<この記事は、1988年(昭和63年)10月1日号(「そよ風」第37号)に掲載された記事に、若干加筆したものです>



国際協力で地球を守れ!
ガンの多発・大気の温暖化を招く
フロンガスの規制へ
オゾン層保護法(昭和63年5月20日公布)




 今年(1988年=昭和63年)の夏は非常な冷夏となりましたが、世界各地からも異常気象のニュースが相次いでいます。未だにはっきりした原因はわからないものの、この地球環境を破壊している張本人、しかも最も有力な犯人の一人がわれわれ人間自身であることは確実なようです。今回制定された法律も、こうした人間の恐るべきあやまちを国際的な協力によって少しでも是正しようとする一環です。

有害紫外線から生物を守る“オゾン層”に穴が!

 1970年代の後半、大気中のオゾン(O3)量が異常に減っていることが発見されました。
 地球を包む大気は、右図のように対流圏・成層圏・中間圏の3つの層に大別されます。雲ができ地上に雨をもたらすのは対流圏内のことで、成層圏(ジェット機はここを飛ぶ)は年中快晴です。そしてこの成層圏内で、オゾンは上空25km〜50kmにわたりオゾン層を形成しています。
 このオゾン層こそ、生物の生命を有害な紫外線から守るバリアーなのです。オゾン層が形成されていなかった古代、地球上の生命はこの有害な紫外線が直接届かない海の中で誕生しました。そしてオゾン層の形成のおかけで、生物は海から地上へ進出・進化できたのです。もし、波長の短い有害な紫外線(UV−B)がオゾン層によって吸収されることなく容赦なく地上にふりそそげは、皮膚ガンの多発、免疫機能の低下、眼疾患の増加など、人体・生態系に大きな影響が出ることは必至です。
 このオゾンは、上空でこそ広く散らばり層をなしていますが、地上と同じ1気圧・0度の標準状態に換算しなおすと、何と2、3ミリメートルの薄さで地球を覆っているにすぎない、たいへん重要でしかも貴重な物質なのです。そしてこのオゾンを破壊し、オゾン層に穴を開けている犯人が、一般にフロンガスと呼ばれる気体です。
 しかもこのフロンガスは、二酸化炭素とならんで、地表の気温を上昇させる(温室効果)原因ともなると予想されます。人間活動が生み出すこの両ガスによってこのまま温暖化が進めば、農作物被害はもちろん、砂漠化の進行海水温度の上昇、ひいては水没する都市が出てくることまで心配されています。
 では、このフロンガスとはどういうものなのでしょうか。

身近に利用されているフロン──オゾン破壊の犯人

 フロンガスは1930年代、アメリカで冷媒用として開発されました。毒性がなく不燃性で安全、しかも無色無臭。物質的に非常に安定していて、熱にも化学変化にも強く、金属を腐食させることもない。こうした理想的な気体として、フロンガスは広く、身近に、様々な分野で利用されています(その安全性から、直接体内に入る医療用としても活用)。
 次の表をごらん下さい。身近なものでは、ヘアースプレー・殺虫剤・エアコン・冷蔵庫・壁材・ドライクリーニング等々、その範囲の広さには驚くべきものがあります。
表 フロンはどこで使われているか?[数値は日本のもの]
主な用途1986年の使用量
溶   剤
洗 浄 剤
ドライクリーニング用溶剤
映画・テレビ用フィルムの洗浄
電子・精密・光学機器の洗浄
プラスチック製品の洗浄など
51,319トン
(37.4%)
冷   媒 電気冷蔵庫
エアコン(大・中・小規模)
ルームクーラー
化学工業・超低温用など
42,443トン
(31.0%)
発 泡 剤 冷蔵庫等の断熱材
建材(壁材やサンドイッチパネル)
車などのクッション
その他ウレタンフォームの発泡剤
28,956トン
(21.1%)
エアゾール用
噴 射 剤
スプレー用
殺虫剤
塗料用
ヘアースプレーなど化粧用
医療用など
11,910トン
(8.7%)
その他 消火剤
電気絶縁剤など
2,432トン
(1.8%)

