労働基準法の改正
/時間外労働/月60時間超には割増賃金50%か
             代替休暇の取得
(中小企業は猶予措置)
/年休/5日間は時間単位で取得OK
〜H22.4.1スタート〜



法定労働時間内の残業は割増賃金の対象外


 平成22年4月1日から「労働基準法」が改正され、月60時間を超える時間外労働に対しては50%の割増賃金を義務づけた(中小企業は当分猶予)ほか、年休のうち5日については時間単位での取得が可能となりました。
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 ではまず、”時間外労働”についての基本的な説明から始めましょう。
 「労働基準法」では、原則として、1週間に40時間、1日に8時間を超えて労働させてはならないと、明確に労働時間が定められています(32条。別途、変形労働時間制がある)。これを法定労働時間といいます。
 たとえば、土日完全週休2日、勤務時間は午前9時〜午後5時、昼休み等休憩が1時間の職場では、1日の労働時間は7時間、週にすると35時間の労働となります。これは所定労働時間と呼ばれ、当然ながら、法定労働時間の範囲内となっています。

土日完全週休2日制(日曜が法定休日)
午前9時〜午後5時で途中休憩1時間
時給1,000円として
所定労働時間
<ケース1>残業時間××
<ケース2>残業時間××
<ケース1>
 残業手当は1,000円×5時間=5,000円
<ケース2>
 残業手当は1,000円×5時間=5,000円
        1,250円×2時間=2,500円(月・金の割増対象分)
               合計 7,500円


 さて、この職場で、月〜金曜日まで毎日1時間ずつの残業をしたとします(上図<ケース1>)。それでも労働時間は、1日8時間、1週間に40時間となり、法定労働時間内ですので、残業自体はとくに問題となりません。ただ、この1週間で5時間の残業をしたわけですから、5時間分の残業手当が必要になるのはいうまでもありません。このときの残業はとくに割増賃金を支払う必要はなく、通常の賃金相当額で構いません。
 ところが、右図<ケース2>のように、この職場で月曜に2時間の残業となると扱いは異なります。1日8時間・1週40時間の法定労働時間を超えて働かせるためには、労使協定を結び、それを労働基準監督署(労基署)に届け出ることが必要となるのです。これは「労働基準法」36条に定められているため、一般に「三六協定」と呼ばれます(「三六協定」についてはことば欄参照)。
 そして法定労働時間を超えての残業には、25%の割増賃金の支払いが義務づけられます(法37条)。先ほどの例(<ケース2>)では、月・金は2時間の残業をしたので、そのうち1時間は法定時間内で時給の1000円、あとの1時間は割増となって1250円、合計で2250円の残業手当となるわけです。
表1 時間外労働の限度時間
期間限度時間
1週間15時間(14)
2週間27時間(25)
4週間43時間(40)
1ヶ月45時間(42)
2ヶ月81時間(75)
3ヶ月120時間(110)
1年間360時間(320)
(  )内は1年単位の変形労働制をとる場合
※車の運転,研究開発業務など適用されない
事業・業務もある。
 とはいえ、歯止めのない残業がなされては大変です。そこで、表1のとおり、一定の残業時間の限度が定められています(「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」)。三六協定は、この範囲内で定められることとなります。
 ところで、この残業時間の限度を超えての残業、たとえば、急な大量発注が生じた場合などに対処するため、あらかじめ三六協定に特別条項を付けることもできます(特別条項付き三六協定)。
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 ちなみに、休日出勤が入ると事態はさらに複雑になります。労基法では、週1回、4週4日以上の休日を義務づけており(35条、法定休日)、この法定休日に出勤した場合は35%の割増賃金となります。つまり、週休2日の場合、土曜に出勤するか、日曜に出勤するか、どちらが法定休日かで扱いが異なることになります。

