[この記事は、高年齢者等の雇用安定法が施行された当時、1986(昭和61)年10月の「そよ風」25号の記事を元に加筆したものです。]

S61.10.1施行
高年齢者等の雇用安定法
定年の延長と再就職先の拡大を

今、日本の社会は世界に例をみないほどのスピードで高齢化が進んでいます。そして多くの高齢者にとって「働く」「再就職」ということは、老後の生きがいとしてだけではなく、年金のみに頼れない老後の生活を経済的により安定したものとするために切実でありきわめて重要なものとなっています。また社会にとっても、高年齢者の労働は欠かせないものになり、労働力人口中55歳以上の労働者の割合は、1985(昭60)年18%であったものが、2000(平12)年には23%に達すると予測されています。これに対応して定年を延長する企業もふえ、60歳以上の定年制をとる企業は、平成6年には全体の84.1%となり、平成10年4月からは60歳を下まわる定年制は禁止されました。
ところが一方で、有効求人倍率(平成9年10月)は35歳〜39歳で約1.5であるのに対し、60〜64歳ではわずか0.07と、再就職の道ははなはだきびしいという現実があります。また給与についても、高年齢者の場合は大幅ダウンが否めません。
*有効求人倍率──職業安定所に求職の申込みをした者に対し、何人の求人があるかを示す割合。求職者1人に求人1の場合は1となる。
このような現状を打開し、雇用を安定させるために、定年延長を中心とする継続雇用をすすめ、他方再就職をも確保・促進しようというのがこの改正法です。
昭和46年に制定された従前の法(=中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法)から一歩すすめて、対象を45歳〜65歳という広いものからずっと狭めて55歳以上の高齢者に的をしぼり、新法「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」として生まれ変わりました。そしてこの改正法は、総合的な高齢者雇用就業対策のこれからの柱となります。
高齢者の働く場を確保・拡大するために事業主に対してこれまでもさまざまな施策がとられてきました。たとえば、高年齢者雇用率制度(昭和51年)をもうけて全従業員の6%以上が60歳〜65歳となるよう努力すること、また定年を延長するように指導するなどです。そしてこれらを実行する事業主に対しては、高齢者が作業になじめるように訓練するための給付金を支給したり(雇用対策法13条)、高齢者向けの施設・設備を充実するための資金を低利で貸し付ける(雇用促進事業団法19条3項)などの優遇措置がとられています。[さらに平成7年4月1日からは、60歳以上の雇用者で働き続けていたりあるいは再就職をして収入が減ったものに対して、高年齢雇用継続基本給付金や高年齢再就職給付金が支給されています(雇用保険法の改正。くわしくは「そよ風」75号参照)。]
今回はこれを一層すすめ、高年齢者雇用率制度を廃止して、かわりに定年は60歳を下まわらないよう努めることと、年齢引上げを明文化しました(法4条。なお、この規定は強化され、平成10年4月1日より、60歳を下まわる定年の規定は原則として禁止されました。くわしくは「法のくすり箱」92号参照)。そしてまだ達成していない事業所では定年の引上げに関する計画を立て職業安定所の長に提出することになりました(法4条の3)。またその際、責任者として高年齢者雇用推進者を選任します(法5条)。さらに高年齢者を多数雇用する事業所に対しては各種の奨励金や給付金が支給されます(法26条、規則19条の2・3)。
そしてこれら事業主への講習・研修・情報提供・報奨金や助成金の支給にあたる機関として、ひと足はやく、改正法が公布された1986(昭61)年4月30日より『高年齢者雇用安定センター』が開設されました(法24条〜44条)。従来地方によってまちまちだった雇用開発・促進のための組織を整備し、中央にセンターがひとつ、そして各都道府県ごとにひとつずつと、行政の中心機関が設置されたわけです。
実際に職を求める高齢者にとっての公的な窓口は、職業安定所とシルバー人材センターになります(法46条〜51条)。
定職を求める人は、従来どおり公共職業安定所がその斡旋・紹介・指導にあたります。高齢者に適した職業としては、守衛・管理人・清掃員・集金人・製造加工各種など計63種が選定されています(雇用対策法20条)が、職安では求人の申込みに際して、これらの職種で不当に高齢者をしめだしていないかどうかを監督します。また5人以上の定年・解雇者(55歳以上〜65歳未満)が出る場合には、あらかじめ事業主に届出させ、再就職援助計画を作成させるなどの指導をすることになりました(法10・11条)。その他、毎年6月1日現在の高年齢者の雇用に関する状況を事業主は職安の長に報告します。
これに対して、臨時的・短期的・補助的な仕事の紹介をおこなうのがシルバー人材センターです。すでに昭和55年から人口10万以上の市では設置がすすめられていましたが、1986(昭61)年の改正で高齢者への職業紹介の公益法人として法的に位置づけられました。これにより市町村の区域単位ごとに設置され、無料の職業紹介にとどまらず、就業に必要な知識・技能の講習をも行っています。
夫婦ふたりの老後(60歳から平均寿命まで)の生活費の総額は約7200万円かかると試算されています。一層ふえる高齢者の生活を安定あるものにする施策が、国・地方公共団体ともにますます問われてきています。
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この後さらに改正が行われ、1994(平6)年11月1日からは、60歳以上の高年齢者については、人材派遣される際の職種は基本的に制限されないこととなりました(法11条の3・4)。→くわしくはそよ風「87号」参照


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