 ところが、この「安定」しているという長所がかえって問題となったのです。安定している故に、一度放出されると分解されることなく上昇し、成層圏にまで達してそこで初めて光分解を起こし塩素(Cl)を放出します。するとこの塩素がオゾン・酸素原子と連鎖反応を起こすのです。こうして1個の塩素原子は結局、数万のオゾン分子を破壊するといわれています。
 NASA(アメリカ航空宇宙局)によって、地球の全オゾン量は2〜3%減少していることが観測されました。しかも全世界で消費されたフロンの10%がオゾン層を破壊しはじめたところで、残り90%はまだ対流圏内にあって破壊はこれからさらに一層深刻化するのです。フロンガスの規制は、今や一刻を争う世界的な課題となっています。

凍結→20%→50%と、5年ごとに段階的に削減

 1975年以降、世界各国(米・加・EC・北欧)では、その製造・使用・輸入の規制にのり出しました。そして国連を中心に、世界的な規模で規制・削減するための活動・研究が積み上げられてきました。
 その結果、1985年「オゾン層の保護のためのウィーン条約」が採択されました。主な内容は、1)オゾン層に悪影響を及ぼすおそれのある人の活動を統制するために、締約国は適切な立法・行政措置をとること、2)世界各地で組織的な観測を行い、その情報交換・研究協力を積極的に進めること、3)定期的に締約国会議を開いて監視並びに基準値の見直しにあたることなどです。日本も1988年9月30日に条約の批准をすませましたので、日本については1988年12月29日より発効しました。
 そしてこのウィーン条約の締約国会議によって、具体的な規制内容を定めた「モントリオール議定書」が1987年に作成されました。(1)フロンガスは、当面1986年の水準に凍結→1993年7月より20%削減→1998年7月より50%削減と、5年ごとに段階的に削減していくこと<その後,たび重なる改正が行われて,具体的な目標数値も変更されている。日本については末尾参照>、(2)非締約国からのフロンとフロンを使用した製品の輸入を規制することなどが盛り込まれています。またこの議定書の附属書の中で、規制されるべきフロン(5種)とハロン(3種)の種類が具体的に定められました。日本は1988年9月30日に批准。1989年1月1日からこの議定書は発効しています。


国内ではフロンの製造・生産量は許可制に

 1988年現在、日本はフロンガスの大量生産国であり、国内5社(ダイキン・旭硝子・デュポン・セントラル硝子・昭和電工)で世界の規制対象フロンの1割強を生産しています。こうした中で、ウィーン条約・モントリオール議定書の的確な実施を図るために、「特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律」(オゾン層保護法)が、1988年5月20日緊急に制定されました。

(1) 科学的観測・研究とその公表
 オゾン層の状況・フロン濃度などについて観測し、その結果を公表する(22条)とともに、研究を推進する(23条)。この項目は、公布と同時に同年5月20日から施行。気象庁では1989年度から恒常的な測定システムをしいている。
(2) フロンガスの排出抑制・使用合理化に努める
 当面、現在有るフロンガスを大気中にこれ以上放出しないように努力する。スプレー製品はその性質上どうしても噴射してしまうのでフロンを使用しないよう努めるとともに、溶剤・冷媒など循環して用いられるものはできるだけ漏れをなくし、再生処理や代替品の活用、使用量の節約をはかる(19条)。そのための指針を、環境庁長官・通産大臣<現在は,環境大臣・経済産業大臣>が公表する(20条、1989年1月4日告示)。こうした措置のための機械・設備については助成するほか、税法上優遇する措置もとられた。この項目は、ウィーン条約の日本における発効と同時に、1988年12月29日施行。
(3) 特定フロンの製造等の規制
 環境庁長官・通産大臣<=現環境大臣・経済産業大臣>は条約・議定書に基づいて、生産量・消費量の実績と守るべき基準限度を公表する(3条)。個別製造メーカー(前記5社)は毎年製造予定量などを申請し、通産大臣<=現経済産業大臣>が右の基準限度を超えないようこれに許可を与える(4条,5条の2,7条)。輸出数量は指定(5条)、輸入については承認が必要(6条)など。これらの項目については、モントリオール議定書発効と同時に、1989年1月1日施行。

*         *         *

<なお,わが国では,フロンガスの生産は以下のとおり,すでにその多くが全廃されています。>
1994年全廃ハロン
1996年全廃クロロフルオロカーボン(CFC)
他の完全にハロゲン化されたクロロフルオロカーボン
四塩化炭素
1,1,1−トリクロロエタン
ハイドロブロモフルオロカーボン
2005年全廃臭化メチル
2030年全廃ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)
但し,2020年以降はすでにある冷媒の補充用の生産のみに限定




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