逃げ得は許さない!
”人を死亡させた罪”の時効を廃止・延長
〜刑事訴訟法等の一部改正〜
H22.4.27施行



 時効についてご存知ですか。テレビドラマなどで時効直前に殺人犯を捕まえるシーンを見かけることがありますが、今後はそのような話をあまり見なくなるかもしれません。平成22年4月27日、「刑事訴訟法」の一部が改正され、殺人罪等の時効が廃止・延長されました。

時効の廃止・延長――対象になるのは?

 時効とは、犯罪行為が終わった時点から一定期間を経過すると、たとえ犯人が捕まったとしても、検察官が刑事事件の裁判を提起(起訴)することができなくなるという制度です(公訴時効)。
 今改正では、とくに“人を死亡させた罪”について、公訴時効を改正し、次のように時効を廃止ないし延長しました(下表参照)。
人を死亡させた罪の時効
罪 名改正前改正後
殺人、強盗殺人、強盗致死、
強盗強姦致死、汽車転覆致死
など12種
25年 廃止
強制わいせつ致死、強姦致死、
集団強姦致死など
15年 30年
傷害致死、危険運転致死、
逮捕監禁致死など
10年 20年
自動車運転過失致死、業務上
過失致死、自殺関与及び同意
殺人など
5年 10年

 時効の廃止・延長の対象になるのは、この改正が施行された時点(平成22年4月27日)で、まだ時効を迎えていない犯罪です(国外に逃亡した場合は時効の進行は止まる)。今改正では、施行後に発生する事件だけでなく、過去に発生した事件にまで法改正の内容を及ぼすという特別の措置がとられました。

時効が設けられる理由と
     今改正における問題点

 そもそも公訴時効は、時間の経過で証拠品が少なくなったり関係者の記憶が薄れるなどから立証が困難になること、また被害者の処罰感情が希薄になるだろうこと、犯人も長期間逃げ隠れしながら生活してきた状況などを考え設けられたものです。
 しかし近年、被害者も刑事裁判に参加するなど(そよ風156号参照)被害者側の人権に配慮する一連の流れの中で、遺族の処罰感情は消えないとの声が強まったことや、DNA鑑定など科学捜査の進歩で時間が経過しても犯人を特定することは不可能ではなくなったこともあり、このたびの時効の廃止・延長が行われました。時効をめぐっては、平成17年に刑法等の改正が行われて凶悪犯罪の厳罰化がなされた際に(そよ風134号参照)、殺人罪等の死刑に当たる罪の時効が延長されたところですが、これがさらに改正されたものです。
 これにより犯人逮捕の可能性は増えたといえますが、問題点はいくつかあります。
 まず、時効が廃止・延長されるということは、捜査の対象となる未解決事件(時効廃止となった分だけで施行時点で約370件)も増えるということです。捜査人員の不足に加え、大量の捜査記録をすべてきちんと保持する保管場所も必要(DNAはいつまでも鑑定できるように専用冷凍庫が必要)です。
さらに、冤罪を生みやすくする可能性もあります。DNA鑑定が進歩したといっても、100%正確とはいえません。もし何十年も前の事件の犯人として疑いをかけられても、無実であることを証明することは難しいものです。自分自身を含め証人の記憶も薄れるため、誤った記憶をもとに捜査することになりかねない危険があるといえます。
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 ちなみに、公訴時効とあわせ、「刑法」の改正により、刑の時効も廃止・延長されました。刑の言渡しを受けた者が、たとえば脱走するなどして捕まらずに刑が執行されない期間がこの刑の時効です。きわめて例外的な事例といえますが、死刑宣告なら30年→時効廃止、無期刑なら20年→30年、10年以上の有期刑なら15年→20年と改められました。




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