルが続発しているためです。たとえば、従来の化粧品にかわってエステティックサロンが、英会話教材にかわって英会話サロンや海外旅行割引などの会員サービスがトラブルの主流となってきています。

昭和63年新しく追加指定されたのは…(施行令別表第1〜3)
商品 ●犬・猫・熱帯魚などの鑑賞用動物
●庭石・墓石その他石材製品
●れんが・かわら・ブロック・建築用パネル
●眼鏡・補聴器
●ファクシミリ・ワープロ・コピー機など
●ねずみ等有害動物を駆除する装置
●障子・雨戸・門扉その他建具
●乗車用ヘルメット
●真珠・貴石・半貴石
●金・銀・白金その他貴金属
権利 ●保養施設・スポーツ施設の利用権
●語学レッスンを受ける権利
サービス ●庭の改良
●ワープロ・電話機・衣服・楽器等のリース
●保養施設・スポーツ施設の利用
●住居・換気扇・浴槽などの清掃
●エステティックサロンなど美肌・減量等の施術
●墓地・納骨堂の使用
●眼鏡・かつらの調製、衣服の仕立て
●住宅の外装、浴槽・電気機器・電話などの取付・設置
●結婚・男女交際の紹介
●家・門・換気扇・ふとんなどの修繕・改良
●人名録・新聞・雑誌などへの氏名・経歴の掲載
●家屋における有害動物・植物の駆除
●住宅への入居申込手続きの代行
●技芸・知識の教授
※ その後も指定商品・権利・サービスは続々と追加されています。
  是非,施行令別表でお確かめください。

会社名・商品名を確かめ、必ず書面の交付を要求 


 では、これらの商品・権利・サービスについて訪販法ではどういった規制があるのでしょう。
 訪問販売では、まず、業者の氏名・名称、売ろうとする商品等の種類を明らかにすることを義務づけています(法3条)。「アンケートを」とか「無料進呈」とか売る意図を隠して近づくやり方には要注意です。
 さらに申込を受けたときや契約を締結したときには、一定の書面を交付することが必要とされています(法4・5条)。この書面には、商品の価格や支払方法、販売業者の氏名・住所・電話番号、担当販売員の氏名、当該年月日、商品名、製造業者名等のほかに、クーリングオフ(後述)や解除に関する事項も明記されていなければなりません。たとえ現金払いでその場で商品やサービスを受け取ったとしても同様です。これまでも現金払いをしてしまうと、まともな領収証も出さず、苦情や問合せの連絡先すらわからない事例が多々みられています。よくお確かめ下さい。もしこの書面を交付しなかったり、記載内容にもれや誤りがあれば、100万円以下の罰金となります(旧法23条=新法72条)。

ウソをついたり威迫して売りつければ懲役・罰金 


 セールスマンの禁止行為ときびしい罰則も、昭和63年に新たに定められました。契約時や解約時に判断に影響を及ぼすような重要なことについてウソを言ったり、Sるいはそれら重要な事実を故意に言わなかったり、威迫して困らせ半強制的に契約をとるようなことは禁止され(旧法5条の2=新法6条)、これに違反すると2年<平成21年12月より”3年”>以下の懲役または300万円以下の罰金が科されます(併科あり。旧法22条・新法70条)。
 また、(1)契約・解約による債務をいつまでたっても履行しなかったり、(2)契約・解約の判断に影響を及ぼす重要な事実を故意に言わなかったり(3)しつこく迷惑なほど勧誘したりあるいはクーリングオフを妨げたり(4)老人その他判断力の不足に乗じたり(5)客の知識・経験・財産からみて不適当な勧誘をしたり(6)契約書面に年齢・職業など虚偽の記載をさせたり(7)勧誘のため公共の場でつきまとったり進路に立ちふさがったり(8)クーリングオフができないようにその場で商品を使わせてしまうなどの行為(施行規則7条)があれば、主務大臣は善処を指示し(旧法5条の3=新法7条)、それに従わない場合は100万円以下の罰金が科されます(旧法23条=新法72条)。
 これら違反がはなはだしいときは、1年以内の期間を限り、業務の全部または一部停止を命ずることもできます(旧法5条の4=新法8条)。

現金一括払いにもクーリングオフが適用


 さて、契約してしまったあとでよく考え直してみて、やはりやめたいと思うなら、クーリングオフという制度があります(旧法6条=新法9条)。これは、消費者を保護するという立場から、一定の期間内は契約を否認できるというもので、撤回の理由などは一切必要ありません。申込あるいは契約の書面を受け取った日(これらの書面にクーリングオフについての記載が義務づけられている)からかぞえて8日以内であれば自由に解除できます。
 ただしこの撤回は書面で行なう必要があります。後のトラブルを防ぐためには内容証明郵便(参考文例をご覧ください)にされるほうが効果的でしょう。また、一部商品については一度使用してしまえばクーリングオフがきかないものもあります。その旨は交付書面に赤字・赤枠で記載されているはずです(規則6条2・3項)から、よくご確認下さい。
 なお、現金一括払いについても、昭和63年の改正で、クーリングオフの対象となりました。現金取引による被害が増加しているのに加え、訪販法の適用を逃れるために強引に預金を下ろさせるなどの被害も出てきたためです。ただし、3000円未満の少額取引についてはクーリングオフの対象とされませんでしたのでご注意下さい(令6条)。
 このクーリングオフは、消費者がその旨の書面を発したときから効力をもつものとされます。もし代金をすでに支払済なら業者はこれを速やかに返還する義務がありますし、商品の返送などの費用もすべて業者の負担となります。
 また、法の対象である“サービス”や“権利”にも、当然クーリングオフが適用されます。この場合、すでに受けたサービスについて代金を支払う義務はありません。また家の外装工事などのように現状が変更されてしまっていたならば、もとの状態に戻すように請求することもできます(費用はもちろん業者もち)。このため、サービス・権利についてはクーリングオフが有効な期間中(8日間)は業者も工事などのサービスを提供しないことも考えられますが、トラブルを防ぐためとあれば致し方ないといえるでしょう。
 もし契約で、「クーリングオフは認めない」あるいは「放棄する」等の一項があったとしても、消費者に不利なものは無効となりますのであきらめないで下さい。
 また、クーリングオフ期間以降の中途解除の際の違約金の額にも制限がありますし、代金支払いが遅延した場合の遅延損害金にも制限がもうけられていますので、不当な支払要求をうけたときもひるむ必要はありません(旧法7条=新法10条)。
<なお,平成16年11月11日より,クーリングオフを妨害する行為があったときには,たとえクーリングオフ期間がすぎていてもいつでもクーリングオフできるなど,契約の解除・取消が大幅に広げられています(くわしくはそよ風133号参照)。>
<また,平成21年12月1日からは,訪問販売で通常必要とされる量を著しく超える量を契約させられた場合(過量販売)には,1年間クーリングオフができると定められました。新法9条の2(くわしくはそよ風162号参照)>


