「臓器移植法」の改正
提供の年齢制限を撤廃    
      15歳未満の子どもからも……
提供の意思・拒否を表明   
          免許証・保険証も活用
//H22.7.17全面施行//



 あなたは、ドナーカード(臓器提供意思表示カード)をお持ちですか。実はこのドナーカード、これまで普及率はほんの数%にすぎませんでした。

 「臓器の移植に関する法律」は平成9年10月にスタートしました(そよ風89号参照)。しかし、臓器移植には原則として、本人の書面による提供意思と家族の同意が必要という厳格な規定があったため、今改正までの12年余で脳死からの臓器提供は86例、そのうち心臓移植は69例ときわめて少なく、人口比でアメリカの100分の1以下という現状です(アメリカでは一昨年1年間だけで心臓移植は約1800件)。日本国内での移植をあきらめ海外で手術するケースも多くありましたが、近年では、海外での臓器移植はその国で救える命を減少させることにつながると、WHOをはじめ自粛を求める国際的な動きがあり、日本国内での臓器移植をいかに増やすかが課題となっていました。
 そこで、今回、大幅な緩和措置がとられることとなり、臓器提供数の増大が期待されています。

(社)日本臓器移植ネットワークの移植希望者数
心臓肝臓腎臓膵臓小腸
登録者数
(H22.7.30現在)
17615026611,606185
H20年度の実績提供数14141512414
移植数14191523114

本人の意思が不明なら
家族だけで提供決定も

 改正法では、臓器提供には、従来どおりの(1)本人の書面による提供意思と家族の同意があること(あるいは家族がいないこと)に加えて、(2)本人の意思が不明のときには家族が書面で同意すれば提供できることとなりました(法6条)。
 これにより、子どもの臓器移植も解禁となります。改正前は、本人の意思表示が不可欠で、それが有効なのは15歳以上(遺言の有効年齢に準ずる)と年齢制限があったものが、上記の(2)の新たな規定で不要となったためです。
 ただ、子どもの臓器移植にはいくつかの問題点があります。まず、子どもの脳は大人より蘇生力・回復力が強いため、脳死判定にはより慎重な配慮が必要です。そこで、生後12週未満の乳児には脳死判定はしないこと、6歳以下の幼児については脳死判定の間隔を24時間以上(通常は6時間以上)あけることとしました(規則2条)。また、虐待した親が子どもの臓器提供を決めるのは、理不尽であり危険でもあります。そのため、18歳未満の児童については、脳死・心臓死にかかわらず、虐待を受けた疑いがある場合には臓器摘出はしないこととしました(法附則5項及びガイドライン)。子どもからの臓器提供を行なう医療機関には、こうした厳密な脳死判定・虐待のチェックができる体制が整っていることが条件となります。

本人意思の表明に免許証・保険証等を活用

 改正がなされたとはいえ、臓器を提供する患者自身の意思がもっとも重視されるのは間違いありません。また、患者や家族が臓器提供を拒むのも、当然の権利として保障されねばなりません。「臓器提供をしない」という意思表示は、書面でする必要はなく口頭でOKです。また拒否の意思表示には、15歳以上という年齢制限もありません。
 新制度は、家族に重い決断を迫るものです。日ごろから自分の意思をきちんと伝えておくことが重要です。臓器提供意思の有無をもっと多くの人が当たり前のように表示できるよう、運転免許証や健康保険証に意思表示を書き込めるという法整備がなされました(法17条の2)。ドナーカードも新しくなり(旧カードも有効)、身近なコンビニやスーパーなどに置かれているほか、インターネットで意思表示(登録)することも可能です。

夫婦・親子間での臓器の優先提供も可能


 なお、平成22年1月17日からは、親族への優先提供が認められています(法6条の2)。
 臓器提供の意思を表示するときに、あわせて「親族優先」と明記しておけば、移植患者の緊急度や順番(待ち時間)に関係なく、親族に優先的に臓器提供ができるというものです(臓器の医学的な適合性はもちろん必要)。優先提供できる親族とは、配偶者(夫・妻。内縁関係はダメ)と親子(実親子と特別養子縁組そよ風34号参照)の親子。普通養子はダメ)に限られます。優先提供すべき親族がいない場合には、親族以外に一般提供されることになります。
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 今改正により、どの程度臓器移植が増えるかはまだ未知数です。しかし、臓器移植をサポートするコーディネーターが大幅に不足している点、救急医療と小児科の現場はとりわけ医師不足で過重労働である点など、臓器の提供数だけにとどまらない、移植医療制度の全般にわたる整備がなされなければなりません。




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