これは、そよ風32号(昭和62年12月号)で取り上げた記事に加筆・訂正したものです。
養子制度の大幅改正
民法等の一部改正法(昭和63.1.1スタート)
昭和63年(1987)1月1日より養子制度が大きく変わりました。もともと民法(親族編)が制定された当時(明治31年)は、養子とは『家』を絶やさないことを主な目的とした封建的な色彩の濃いものでした。それが、戦後、『個人』と『愛情』に基づく家族関係を土台に全面改正され(昭和22年)、それからさらに40年たっての大改正となったものです。この改正では、戦後の改革をさらに徹底させるとともに、とくに幼児の養子について特別な制度が設けられました。
特別養子縁組の新設
現在でも養子の大半は成人になってからの縁組で占められていますが、民法の規定はあらゆる年代の養子を想定したもので、特別に幼児の養子のための配慮などはとられていませんでした。しかし、養親・養子両者が納得したうえで縁組がなされる成人の場合とは違って、幼児の養子では、児童と養親との関係が不安定であるとして、その弊害が実務家(カウンセラー・児童相談所など)から指摘されていました。
たとえば、実親子関係は依然として残るため、実親やその親族から養育への干渉がなされたり、扶養義務・相続などの問題が生じたりする場合があります。あるいは、離縁が可能であるため、立派に養育したあとの養親の立場が確実とはいえません。また、戸籍に「養子」と明記されているため、第三者の不用意な介入をまねいたりしてトラブルとなることもありましょう。
これらの紛争を防ぐと同時に、何より、実親子関係と同様の確固たる養親・養子関係が築けるよう、心理的に安定した絆で結ばれるよう、法的にその条件をつくって手助けをしようという目的で、昭和63年に、
特別養子制度
が生まれました。この制度では、養子にも実子と変わらない安定した地位が保障されています。
実親との親族関係終了
戸籍上「実子」扱い
離縁は原則不可
特別養子縁組を結ぶと、実親およびその血族との親族関係は法的に終了します(民法817条の9)。法的断絶によってたとえ子の相続権がなくなることになろうとも、安定した養親子関係のもとで養育されることにはかえがたいとの判断がなされたものです。
戸籍上も、養親の戸籍においては、特別養子の父母欄は養親のみが記載され実親の氏名は記載されず、また続柄欄も従来の「養子」ではなく「長男」「長女」などと実子と同じように記載され、養子縁組であることが一見してわからないようになりました(
戸籍特例
)。これは住民票においても同様です。こうして法的に養親のみが父母であることを明記し、養親子の心理的安定をはかるとともに、不用意なプライバシーの漏れを防ぐ一方で、真実告知がなされた後養子が自らの出自を知る権利を確保するための方策もとられています(実親の本籍地に特別養子を筆頭者とする単身戸籍〔除籍〕が作られる、戸籍法20条の3)。
そして、
離縁
は、養親が虐待したり悪意で遺棄するなど子に著しい害が及ぶ場合で、しかもかわって実父母が相当の監護ができるときに限って、家庭裁判所が認めることとなります(民法817条の10)。つまり、従来の養子のように協議や訴訟による離縁は一切認められず、子の利益のためにとくに必要だと思われるようなよほどのことがなければ離縁はできません。
このような、特別な縁組である以上、手続や成立要件も従来の養子縁組(普通養子)とは異なっています。
養子=6歳未満
が対象
養親=25歳以上で夫婦
養親
となるには、婚姻しており、しかも夫婦そろって養親となることが必要で、夫婦とも成人でどちらか一方は25歳以上でなければなりません(民法817条の3・4)。養親希望者は住所地の家庭裁判所に審判を申し立てることになります(同817条の2、家事審判規則64条の3)。
養子
は、この申立ての時点で、原則として6歳未満であることが必要ですが、6歳になる前からすでに養親となる夫婦に育てられていたのであれば、申立て時に8歳未満であれば足ります(民法817条の5)。
審判は、誰にでも縁組を認めるというわけではありません。まず、申立ての時点と審判の下りる時点で、
実親の同意
があることが要件です(同817条の6、ただし、死亡・行方不明などでその意思が表示できないときや実親による悪意の遺棄や虐待など著しい事情のあるときは不要)。さらに、実親に育てられることが著しく困難または不適当であるなど
特別の事情
があり、しかも子の利益のために
養子縁組がとくに必要
と認められたときに限られます(同817条の7)。そして、審判申立て時から6ヶ月以上の
試験養育期間
を経て、養親としての適格性その他の状況が十分考慮されます(ただし、申立て以前からの養育状況が明らかなときはその期間も算入される)。こうして、家庭裁判所で慎重かつ丁寧な審理を踏まえて、ようやく特別養子としての縁組が認められるのです。
なお、養親子の適切な組合せのために、児童相談所など専門能力をもつ社会福祉機関の斡旋が望ましいとされています。また、配偶者の連れ子を特別養子とする場合も準じた取扱いとなります。
普通養子も制度改正
一方、
普通養子
(従来どおりの養子。役所への戸籍の届出で足りる。ただし、未成年者の養子には原則として家裁の許可が必要。離縁は協議によって、それがまとまらないときには家裁の審判または訴訟でもできる。)の制度についても、いくつか重要な改正が行われました。
まず、
婚姻している者の縁組について
、従来は養親になるにも養子になるにも夫婦そろって行うのが要件でしたが、昭和63年の改正により、一方のみの縁組が認められています。ただし、配偶者の同意が必要で(民法796条)、もし同意なしに縁組がなされたときや強迫等によって同意をさせられた場合には、裁判所にその縁組の取消しを請求できます(同806条の2、6ヶ月放置すれば追認したものとみなされる)。
しかし、
未成年者を養子とする場合
に限っては、夫婦がそろって養親になる必要があります(同795条、離縁も同様〔夫婦共同離縁、811条の2〕)。これは、適切な養育を行うためには夫婦共同縁組が望ましいからです。もっとも、独身者が養親となることももちろん従来どおりできます。また、とくに15歳未満の子については法定代理人が代わって縁組の承諾をしますが(同797条)、監護をすべき実父母の同意を得なければならないことになりました(同条2項)。
離縁について
は、これまで養親の死亡後に養子からの離縁が認められていたのに加え、逆に養子の死後に養親が離縁することも認められることになりました(同811条6項)。さらに、裁判で認められる離縁の原因として、養子の生死が3年以上不明の場合に加え、養親の生死不明の場合も盛り込まれました(同814条1項2号、他には、悪意の遺棄・その他縁組を継続しがたい重大な事由があるとき)。どちらも、「家を継がせるために養子がいなくなればすぐに次を」とか、逆に、「養親がいなくなれば養子としてしっかり家を守るように」などといった『家』制度の名残りを法的に取り去るためにとられた措置です。
また、
氏についての改正
も行われ、7年以上縁組が続いていれば、もし離縁して元の姓にもどるようなときも、離縁から3ヶ月以内に届け出れば、養子のときの姓を続けて名乗ることができるようになりました(同816条2項)。さらに、養親の一方のみと離縁したときも、元の姓にもどらず続けてその姓を名乗ります(同条1項)。このほか、結婚した後に養子となったときも、姓の変更をせずに続けて婚姻時の姓を名乗れる(同810条)といった便宜がはかられています。
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