
協 議 ・ 同 意
〜法令用語と日常用語〜

A(市民) 法令用語と日常用語とで意味にちがいがある場合をいくつか御説明いただきたいのですが。
B(法律家) そうですね。「協議」もその例にあげられるでしょうね。
A 「協議」というと相談するということですか。
B はい、日常用語としての「協議」は他人と相談するといった軽いものをいいますが、法令用語としては単なる相談ではなく、十分に意見を交換したうえで、両者の意思の合致する場合のことをいうのです。
A 両者の意思の合致まで要求するというのならば、それは「協議」ではなく「同意」ではないのですか。法令用語においては「協議」と「同意」は同義語なのですか。
B そう真正面からきめつけられては困ります。たしかに、「同意」という用語も法令上使われますから、「協議」と「同意」は同義語かといわれれば、それは違うといわざるを得ません。しかし、日常用語のように「協議」は単なる相談をすることをいうのではなく、相手方の納得が得られるまで両者の間で十分に意見を交換し合って、その上で行為を行うということであって、その過程で大体の場合は意向が一致してくることとなるのです。ただし、ぎりぎりのところでは、「協議」は「同意」とは違うから差がでてくる場合もあります。
A ところで「協議」という法令用語は、具体的にいうとどんなところで使われるのですか。
B 法令の中では、大変よく使われることばなので、その使用例は沢山ありますが、いたって身近な例をあげるなら、民法の協議上の離婚の規定があります。民法763条では「夫婦は、その協議で、離婚をすることができる」とあります。この場合には離婚について単に相談すればいいのではなく、離婚することについて意見が一致しなければだめなのですから、意見の一致が必要である場合の例にあげることができましょう。
A たしかに、このような場合には意見の一致が必要でしょうね。しかし、「…するときは、…と協議しなければならない」という文言があるときに、相手方が不同意なら一切その措置をとることができないことになるのですか。
B その場合でも意見が一致するようにぎりぎりまでの努力が要求されますが、さきほどもいったように、「同意を得なければならない」 という場合とは違うので、最終的には相違が出てくることがあるかもしれません。ただし、この場合にも、規定の内容から、相手方が合意してくれないと一方的に措置をとることはできないような場合もありますから、そのときはやはり意見の一致が要求されることになるということがいえましょう。たとえば、「各省各庁の長が、国有財産の所管換を受けようとするときは、当該財産を所管する各省各庁の長及び大蔵大臣に協議しなければならない」(国有財産法12条本文)という規定についても、「当該財産を所管する各省各庁の長及び大蔵大臣」との間で意見が一致しなければ、一人で勝手に国有財産の所管換を受けることはできませんから、やはりこの場合にも意見の一致が必要だということができましょう。
もっとも、「協議」にも、規定の内容からして、両者の意思の合致まで要求されてはおらず、単に相談をすればいいと解される場合もしばしば見られます。
A それは、文言上から判断できるのですか。
B はい、分かりますよ。その第1は、法令上「協議」すべきことをまず規定したうえで、次に「協議」不成立の場合の段階の規定が置かれている場合です。このようなときの「協議」には、当然のことながら意見の一致までは含まれておりません(例、地方自治法253条1項・2項)。
第2は、同じ条文の中で、「協議」と「同意」とを使い分けている場合です。この場合にも、両者の違いからして、当然合意まで要求されてはおりません(例、都市計画法32条)。
第3に「協議すれば足りる」と表現している場合で、この場合には「協議しなければならない」と比較して、合意の成立まで要求しているとはいえないと解されています(例、道路交通法80条1項)。
このように、しょせんは個々の規定の内容との関連からその結論が出てくるものですが、「協議」は日常用語の場合とは異なって、法令上は単なる相談ではすまないとされることが多いということをよく覚えておいて下さい。
田島信威(参議院法制局長)


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