日本の森林を救うため
公共の建物に木材利用を拡大
国は低層の公共建物を原則すべて木造にします
公共建築物木材利用促進法
◆◆H22.10.1施行◆◆



 あなたの学校は木造校舎でしたか?それとも鉄筋コンクリート造り?木造校舎にはなぜか昔懐かしい響きがあります。第2次大戦後建築された公共の建物は、頑丈で堅固な建物=(イコール)鉄筋コンクリート造といわれ、非木造があたり前となってきました。
 ところが今、大きな転換点を迎えています。木造建築が見直され、「公共の建物は木造があたり前」の時代がやってこようとしているのです。

今、日本の森林が、林業があぶない!

 何より問題となっているのは、現在日本の林業がかかえる問題です。

 今や日本の森林は、その4割が人工林となっています。戦後復興の際に多くの樹木が伐採され、そのあとに植林がなされてからすでに50年がたちました。植林された木は今では高齢林と呼ばれ、本格的な伐採時期を迎えています。今後10年で、日本の人工林の実に6割が出荷に最適な時期となるのです。
 ところが一方、海外から安い輸入材が入ってきて、国産材は全体の30%にも満たない状況です。木材価格も安くなり、これでは長年世話をして伐採し出荷しても採算がとれないおそれがあります。

木を切り倒す=(イコール)自然破壊?!

 木を切ることは自然破壊につながり、地球環境に悪影響を与える……こうお考えの方はたくさんいらっしゃると思います。たしかに、熱帯雨林などの自然林を伐採し放置することは、地球環境にとって深刻な問題といえましょう。


 しかし、日本の人工林にはまったく逆のことがいえるのです。人工林は、間伐するなどの世話をされずに放置されると、モヤシのような細い木ばかりとなり、日も当たらず下生えもはえず、ひとたび雨が降れば保水力もないまま水害の要因となり、あるいは根を十分にはることができずに表層の土砂とともに山崩れを起こす危険も生じます。人工林は活用されて十分な世話を受けることにより、国土保全・災害防止という大切な役割をも果たしているのです。
 しかも、木は成長する過程で二酸化炭素を吸収して酸素を放出し、こうして貯えられた炭素はたとえ木材となっても閉じ込められたままで、最後に焼却してエネルギー源となるときまで保存され続けます。
 そして、伐採あとに新たな苗木を植林することでこの森林のサイクルは完全に循環し、地球にやさしい究極のサイクルができあがるのです。そのためには、木の成長にあわせた適度な木材の使用が不可欠となります。

コンクリート社会から木の社会への転換

 新法「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」は、まずは国が率先して公共建築物の木造化を進めることで、木材への需要を掘り起こすきっかけにしようというものです。
 これまでは、民間家屋に比べ、堅固さや燃えにくさ等を理由に公共建築物では圧倒的に鉄筋コンクリート造が用いられてきました。しかし逆転の発想で、まずこの公共建築物を木造にすることで、波及効果として民間の建物にも広く木造が用いられるようになるというわけです。

 公共建築物として対象となるのは、国・地方公共団体が整備するすべての建築物、及び民間についても学校や老人ホーム・病院・体育館・図書館・駅や高速道路の休憩所等々が指定されました(法2条・令1条)。
国は、率先して公共建築物で木材利用に努めることが明記され(法3条2項)、農林水産大臣と国土交通大臣が基本方針を定めて、毎年1回、この基本方針の実施状況を公表することとなります(法7条)。またこれにならって、都道府県や市町村においても各方針を定めることができることとなります。
 すでに平成22年10月4日にこの基本方針(公共建築物における木材の利用の促進に関する基本方針)が制定され、国は低層公共建築物を原則としてすべて木造化することを決めました。「建築基準法」では、高さ13m以下・軒高9m以下・延床面積3000平方メートル以内の建物(都市部の防火地域や準防火地域では別途面積制限がある。「防火地域・準防火地域」についてはことば欄参照)には、防火のための構造の制限はなく、木造が可能となっています。そこで、庁舎・職員宿舎については3階以下、それ以外の建築物については2階以下なら、原則としてすべて木造で建築することとなります。
 それ以外の建物についても、内装に木を使う、あるいは机やいす等の備品や文具類にも木の利用を進める、またストーブ等のエネルギー源にも木を利用することが盛り込まれました。

安定した供給のため高度化計画等に支援

 公共建築物では、他の建物に比べて広いスペースを確保するため柱と柱の間が広いとか、天井が高いといった特徴があります。その分、太くて長い木材やゆがみの少ない乾燥材が、安定的に供給できることが必要となります。

