労働基準法ピックアップ(1)

<労働時間の短縮をめざして>
週40時間労働・年休の確保など

時代の要請──労働時間の短縮

 あなたは今、週に何時間働いていますか? 完全週休2日制になっていますか? 残業は週何時間くらいですか? 年休は何日くらいとりますか? そして、自分自身、働きすぎだと思いますか?
 2000年(平成12年)度までに年間総労働時間を1800時間に!これがわが国の時短の目標です。これに対して、平成9年の総労働時間は1891時間(うち所定内労働時間が1768時間、所定外労働時間〔=いわゆる残業・休日出勤〕が123時間)となりました。(ちなみに、高度経済成長下の60年〔昭和35年〕には総労働時間は実に2426時間〔うち所定内労働時間2164時間、所定外労働時間262時間〕だった。)
 先進資本主義国の中で、年間労働時間が唯一2000時間を越えていた日本に対し、欧米各国から働きすぎとの非難の目が向けられ、1988年(昭和63年)4月に労働基準法は大きく改正されました。以来、労働時間短縮に向けての努力が続けられ、92年(平成4年)度には1958時間と初めて2000時間を切り、それ以降も着実に労働時間の短縮が進んできました。
 労働基準法が制定されて50年以上がたち、社会構造・経済構造も大きく変わりました。労働時間の短縮は労働者の福祉の増進にとって何より欠かせないものであるばかりか、近年の低成長・貿易摩擦の深刻化は輸出だけにウェイトをおかず国内需要を拡大させることを緊要なこととし、そのためにも時短による労働者の生活の面での「ゆたかさ」が求められています。しかも低成長とならぶ高齢化社会の到来は、短い時間働くことで多数の人々に働く機会を分け合い、雇用を確保するという新しい考え方を必要とします。こうして、労働時間・労働形態の大きな変更が行われました。

97年(平成9年)4月1日より
名実ともに週40時間労働がスタート


 労働基準法では、所定労働時間は「1日8時間、1週40時間」をこえてはならないと定められています(32条、法定労働時間)。この法改正が行われたのは88年(昭和63年)4月でしたが、その後9年にわたり、さまざまな経過措置や中小企業への猶予措置などがとられ、ようやく97年(平成9年)4月1日より、原則として「1週40時間」がスタートしました。
 現在では、(1)商業、(2)映画・演劇業、(3)保健衛生業、(4)接客娯楽業で、常時従業員が10人未満の事業所のみが特例措置として「1週46時間」とされるのみで(規則25条の2、手待ち時間も長いなどの理由)、そのほかすべての分野の労働者に「1週40時間」が適用されています。この規定は、違反した事業者に6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金を科するきびしいものです(法119条)。
 ちなみに、総労働時間を減らすには、この所定労働時間の短縮とならんで、時間外労働を減らすことが大切です。そのためには、時間外・休日労働の割増賃金率を引き上げることが有効と考えられています。労働基準法では、法定割増賃金率を25%〜50%とし、具体的には政令で定めることとしています(法37条1項)。現在、時間外労働については25%以上休日労働についてはとくに高く35%以上と定めています(平6.1.4政令5号)。ここで注意が必要なのは、法律でいう「休日労働」とは、法35条で規定する1週1日、または4週4日の法定休日に働くことをさしていますから、たとえば、完全週休2日制の労働者が土・日のどちらかに出勤する場合は休日労働ではなく時間外労働の扱いとなり、25%以上の割増率の対象となります。

年次有給休暇の付与は継続勤務6ヶ月から


 時短のためのもう一つの柱が、年休制度の拡充です。
 労働基準法では、6ヶ月間継続勤務し、しかも8割以上出勤した労働者に対しては、その後の1年間に10日間の年休を付与することになっています(法39条1項)。これはILO(国際労働機関)の条約に合わせたものです。その後、継続年数が1年ふえるにしたがって1〜2日ずつ年休は加算されることになります([表1]参照)。ただし、年休は法的には20日までの保障しかなく、20日をこえる場合には事業所ごとの判断にまかせられます(法39条2項)。

