借金地獄の破綻を防ぐ……安易な過剰貸付けに歯止めを
借入総額は年収の3分の1までに
上限金利は借入額に応じ15〜20%に
貸金業法等の大改正−−H22.6.18全面施行−−


 多額の借財を抱える多重債務者は、近年、深刻な社会問題となっています。家庭の崩壊、ヤミ金の被害、破産の増加、自殺……サラ金やカード社会は便利な反面、こうした安易な貸付・借入のシステムそのものを抜本的に見直す必要があると、去る平成18年12月に関係法令が大幅に改正されました。そして約3年半の周知・準備期間を経て、平成22年6月18日からいよいよ全面施行されました。

堅実な返済のために
借入は年収の3分の1まで

 最大の改正点は、「貸金業法」を改正し、借金の総額を年収の3分の1までとする総量規制を行ったことです。年収の3分の1までという制限を超えて貸し付けた貸金業者には、行政処分(業務改善・停止命令等)がなされます。
 この規制は、いわゆるノンバンクからの個人の借入を対象とするもので、銀行や信用金庫・信用組合・労働金庫など金融機関からの借入は含みません。「貸金業法」で対象となるのは、消費者金融(いわゆるサラ金・町金・商工ローンなど)からの借入クレジットカード会社からの借入です。ただしカードショッピング分についてはこの規制に含まれず、原則として「割賦販売法」の対象として、別途平成22年12月から総量規制が行われることが予定されています。
 さて、カードやサラ金等で、個人が(法人は今回の規制の対象外です)、50万円を超える借入をする場合には、あるいは他社を含めて合計で100万円を超える借入残高となる場合には、年収を証明する書類(源泉徴収票・所得証明書・確定申告書・給与明細書・年金通知書など)を提出することが義務づけられました(それ以下なら原則として自己申告でOK)。極度額を決めてその範囲で借りる契約をするときも、同様に書類を提出する必要があります。
 ただ、住宅ローンや自動車ローン、高額療養費の貸付、有価証券を担保とする貸付などは別枠(適用除外)とされ、総額に算入されません。
 また、借入残高に算入はされるものの、例外的に、年収の3分の1を超えても貸付が可能なケースがあります。たとえば、専業主婦(夫)の場合は年収ゼロですが、配偶者・内縁関係がわかる住民票や戸籍抄本、その配偶者等の同意書と年収を証明する書類を付ければ、本人は無収入でも借入は可能です(ただ、多くのサラ金等では現実には対応していない)。また、個人事業者の場合には、借入計画書で、事業・収支・資金繰りについて返済能力を示すことができれば、年収の3分の1の枠を超えて借入ができます。このほか、緊急必要な費用を支払うための小口資金(10万円以下で3ヶ月以内に返済)、低利の新たな契約に借換えて返済額等が減るなどの場合も、例外として枠を超えた借入が認められるものです(ただし、貸し付けるかどうかはあくまで当該貸金業者の判断次第)。

借入残高は指定信用情報機関を通じてチェック

 ところで、改正法が施行された時点ですでに規制枠を超えている人も(サラ金利用者の実に半数がこれに該当)、すぐにまとめて返済する必要はありません。従来の契約どおりの返済を続ければ問題ありません。ただ、新規の借入は不可能となります。
 また、各人の借入残高を調査するために、すべての貸金業者には、内閣総理大臣が指定する「指定信用情報機関」への加入が義務づけられました。現在、(株)日本信用情報機構と(株)シー・アイ・シー(主にカード会社対象)の2社が指定を受けています。この信用情報機関では、責任をもって利用者の個人識別情報(住所・氏名・生年月日・電話番号・勤務先・運転免許証番号等)と共に、各社から送られてくる契約日・貸付金額・貸付残高・事故情報等を管理します(2社間でも情報を交換する)。そして各貸金業者の求めに応じて情報を提供して、総量規制が守られるように支援することとなります。
 極度額を決めての借入では、貸付残高が10万円を超えるときには3ヶ月に一度、さらにその月の貸付合計額が5万円を超えるときには毎月、貸金業者は、信用情報機関に借入残高を照会して、利用者の借金の総額が年収の3分の1を超えないように注意することとなっています。

借入金利を20%以下に
     保証料等も利息に算入

 金利についても、長い間懸案となっていた二重金利の状態がようやく解消されました。

 従来、貸金業者に一定の条件の下に特別に許されていた高金利、いわゆるグレーゾーンが撤廃され、これからは「利息制限法」に基づいて、元本10万円未満の借入は年率20%、元本10万円以上100万円未満の借入は年率18%、元本100万円以上の借入は年率15%以下の利息に制限され、これを超える利率で貸金業者は貸し付けてはいけません(右図参照)。
 すでに、多くのサラ金やカードキャッシングでは、2〜3年前から利率を下げて対応しているところです。このように自主的に下げた場合はともかく、実際にこの利率に制限されるのは、改正法が全面施行された平成22年6月18日以降の借入に限られます。それ以前からの借入で、高い利率が設定されているケースでは、そのままの利率が適用されることになりますのでご注意ください。
 なお、一つの会社でいくつかの契約があるときには、それぞれの元本額で適用利率が決まるのではなく、従来からの借入残高と新たな借入金を合計した金額がいくらになったか(10万円あるいは100万円以上か)によって適用利率が決まることになります。
 また、「出資法」も改正され、金利の定義が明確なものとなりました。たとえば礼金・手数料・割引料・調査料、そして保証会社の保証料も含めて、いかなる名目でもこれらはすべて利息に入ることとなります。まとめて前述の利息制限法の利率の範囲内であることが必要です。ただ、契約に伴う公租公課、ATM手数料(1万円以下なら105円、それより多ければ210円)、たとえばカードを紛失したときの再発行の手数料など借り手の都合の出費だけは、利息に含まれません。
 ちなみに、貸金業者の貸付利率の制限を「利息制限法」の利率と同一に引き下げたのに伴い、従来は「出資法」で特別の高利(年利54.75%)が認められていた日賦貸金と電話担保金融への特例は廃止されました。

健全な消費者金融市場をつくるために


 消費者金融やカード貸付は、すでに大きく不可欠な経済的役割を担っています。その意味でも貸金業者は、安易で悪質な貸付を厳に慎まねばなりません。
 そこで貸金業者としての登録の要件として、純資産額を5000万円以上と大幅に引き上げる措置がとられました。また、資格試験に合格した貸金業取扱主任者を、各事務所・営業所ごとに配置することが義務づけられています。
 こうした一連の規制強化の中で、貸金業者は淘汰され、二十数年前は5万近くあった業者も、現在では4千余社と10分の1以下となりました。貸付残高も85兆円近くあったものが、今では40兆円を切りました(消費者向貸付は約15兆円)。
 これからは、便利でしかも安全・堅実な貸付としての利用が期待されるところです。




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