
児童・縁組・婚姻・離縁・離婚
〜法令用語と日常用語〜

A(市民) 法令を読んでいると法令に用いられている用語がどうも日常用語とかけはなれた意味で使われている場合があるような気がするときがありますが、日常用語と法令用語との関係はどうなっているのですか。
B(法律家) そんなことを感じることがありますか。民法や刑法のような文語体法令では、古風な漢語調の用語が制定当時のまま使われていますが、これはもうそういうものだと受け取るしかありませんね。
A いや、そういう法令特有の難語ではなく我々が日常使う用語を別の意味に使っている例にぶつかることがあるのです。
B ああ分かりました。たとえば、「児童」がその例にあげられましょう。「児童」というのは日常用語としては、「子供」という意味で使われておりますが、学校教育法では小学生を指すときに使っています。ちなみに、学校教育法では中学生と高校生は生徒、大学生は学生といっております。
A それで、中学生や高校生の身分証明書を生徒証といい、大学生のを学生証というのですね。
B 多分そんなとこからくるのだと思います。ところで、「児童」という言葉がいつも小学生を指すときに使われているかというとそうではありません。たとえば、児童福祉法や児童手当法では「18歳に満たない者」をいい、母子及び寡婦福祉法では「20歳に満たない者」をいいます。ただし、このように日常用語と違った意味で用語を用いるときには、その法令のはじめの方に置かれている定義規定の中でそのことを明記するのが通例なので、定義規定に注意していれば、とまどうことはないと思いますが。
A 小学生くらいなら分かりますが、中学生や高校生までも「児童」の中に含ませて使われるとまごつきますね。
B ほかに何か適当な用語があればそれを使ったのでしょうが、とくに見当たらなかったからでしょう。一般的に法令で用いられる用語は、日常生活で使われているものを、日常用語的な意味で使うというのが原則で、あえて混乱を招くようなことをするつもりはありません。もし日常用語と違ったような意味で用いるときには、今言ったように定義をするというのが最近の例です。
A しかし、そうともいえない場合もありますね。たとえば、日常用語では「縁組」といえば、養子縁組と結婚の両方の意味があると思いますが、多くの場合には、結婚のことを意味するときに使うように思います。しかし、民法では養子縁組のときにしか「縁組」という用語は使わないでしょう。
B よく御存知ですね。たしかに、民法上は「縁組」は養子縁組のときにしか使いません(民法792条以下参照)。民法では結婚のことは「婚姻」といいます(731条以下参照)。
A 日常用語で使われる「結婚」をなぜ民法では使わないのですか。「婚姻」といわれてもピンときません。
B それは日常用語としての「結婚」が社会的習俗としての儀式や状態をいうのに対して、法令上は婚姻届をした法律婚だけしか認めないからです。そこであえて用語を区別して「婚姻」といったのだと思います。耳なれない言葉だとしても、届出の有無が法令上は重要なのだということをはっきりさせるために意識して違えたのでしょう。
A そうすると盛大な結婚式をあげた後何年も一緒に暮らして子供が生まれても、婚姻届を出していなければ、法律上の夫婦ではないのですか。
B そうです。もっとも、ある場合には内縁の妻として学説判例上その立場を救済することはありますし、社会保険の関係ではこれを正式な配偶者と同様に扱う旨の明文を置いていることもありますが、そのような場合を除くと相続などの関係において婚姻関係と同視されるわけではありません。
なお、用語の点についていうと、「離縁」という言葉は日常用語としては「離婚」と同様に、結婚生活の解消という意味で用いられることが多いと思います。しかし、民法ではこの両者は区別して使い分けられています。
A どういうように使い分けるのですか。
B 婚姻関係の解消は「離婚」といい(民法763条以下参照)、養子縁組の解消は「離縁」(民法811条以下参照)といっています。
田島信威(参議院法制局長)


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