労働基準法ピックアップ(2)

<労働時間の弾力化をめざして>
多様化する変形労働時間制

仕事の忙しさに応じて働き分ける


 仕事が忙しいときには労働時間を長くしてよく働き、ひまな時期には労働時間を短くして休みを集中させる──これが変形労働時間制の基本的な考え方です。今のように第3次産業(サービス業等)が大きな割合を占めるようになると、季節によって、月によって、あるいは曜日によって業務量に大きな差が生じる分野がますます増えています。こうした分野で変形労働時間制を導入すれば、総体としての労働時間の短縮が企業の実情にあった形で工夫しながら進められると考えられます。
 しかし一方、変形労働時間制によって勤務が不規則になることは、とくに家事・育児を現実にうけもっている女性労働者にとっては深刻な問題です。またこれは、残業手当のカットにつながるものだとの批判も出されています。いかに労働者の生活設計を損なわず、しかも合理的でゆとりのある労働形態をつくり出せるのか、1988年(昭和63年)4月から導入・拡充された変形労働時間制はまだ過渡期の段階といえましょう。

原則的な変形形態
1ヶ月以内の変形労働時間制


 1ヶ月以内の一定の期間を平均して週40時間以内の労働であれば、8時間をこえて働く日や40時間をこえて働く週があっても構わないというものです(法32条の2、特例措置が適用される事業所にあっては、週46時間となる)。しかもこれは、就業規則などで定めれば、従来の労働条件を引き下げるものでない限り、使用者が決めることができます。月初や月末などが忙しい職種・夜勤のある職種・月2〜3回の週休制をとっている企業などで広く行われています。
 たとえば、4週間単位で定める場合なら、4週160時間(=40時間×4週)以内であることが必要です。また1ヶ月単位で定めるなら、30日の月は171.4時間(=40時間×30日÷7日)、31日の月は177.1時間(=40時間×31日÷7日)以内でなければなりません。これをこえると、当然、割増賃金(残業手当)の支払対象となります。
 また、あらかじめ就業規則などで法定労働時間をこえて働く「特定の週」や「特定の日」を具体的に決めておく必要があります。業務の都合によって使用者が任意に労働時間を変更するようなことは許されていません。

新しい形態(1)
1年以内の変形労働時間制


 以上の1ヶ月単位の変形労働制に加え、長期の変形形態も認められています。その最長単位は1年です(法32条の4)。とくに季節によって繁閑の差が大きい業種で活用され、各種の週休2日制がとられています。
 しかし、これだけ長期にわたった場合、忙しい時期にのみあまりに過酷な労働時間の集中が起こることも懸念されます。そこで1年以内の変形労働時間制をとるにあたっては、とくに以下のような制限がもうけられています(規則12条の4)。
  1.  変形の単位期間内の平均労働時間は週40時間以内であること。たとえ特例措置に該当する事業所(10人未満の商業・映画演劇業・保健衛生業・接客娯楽業)でも46時間の特例は認められず、週40時間が適用される。
  2.  使用者が就業規則のみで一方的に決定することはできない。労使協定を結び、それを所轄の労基署長に届け出る義務がある。つまり、労使双方の話合いで納得のうえ決定し、しかも書面で確認する。
  3.  労働時間に上限を定める。変形の対象期間を3ヶ月以内にするなら1日10時間・1週52時間を、変形の対象期間を3ヶ月をこえ1年以内にするなら1日9時間・1週48時間をこえて働かせることは、いくら変形だとはいえ認めない。また、連続して働く日数の限度は1週間に1日の休日が確保できる日数とする。
  4.  労使協定などで変形期間の長さや具体的な勤務パターンを定めなければならない。変形の対象期間が3ヶ月以内なら全期間の勤務パターンをあらかじめ決めておく必要があり、それ以上の期間(ただし1年以内)ならいくつかの区分(ただし3ヶ月以上)に分けて最初の区分の勤務パターンとその後の各区分の総労働時間を決める必要がある(ただし、その後の区分についても各30日前までに勤務パターンを具体的に定めること)。