月60時間を超える残業50%アップか代替休暇

 さて、平成22年4月1日より新たに義務づけられたのは、1ヶ月に法定労働時間を超えての残業が60時間以上になったときには、法定割増率を大幅にアップし、50%とすることです。
 1ヶ月の残業が60時間──これは前述の限度を15時間も超える大変な数字です。ところが、現実に、30代男性の5人に1人が、週に60時間を超える長時間労働をしている実態があります。これは残業時間でみると優に月80時間を超える数字です。そこで、割増率の大幅引き上げをして歯止めをというわけですが、サービス残業が蔓延している現状でどれだけ効果があるかは未知数といえましょう。
 また、健康を守るためには、賃金を上げるよりも、休息をとることが肝要です。そこで、今回引き上げられた割増分に代えて、有給の休暇(代替休暇)を取ることができる新制度も導入しました。
 対象は、月60時間を超える時間外労働をした労働者。あらかじめ労使協定で制度の詳細を定めておかなければなりません(労基署への届出は不要)。この代替休暇をとるかどうかは、個々の労働者が決めることで、休暇の単位は半日か1日。当該残業月の翌月か翌々月に休暇をとることとなります。この休暇は、いわゆる年休とは別物で、使用者に時季変更権(繁忙等を理由に取得時期の変更を指示する権利)はありません。また、今回の改正で引き上げられた部分を休暇にしたものですから、当該残業時間に相当する通常の割増賃金は、休暇をとったとしても支払われることになります。
 ちなみに、この月60時間の計算には、法定休日の労働時間は含めません。土日完全週休2日で、日曜が法定休日なら、平日と土曜日の時間外労働を合計して算出することになります。
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猶予される中小企業の範囲
業種資本金の額または
出資総額
または常時使用する
労働者数
小売業5,000万円以下または50人以下
サービス業5,000万円以下または100人以下
卸売業1億円以下または100人以下
その他3億円以下または300人以下
(事業所単位ではなく,企業単位で判断する)

 なお、この月60時間以上の残業への50%の割増制度と代替休暇制度については、今回は、下表の中小企業への適用は見送られました。本法は3年後に検討される予定ですので、その際に改めて導入が議論されることとなります。

新登場!
   時間単位でとる年休

 年休(年次有給休暇)は、勤続年数に応じて、下表のように定められています。本来、まとまった日数の休暇を取得するという趣旨から、年休は1日単位(半日単位も可能)でとることが原則です。
年次有給休暇の付与日数
勤務年数6ヶ月1年6ヶ月2年6ヶ月3年6ヶ月4年6ヶ月5年6ヶ月6年6ヶ月以上
付与日数10日11日12日14日16日18日20日
(週の所定労働時間・所定労働日数が少ない労働者については,
別途,所定労働日数に応じた日数の年休が付与される)

 しかし、今回、新たに、年休の一部を時間単位で取ることができることとなりました(時間単位年休)。あらかじめ労使協定を結び、(1)対象労働者の範囲、(2)時間単位年休の日数(ただし5日以内)、(3)1日の時間数(通常は所定労働時間。7時間30分など端数があるときは切り上げて8時間)、(4)年休の単位(1時間・2時間・3時間等整数で、1日の所定労働時間内)について定めておきます。
 未消化の年休は翌年に繰り越されていきますが、時間単位年休として取得できるのは、やはり最大5日分となっています。
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 長引く不況の中で、多数の失業者があふれる一方、雇用削減により雇用者は一層の労働超過を強いられるという二極化が進んでいます。労働者の生命と生活を守るためにどんな措置がとられるべきか、さらに3年後に検討がなされます。

<ことば欄>

☆ 三六協定
 法定労働時間を超える残業について、使用者が、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合と、それがない場合には労働者の過半数を代表する者と結ぶ協定。三六協定を結び、それを労基署に届け出ることにより、法定労働時間を超えて残業させることができる。
 三六協定では、(1)1日に何時間まで残業できるか、(2)1日を超え3ヶ月以内の期間に何時間まで残業できるか、(3)1年間では何時間までか、をそれぞれ決める必要がある。
 さらに、残業時間の限度(表1)を超えての残業には、あらかじめ三六協定に特別条項を付けることとなる。その際には、原則としての残業時間の範囲のほかに、(a)それを超えて働く場合の特別な事情の内容、(b)延長するための手続き、(c)延長する際の限度時間数、(d)延長できる回数(1年の半分を超えないこと。1ヶ月単位で決めるなら6回まで)を定めるほか、(e)それぞれの割増賃金率を定める。今改正で、できるだけ法定割増率の25%を超えるよう、延長時間数はできるだけ短くするようにと求められている。




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