次代を担う若者を育てる新法制定
子ども・若者育成支援推進法
ニート・ひきこもりの解決と自立した個人をめざす
〜H22.4.1施行〜

 現在、日本では、15歳〜34歳の人口約3000万人のうち、約64万人が若年無業者の状態です(平成20年)。同じ年齢層で、失業者が115万人、非正規雇用者が111万人とあわせ考えたとき、日本のこれからを担うべき世代に、今、大変な事態が起っているといわざるを得ません。
 修学もせず仕事にも就いていない、若年無業者(ニートやひきこもりと呼ばれる若者)……少子高齢化の進む今、若者が自立をしないことは社会全体の問題です。そこで平成22年4月1日から、初めてニートやひきこもりに対する支援も含め、広く子どもや若者を育成するための総合的な施策を進めるための法律「子ども・若者育成支援推進法」が施行されました。

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 ところで、「ニート」と呼ばれるのはどのような人達のことかご存じですか。ニート(NEET)とは、「修学も就職もせず教育訓練も受けない」を意味する英語(Not in Employment,Education or Training)の頭文字を取ったものです。失業者もニートだと誤解されがちですが、失業者とは仕事さえ見つかればすぐに就くことができ、就職活動もしている者のことを言います。それに対してニートは就職活動もしておらず、つまり非就業、非求職、非通学、非家事の者で、社会から孤立してしまっているがゆえに、支援の難しさが一層深刻です。
 約32万世帯では、ひきこもり(ニートのうち長期間自宅にひきこもって社会参加しない者)を抱えているともいわれます。そして、ニートやひきこもりにつながるとも言われている中学校不登校者は約35人に1人高校中退者は約48人に1人とされています。
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 ニートやひきこもりは本人の努力不足で片づけられるものではありません。バブル崩壊以来の長引く不況就職難や雇用不安、パソコンや携帯電話が普及しコミュニケーションは増えたものの深い意味でのつながりの希薄化情報の氾濫と翻弄される自我、豊かな社会での格差の増大将来に夢や希望を抱きがたい現実……こうした社会環境が敏感な若者に重大な影響を及ぼしています。

0歳〜30代を対象に
    自立した個人をめざす

 そこで、「子ども・若者育成支援推進法」では、広く0歳から30代全般までを対象に、次世代を担うべき世代を育成するための総合的な方策をさぐることとしました。
 この法律の基本理念は7項目です(2条)。

@ 子ども・若者育成支援の目標
 自立した個人として成長し、次代の社会を担うことができるように。
A 日本国憲法及び子どもの権利条約の理念を実現
 個人としての尊厳を重んじ、差別的扱いを受けることがないよう、また意見の尊重、最善の利益を考慮する。(「子どもの権利条約」については「そよ風」72号参照
B 良好な家庭的環境の重要性
 成長過程でさまざまな社会的影響を受けるが、とりわけ良好な家庭環境で生活することが重要。
C 子ども・若者育成支援に関わる主体
 家庭・学校・職域・地域その他社会のすべての構成員が互いに協力しながらそれぞれの役割を果たす。
D 発達段階に応じた良好な社会環境の整備
 たとえば、乳幼児期には親が仕事と家庭を両立させやすい職場環境を、思春期には学力・就業能力や意欲の習得等のための環境整備をなど。
E 教育、福祉等の関連分野の総合的な取組
 教育、福祉、保健、医療、矯正、更生保護、雇用その他各分野の知識を総動員する。
F ニート等への内容・程度に応じた支援
 不登校、非行、摂食障害、適応障害等々、社会生活を営むことが困難な者は、その困難の内容や程度に応じ、その意思を尊重しつつ必要な支援を行う。

支援機関のネットワーク化で適切な対応を

 法の対象者が0歳〜30代ときわめて広いため、それぞれの年齢期において施策の方向は違っています。また、ニートやひきこもりといっても不登校、非行、家庭問題等さまざまな原因があるものです。にもかかわらず、これまでは、就労支援機関や医療機関など単一の機関のみが対応をすることが多く、他の分野とのつながりがほとんど見られないことが大きな限界となっていました。
 そこで、内閣総理大臣が長になり、国家公安委員長・総務大臣・法務大臣・文部科学大臣・厚生労働大臣・経済産業大臣など関連する大臣が集まって、国に「子ども・若者育成支援推進本部」をつくり、大綱(平成22年中メド)を作成することとしました(8条、26〜33条)。国と地方公共団体には、基本理念にのっとって、有効な施策を実施する責務を負うこととなります(3・4条)。
 都道府県や市町村では、「子ども・若者支援地域協議会」を設置して、福祉、保健・医療、教育、雇用等の各分野の支援機関をネットワーク化し、地域の実情に応じた総合的な対応ができるように努めます(19条)。また、「子ども・若者総合相談センター」を設け、たらい回しとならないよう、相談窓口の拠点となって、より専門的な相談や支援を行える機関を紹介するなど、情報を提供し助言を行うことが期待されます(13条)。各分野の専門機関が協議会を通して支援ネットワークを作ることで、よりスムーズで適切な対応が取られることが目指されます。
 しかし、そのような機関ができても、相談に行くことすら困難な若者たちがいます。ニートやひきこもり状態では、相談窓口や医療機関に出向くことさえ難しいのが実情です。しかし、家族を通じての接触にも限界があり、本人に直接働きかけることが効果を上げる場合が多いのです。
 そこで、このような場合は訪問支援(アウトリーチ)を実施し、ひきこもり状態にある子ども・若者のところへ出向いて相談に乗ったり、指導を行うこととしました(15条)。ひきこもり状態から社会参加へ導くことを目的とし、継続的に支援を行うことによって修学・就労等を目指します。
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 本法の制定により、国をあげて子ども・若者の育成に取り組むことが掲げられました。これからの具体的な施策が問われるところです。




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