通信販売にはクーリングオフはありません


 ただ、通信販売の場合にはとくにクーリングオフによる保護はないことにご留意下さい。
 通信販売についても、申込・契約時にくわしい提供条件を明記する義務はありますし(旧法8条=新法11条)、申込を受けたときの承諾・不承諾の通知義務もあります(旧法9条=新法13条)。
 また、昭和63年からは誇大広告の禁止も盛りこまれました(旧法8条の2=新法12条)。たとえば、「これを飲めば必ずやせる」など効能・性能を著しく誇張したり、「文部省推薦」などと国や地方公共団体の関与をにおわせたり、原産地や製造者名をいかにも一流のもののようにかたることなどがこれに当たります(旧規則9条の2=新規則11条)。
 誇大広告については100万円以下の罰金が科されるほか(旧法23条=新法72条)、著しい悪徳業者については、訪問販売と同様、業務停止命令がなされることもあります(旧法9条の3=新法15条)。

苦情は訪問販売協会・通信販売協会へ


 こうした法的規制の強化、さらには消費者の自覚を促すと同時に、業界自身も自主的な努力を進めるよう公益法人の設立が規定されています(旧法10条の2、10条の5=新法27・30条)。
 これまでも業界は独自に、日本訪問販売協会(昭和55年設立)や日本通信販売協会(昭和58年設立)の社団法人を作って、倫理綱領を定めるなどトラブル予防に努力してきました。しかし会員は業者の約半数にすぎず、いわゆるアウトサイダー業者(約1500社といわれる)は毎年、現れては消え、また消えては現れる有り様で、こうしたアウトサイダーを中心に悪質業者があとを絶たない現状です。
 昭和63年の法改正で、従来の両協会を公益法人として法的に位置づけるとともに、苦情の解決にあたらせることとなりました(旧法10条の4、10条の7=新法29・32条))。

苦情・相談はここへ
訪問販売協会 東京:03(3357)6019
大阪:06(6946)9654
名古屋052(931)5889
福岡:092(575)2798
通信販売協会 03(3434)0550
その他各自治体の消費生活センターや、各弁護士会の被害救済センターへ

一方的に商品が送られてきたら保管義務は14日間


 訪問販売や通信販売とは別に、本や毛糸やその他商品を申込もしないのに一方的に送りつけてくることがあります(ネガティブオプション)。たとえ「ご不要の場合はご返送下さい。ご返送なきときは承諾したものとみなします。」等と書かれていて請求書が送られてきても、代金を支払う義務がないのはもちろん、商品返送の義務も一切ありません
 契約は申込とこれに対する承諾で成立します(民法526条)。業者の申込(商品送付)に対して消費者が沈黙を守っている限り承諾とはみなされず、返送等の必要もありません。送付があった日から14日間承諾をせず、また業者も商品の引取りをしないなら、もはや業者は商品の返還請求もできなくなりこちらで自由に処分することができます(訪販法18条=特定商取引法59条)。ただしこの期間中は、自分の所有物と同じ程度にこの商品を保管する義務があり、業者の引取りには応じなければなりません。もしこちらから、不要なので引取るよう業者に請求すれば期間はもっと短縮され、7日間の保管義務のみとなります。
 ただ、最近、代金引換郵便を悪用する業者が出てきていますのでご用心下さい。商品が配達されたときに、家族の誰かが頼んだのかとうっかり思い込んで郵便局員に代金を払ってしまいますと、もはや返品も返金もできません。不審なときはよく確かめて、おかしいときには受取りを拒否することです。

過信は禁物! 弱さと油断が狙われる! 


 悪徳商法が第一に狙うのは、情報力の低下する老人、知識が不十分な若者、購買意欲の高い主婦といった人々です。しかし利殖商法では、現に大学教授や地方議員、第一線の商社マンなども被害にあっています。生半可な知識で「私は大丈夫」と過信するのは禁物です。セールスマンはその道のプロとして、消費者の心理・行動をくわしく分析し、仮想問答・セールスマニュアルなど徹底して教育されています。
 何よりも契約は慎重に。そしてだまされたと思ったらけっしてひるまず、締結後もクーリングオフを十分活用するなどけっしてあきらめないことです。
*       *       *

 また被害がさらに続くようなら、業者の届出制の導入(現在は訪販協会への加入も自由)・指定商品制の廃止・中途解除権の認可・交付書面にクーリングオフ用ハガキの添付を義務づける等々、これまで見送られてきた一層の法規制強化も考慮される必要があるでしょう。



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