 そこで、木材製造業者がこうした需要に応えるために「木材製造高度化計画」を立てて農林水産大臣の認可を受ける(法10条)と、都道府県がする無利子の資金融資(林業・木材産業改善資金)の返済を繰り延べることとしました(本来は3年据え置きの後、10年で返済を12年に延長。法12条・令2条)。
 また、防火性や強度等について大規模な実験や高度な測定機械を必要とする実験をする場合には、国の施設(消防大学校の試験研究施設)を半額で使用できる制度もつくられました(法14条・令3条)。

公共建築物以外にも広く木材を利用

 本法では、公共建築物以外にも木材を広く利用するよう努めることが盛り込まれています(法17〜20条)。まずは一般住宅への利用。そして公共工作物への木材の利用(公園の柵・ガードレール・高速道路の遮音壁等)、木質バイオマスの製品とエネルギー利用も進めるために研究開発を進めることが目指されます(「木質バイオマス」についてはことば欄参照)。

 自然環境のことを考えるなら、単に木材を使うだけでなく、木をムダなくすべて使い尽くすことこそ目標とされねばなりません。現状では間伐材等は放置されたままほとんど利用されていません。運び出す費用も出ないからです。まずは木材を効率的に運搬するための道や架線の整備も急務であり、また有効に利用するための研究開発も不可欠です。これらは地域産業・地域経済の活性化にも貢献することとなるでしょう。
 現在、日本では、利用可能な木材の20〜25%程度しか活用されていません。日本の人工林を守るためにも、この利用率を50%程度に高め、さらに木材自給率も50%とすることが目指されています。
*        *        *

 ちなみに、木の建物は、人にも、地球にもやさしい建物です。
 木の建物は断熱性や調湿性にすぐれ、紫外線を吸収する効果も高いのです(下表)。

石油ストーブをつけたときの教室の温度比較
(教室は身体にやさしい)
室温
(床上1m)
木造教室点火前12.0℃12.0℃12.5℃
点火2時間後18.5℃18.0℃18.0℃
鉄筋コンクリート造の教室点火前12.0℃12.0℃10.5℃
点火2時間後22.5℃14.5℃12.5℃

 防火の面でも、技術革新によって、準耐火建築物(通常の火災による延焼を抑制する性能を有する)・耐火建築物(通常の火災が終了するまで倒壊や延焼を防止する性能を有する)に適応する木造建築もすでに建設されています。木造建築物や木の製品を大切に使って最後は燃料に。木を伐採したあとには植林して新たな森林を。こうしたサイクルが完全に確立していけば、それは人にも自然にも地球にもやさしい社会の到来といえましょう。


//ことば欄//

☆防火地域・準防火地域
 防火地域は、種として商業または官公庁などの重要施設が集中している地区等で、建物が密集しており火災の危険の大きい区域、及び主要な街路の沿線に指定される。これは、その地域内の建物をほぼ完全に不燃化することによって火災からその地域を守り、また帯状に耐火建築物を並べることで火災の拡大をせき止めようとするものである。
 準防火地域とは、通常、防火地域の周辺部に広く指定される。これは、市街地の建築物について全体的に防火機能を高めることによって、火災の際の延焼や飛び火を防ぎ、あるいは延焼速度をゆるめて木造建築物や木の製品を大切に使って最後は燃料に。木を伐採したあとには植林して新たな森林を。こうしたサイクルが完全に確立していけば、それは人にも自然にも地球にもやさしい社会の到来といえましょう。消火活動を助け、大火災の発生を防ごうとするもので、建物に対する制限は防火地域ほどきびしくない。
 いずれも、「都市計画法」に基づき市町村が指定する。

☆木質バイオマス
 バイオマスとは、生物資源(バイオ)の量(マス)をあらわす言葉で、化石燃料ではなく、動植物からうまれる再生可能な有機性資源を呼ぶ。このなかで、木材からうまれるものが木質バイオマス。
 木質バイオマスには、樹木の伐採時に発生する枝・葉などの林地残材、製材工場で発生する樹皮・のこ屑の残材、住宅解体時の解体材、街路樹の剪定枝など様々な種類がある。
 これらは再利用されるほか、製紙原料になったり、バイオマスプラスチックやカートカン(飲料容器)の原料、入浴剤、堆肥などに利用される。また、ペレット(粉砕した後小さな円筒形に成形したもの)にするなどして、ストーブ・ボイラーなどのエネルギー利用がなされている。




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