新しい形態(2)
1週間単位の非定型的労働時間制


 以上述べてきた1ヶ月・1年の変形労働時間制は、変形とはいえ、勤務パターン(いつ休み、どの日は何時間働くのか等)がはっきり決められています。これに対し、もっと変動の激しい職種──1日ごとに業務量が大きく変わり、その予測も困難で、前述のような周期的な計画を立てて労働することが不可能な職種のために、非定型的労働時間制があります(法32条の5)。これは、使用者があらかじめ前の週に、次の週の労働時間の予定を各人に知らせることで、1週間ごとの勤務パターンを自在に変えることができる制度です。当然、きわめて不定型の労働となり、労働者にとって重い負担となることが予測されますので、ここでもより厳重な制約がもうけられています(規則12条の5)。
  1.  業種・事業所をきびしく限定する。対象となるのは、小売業・旅館・料理店及び飲食店のみで、しかも常時使用する労働者が30人未満の事業所に限る。
  2.  1年以内の変形労働制と同じく、労使協定を必要とする。またこれを所轄労基署長に届け出る。
  3.  1週間の労働時間は40時間以内とする。たとえ、特例措置に該当する事業所でも(10人未満の商業・映画演劇業・保健衛生業・接客娯楽業)46時間の特例は認められず、週40時間が適用される。
  4.  1日の労働時間に上限をもうけ、10時間以内とする。
  5.  使用者は、その週が始まる前に、各労働者に1週間分の予定を書面で通知しなければならない。もし緊急やむをえない事由でその後変更するときも、前日までに書面で通知しなければならない。
  6.  使用者が一方的に予定を押しつけるのではなく、労働者の意思を尊重して各日の労働時間を定めるよう努めること。

新しい形態(3)
フレックスタイム──自由に時間を創造


 労働者が自分の生活・仕事のリズムに合わせて、出社・退社の時刻を各自で自由に決められるシステムです(法32条の3)。通勤ラッシュの回避・社外活動への参加・育児と仕事の両立等メリットも多く、とくに専門職・研究職での導入がさかんです。
 フレックスタイム制を採用するには、(1)就業規則などに始業及び就業の時刻を労働者の決定にゆだねることを定め、(2)労使協定を結んでさらに具体的な内容を決める必要があります。労使協定で決める内容は以下のとおりです(規則12条の3)。
  1.  フレックスタイム制を適用する労働者の範囲。

  2.  清算期間。つまり、この期間の労働時間を平均し、1週あたり法定労働時間(40時間、特例措置がとられる事業所のみ46時間)内におさまるように計算する単位期間。ただし、最長1ヶ月以内に限る。

  3.  清算期間中の総労働時間(これで1週平均の労働時間も算出される)。

  4.  標準となる1日の労働時間の長さ。

  5.  出退社の時刻をある程度制限するなら、その時刻。たとえば全員必ず出社していなければならない時間帯(コアタイム)や労働者が出社・退社を選べる時間帯(フレックスタイム)の幅。

裁量労働(みなし労働時間制)


 事業場外での労働や研究開発など、業務の性質からいって業務遂行の方法を大幅に労働者の自由(裁量)にゆだねる業務については、裁量労働として労使協定で定めた時間労働したものとみなすという規定があります(法38条の2、4項)。この対象となる業務は以下のとおり施行規則で明確に定められています(規則24条の2、6〜8項)。
(1) 新商品・新技術の研究開発等
(2) 情報処理システムの分析・設計
(3) 記事の取材・編集
(4) デザイナー
(5) プロデューサー・ディレクター
(6) このほか中央労働基準審議会の議を経て労働大臣の指定する以下の業務
    (平9.2.14労働省告示7号)

     (a) コピーライター
     (b) 公認会計士
     (c) 弁護士
     (d) 一級建築士
     (e) 不動産鑑定士
     (f) 弁理士
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 変形労働制は、基本的には労使協定によって具体的に決められることとなっています。つまり、法制度としてはきわめて弾力性をもたせたうえで、各企業ごとの自主性にゆだねる形がとられています。業務の実情にも合い、労働者のゆとりある生活にも貢献できる使いやすい制度とするか、それともいそがしい時期を過酷な労働で無理にしのぐだけの厳しい制度とするか、それは労使双方の努力に問われているといわねばなりません。



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