これは、そよ風22号(1986年4月号)に掲載された記事です。男女雇用機会均等法はその後さらに改正されています。その内容については、そよ風98号及びそよ風146号をご覧ください。

募集・採用・昇進・待遇……
女性差別撤廃をめざして

男女雇用機会均等法

1986年(昭和61)年4月1日スタート

 わが国における女性労働者は年々増加しつづけ、平成9年には2665万人に達し、雇用者総数に占める割合は40.6%にもなっています。また、これにともなって勤続年数の伸長、就業分野の拡大も進んできました。しかしながらこのような女性の目ざましい進出にもかかわらず、今の職場の状況はまだまだ、男性と等しく機会を得て意欲と能力を十分に発揮できる環境が整えられているとはいえません。
 そこで、雇用面における男女差別をなくし働く女性の地位向上をめざして、1985年5月17日、「男女雇用機会均等法(正式名称:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女性労働者の福祉の増進に関する法律)」が成立し、1986年(昭和61年)4月1日より施行されました。
 そもそもこの法律は、1978年(昭和53年)に婦人少年問題審議会によって検討をはじめられ、7年越しにようやく成立をみたものです。この成立の背景には、1980年(昭和55年)に「婦人差別撤廃条約」に政府が署名し、さらに同条約を「国際婦人の10年」の最終年にあたる1985年(昭和60年)に批准することを決めたため、その前提となる国内法の整備が必要となったことが大きな要因となったものです。

 この「男女雇用機会均等法」は、1972年(昭和47年)に制定された勤労婦人福祉法を全面改正して新たに制定したもので、これと同時に、「労働基準法」の中の女子のための規定が改正されました。これによって、女性労働者に対する法律は、(1)男女の平等を求めた部分は「男女雇用機会均等法」に、(2)女性労働への保護に関する部分は「労働基準法」にと、2つの大きな柱で整備されることになりました。

男女雇用機会均等法の制定へ
(勤労婦人福祉法の全面改正)


 ではまず、第1の柱である「男女雇用機会均等法」(勤労婦人福祉法の全面改正)の主な点を述べましょう。
 第1に、採用から退職までに関して、事業主に対しあらゆる義務が課せられるようになったことです。すなわち、


〔指針〕による努力義務規定
★ 改善の努力が求められる場合
(a) 募集・採用の対象からの女性の排除、女性に不利な募集・採用条件の設定
(b) 一定の職務への配置の対象からの女性の排除、女性労働者のみの不利益配転
(c) 昇進の対象からの女性の排除、女性に不利な昇進試験の条件設定、昇進試験における女性の不利な取扱
★ 例外とされる場合
(a) 業務の性質によるもの(男優・警備員・神父等)
(b) 労働基準法上の規制によるもの(坑内労働、妊娠・出産に有害な業務等)
(c) その他(風俗・風習の違いで女性が就業しにくい事情のある海外での勤務等)

〔省令〕による禁止規定
★ 差別的取扱が禁止される教育訓練
(a) 新入社員に対する訓練
(b) 役職者に必要な訓練
(c) その他対象者に要件をもうけて行う教育訓練で業務の遂行に直接必要なもの
★ 差別的取扱が禁止される福利厚生
(a) 生活資金・教育資金などの各種資金貸付
(b) 福祉増進のための定期的な金銭給付
(c) 資産形成のための金銭給付
(d) 住宅貸与

 さて2つめは、上記規定に関して紛争が起こった場合の解決手段が新しくもうけられた点です。紛争が起きたときは、女性労働者または事業主からの申出に基づいて各都道府県女性少年室長が解決のために介入し、必要な助言・指導、勧告が行われることになっています(14条)。
 ちなみに、採用したあとの紛争(昇進・福利厚生・定年・退職・解雇など)については、まず企業内で自主的に苦情解決に努めねばなりません。そのうえで、上記の女性少年室長による助言・指導・勧告を受けたり、室長が必要と認めたときは当事者双方の同意のもとに機会均等調停委員会(労働大臣が任命する学識経験者3名で構成)による調停が行われることになります(13条〜21条)。

労働基準法の一部改正


 次に第2の柱である「労働基準法」の一部改正について主な点を述べましょう。
 これは、従来の労働基準法の中の女子及び年少者に関する条文(第6章)から女性労働についての部分を分離し、新しく女性のためにもうけられた規定にあたります(第6章は年少者、第6章の2は女性となっている)。
 改正の最大の特徴は、時間外労働・休日労働・深夜労働のそれぞれについて、従来からの規制内容が緩和され、あるいは職種などによっては規制が廃止されたことです(法64条の2・64条の3、女性労働基準規則1〜7条)。現在適用される女性労働についての保護規定は以下のとおりです。

(a)休日労働は禁止され、時間外労働は「1週6時間、1年150時間以内」に制限されているもの
○ 製造業・鉱業・建設業・旅客貨物運送業等
(b)休日労働は「4週1日まで」に制限され、時間外労働は「2週12時間、1年150時間」に制限されているもの
○ 看護・旅館業等
(c)休日労働は「4週2日まで」に制限され、時間外労働は「4週36時間、1年150時間」に制限されているもの
○ 上記(a)・(b)以外の職種
(d)深夜業(原則として午後10時〜午前5時)が認められる業務
○ 農業・畜産業・漁業・看護・旅館業・電話事業等
○ 女性の健康及び福祉に有害でない業務
    スチュワーデス・寮管理人・映画制作・番組制作・警察官・旅程管理者・郵便・飛行機の整備士・航空管制官・消防官
○ 業務の性質上深夜業が必要とされる業務(ただし「1日6時間以内」)
    惣菜弁当等製造業・生めん製造業・水産練り製品製造業・卸売市場・新聞配達
○ 本人の申し出で深夜業に従事できる業務
    タクシー
(e) 休日労働・時間外労働・深夜業のいずれについても一切保護規定が適用されないもの
○ 労働者の業務遂行を指揮命令する管理職(係長・班長等)
○ 専門職
    公認会計士・医師・歯科医・獣医・弁護士・一級建築士・薬剤師・不動産鑑定士弁理士・社会保険労務士・研究開発職・システムエンジニア・記者編集者・放送制作・デザイナー・プロデューサー・ディレクター

 また、母性保護の見地から、従来は、危険有害業務への就業制限は女性全体に適用されてきました。しかし男女雇用機会均等法のスタートともに、この制限が大幅に緩和され、現在、一般女性については、(1)坑内労働、(2)重量物を取り扱う業務、(3)有害ガス・粉塵が発散する場所での業務のみが制限されるだけで、他の職種への制限は一切なくなりました。もちろん、妊娠中の女性については従来どおりのきびしい規制は残され、また産後1年以内についても本人の申し出により危険有害業務への就業を避けることができるようになっています(法64条の4・64条の5、女性労働基準規則8〜10条)。

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 このように、いずれも法律自体には具体的な部分が盛り込まれず、全体を通じて労働省令や指針にゆだねられている部分が多い点が目立ちます。これはいいかえれば、雇用の場での男女平等を法律優先で実現していくのではなく、行政指導と労使の自主努力によって段階的に確保していこうということです。女性の雇用管理については、事業主の努力義務と罰則のない禁止規定にとどまっていますので、これを真に実効あるものにするには事業主の意識変革が不可欠となります。それに加え、女性の職業意識の徹底はもちろんのこと、行政の的確な展開も求められているところです。

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 女性労働をめぐっては、平成11年4月1日より、「男女雇用機会均等法」「労働基準法」のいずれもが改正され、新たな段階を迎えました。くわしくは「そよ風98号」をご覧ください。




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