表[1] 年次有給休暇の付与日数
勤続
年数
6ヶ月 1年
6ヶ月
2年
6ヶ月
3年
6ヶ月
4年
6ヶ月
5年
6ヶ月
6年
6ヶ月
以上
年休
日数
10日 11日 12日 14日 16日 18日 20日

 また、パートタイマーなどで勤務日数の少ない労働者については、労働日数に応じて比例付与することが定められています([表2]参照、法39条3項)。 これは、所定労働時間が週30時間未満の者で、しかも週4日労働または年間所定労働日が216日以内の者が対象となります。したがって、たとえパートであっても、週30時間以上の者や、一日の労働時間は短くとも週5日労働とか年間所定労働日が217日以上の場合には、一般の労働者とおなじ[表1]の年休が与えられます。

表[2] パートタイマーの年休

所定
労働
日数
1年間の
所定労
働日数
勤  続  年  数
6ヶ月 1年
6ヶ月
2年
6ヶ月
3年
6ヶ月
4年
6ヶ月
5年
6ヶ月
6年
6ヶ月
以上
4日 169日
〜216日
7日 8日 9日 10日 12日 13日 15日
3日 121日
〜168日
5日 6日 6日 8日 9日 10日 11日
2日 73日
〜120日
3日 4日 4日 5日 6日 6日 7日
1日 48日
〜72日
1日 2日 2日 2日 3日 3日 3日

 もっとも、規定はあっても現実に休みがとれないのでは困ります。欧米諸国では年休はほぼ完全消化しているのに対し、日本の年休取得率は未だに55.2%(平成7年)と、50%台にとどまっています。そこで事業所ごとの計画的付与を一定程度認め、年休をとりやすくすることも認められています(法39条5項)。労働者の過半数が賛成して労使協定が結ばれ、年休の時季についての定めをしたときには、個々の労働者の年休のうち5日をこえる部分についていつとるかを指定できるというものです。

★ 労使協定
 労働者の過半数で組織する労働組合、それがない場合には労働者の過半数を代表する者と使用者の間で交わされる書面による協定。残業や変形労働時間制についてもこうした協定による。

 たとえば事業所を閉じて一斉に年休をとることも可能ですし、1年間の年休計画を立てて従業員が順番に年休をとっていくようにすることも可能です。ただし、たとえば年休が10日しかない労働者について、事業所一斉に年休を6日以上とったときでも、その労働者にはやはり5日間の年休が残される形となります。
 つまり、計画的付与は年休をとりやすくする反面、従来認められてきた個々の労働者の時季指定権(いつ年休をとるかを選ぶ権利、39条4項)を奪うわけですから、病気などいざというときのために最低5日間は労働者の自由裁量に委ねる年休を確保しておくというものです。
 また、年休の取得の有無を皆勤手当支給やボーナスの査定にもりこみ、年休をとった人が不利な扱いをされる例も現実に見受けられたため、「使用者は、……有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない」と訓示規定がもうけられています(法134条)。

*     *     *

 労働基準法の規定はあくまで最低限の労働条件を示したものです。労使双方の努力によってこの規定以上に条件が改善されることは好ましいことですし、すでに実現している事業所ももちろんあることはいうまでもありません。他方、こうした労働時間短縮に伴う余暇の拡大は、それを有意義につかえる、安くて豊富なレクリエーション施設の拡充や文化・スポーツ施設の充実、さらにはウサギ小屋といわれる住宅政策の改善等々、さまざまな施策を必要とします。また、残業手当てを初めから計算した上で低い基本給におさえている企業や、一方で余暇を消極的にしか利用しえない労働者の意識の遅れ等々、経済的社会的意識的な全般にわたる変革なしには、これからの成熟した真にゆたかな生活は容易には実現しないといえましょう。




ホームページへカエル
「労使トラブルQ&A」目次にもどる
次のページ(労基法ピックアップ(2) 労働時間の弾力化)に進む