せまい国土の日本――農地をムダなく効率的に活用!
平成の農地改革いよいよ始まる

農地法等の改正
H21.12.15施行


農業をめぐる問題の変化――  
 大地主制の廃止から
   食糧自給の確保へ


 「ノギャル」という言葉をご存知ですか。農業のこれからに希望や期待をもち、新たに農業に進出する若い女性たち……閉塞感が支配する現在、農業は今、新たな時代を迎えて、花形産業のひとつに躍り出ようとしています。
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 平成21年12月15日、新「農地法」等が施行されました。もともと「農地法」は、第2次大戦後の農地改革の成果を守り、再び地主制が支配することがないようにと制定されたものです。戦前の小作地面積は耕地面積の実に46%を占め、小作農は大地主・不在地主によって搾取を受けていました。これら小作地は農地改革により低額で小作人に売却され、小作地面積はわずか10%に減少しました。
 耕作する者が農地を所有すべきだ(自作農主義)との考え方のもと、「農地法」により、農地の所有権・賃借権等の権利移動の制限、農地以外への転用の規制、小作地の所有制限等が守られてきました。
 しかし、終戦から65年、農業をめぐる環境は大きく変化しました。地主制にかわって、現代の農業はどんな問題を抱えているでしょうか。
 現在、自営農業者の平均年齢は実に65歳。農村の高齢化は深刻で、このままでは持続すら危うい状況があります。しかも外国から安い農産物が大量に輸入される一方、日本の農地価格は依然として高く、純農業地域でも農業で得る収益の80年分にも達しています。つまり、農地を買ってまで農業をしても採算が合わないのが実情です。後継者不足から、そして土地の値上がりと転売での利益を見込んで、耕作放棄された遊休農地が年々増加しています。日本の農地面積は、ピーク時(昭和36年)の609万haから、約7割の461万ha(平成21年)にまで減少しているのです。

 他方、食生活の変化と米ばなれの結果、日本の食糧自給率はカロリーベースで40%に落ち込みました。もともと国土が狭く山がちなため、耕地面積は人口に比してきわめて少ないお国柄です。この貴重な農地を、いかに守り、いかに無駄なく効果的に利用できるかが、今の農業が抱える最大の問題といえましょう。

 そこで、「農地法」が改正され、所有者が自ら耕作することにこだわらず、いかに農地を効率的に利用できるかへ、法律の目的は大きく舵を切られ、平成の農業改革が行われることとなりました。

農地以外への転用規制と効率的な利用が法目的に

 まず、農地法の目的中、 「農地はその耕作者みずからが所有することを最も適当であると認めて、耕作者の農地の取得を促進し」という文言は削除されました。かわって、農地法の目的は食料の安定供給の確保をするためのものであることが明言され、貴重な資源である農地について、農地以外への転用を規制すること、地域との調和を考慮しつつ効率的に利用する耕作者が積極的に利用すべき旨が目的として盛り込まれることとなりました(1条)。
 さらに、農地の所有者や借地人など、農地に対して権利を有する者には、適正かつ効率的に農業用の利用を行う責務があることが新たに条文化されています(2条の2)。

農業の門戸開放――
    農地の借入参入が自由化

 さて、農地を売買しようとするとき、あるいは他人に貸そうとするときなど、農地をめぐる権利の移転をするには、農業委員会の許可が必要です(3条。「農業委員会」については ことば欄参照)。今改正では、このうち、農地の貸借は実質自由化されることとなりました。
 農地を借りようとするには、本来、農地のすべてを効率的に利用する(一部のみ農地で大半は駐車場等はダメ)という条件のほかに、(1)個人の場合には農作業に常時従事していること、(2)法人の場合は農業生産法人でなければ、農業委員会の許可は下りません (「農業生産法人」についてはことば欄参照)。
 しかし今改正により、(a)農地を適正に利用していないときには契約を解除するという条件を契約書に明記すること、(b)地域の他の農業者と適切な役割分担を果たして継続的・安定的に農業経営を行うと見込まれること、(c)法人の場合には業務執行役員のうち1人以上は農業に常時従事すること(直接耕作をする必要はなく企画管理労働等でもよい)、のすべての条件を満たせば、前記の(1)・(2)の条件(個人なら農作業に常時従事・法人なら農業生産法人のみ)は問わないこととしたものです(3条3項)。
 これにより、農業とはまったく異なる分野の個人や企業が、農地を借りて農業に乗り出すことができることとなりました。すでに平成15年からは構造改革特別区域で限定的に、さらに平成17年からは市町村が定める地域でこのシステムは導入され、レストランやスーパーなど食品関連産業が農業に参入したり、地元建設会社が余剰人員の活用や多角経営のために参入するなど、事例は多く存在します。今回の改正で、東京や大阪に本社をおく大手商社や食品会社また異業種会社が地方で手広く農業経営を行うことも、近い将来起こる可能性が大いにあります。
 さらに「農業協同組合法」も改正され、特別議決等一定の手続を経れば、農業協同組合や農業協同組合連合会が直接地区内で農業経営を行うことができることとなりました。農地を借りての農業参入は多岐にわたって広がりそうです。
果樹栽培の収益期間
品 目経済樹齢成園までの生長期間収益が確保される期間
(耐用年数)
も も20年 5年15年
か き46年10年36年
みかん35年 7年28年
う め32年 7年25年

 賃借期間も、従来の20年まで(民法609条)から、農地については50年まで可能となりました(農地法19条)。果樹栽培など収穫が安定するまで長期間が必要な場合を考慮したものです。
 また賃借料についても、従来は農業委員会が標準小作料を定めて著しく高額な賃借料は規制していましたが、これからは過去1年間の実際の取引事例を収集し、種類別などに最高額・最低額・平均額といった情報を提供するにとどめることとなりました(52条)。
 農地を借りての農業は、まさに自由化の時代を迎えたわけです。
 しかし一方、農地の「所有」については、従来どおりの規定が適用され、また、農地をそれ以外の用途に転用することについては、逆に規制はさらにきびしくなりました(「農地転用」については「法のくすり箱」参照)。

すべての農地をくまなく効率的に活用する

 農地は、ひとたび耕作が放棄されるとたちまち土地が細り、再び収穫をあげるためには数年を要することとなります。また遊休農地は、病害虫や鳥獣害の発生の温床ともなり、雑草が繁茂するなど、近隣農地に深刻な被害をもたらしかねません。ときには産業廃棄物の不法投棄地になることすらあります。

 そこで、「農地法」の中に、遊休農地についての措置を盛り込みました(4章、30〜44条)。これまでは市町村が指定した遊休農地についてだけ必要な措置を講ずることとしていましたが(従来は 「農業経営基盤強化促進法」の中で規制していた)、これからは農業委員会が中心となって、すべての農地を対象に調査をすることになります。放置されているあるいは有効に活用されていないなどの実態があれば、所有者等に対して指導し、指導に従わなければ「遊休農地」である旨が通知され、きちんとした計画書を提出することが義務づけられます。計画書が不提出・不適切な場合には、必要な措置をとるよう勧告がなされ、それにも従わないときには、当該農地を利用したい者が利用できるよう協議がなされます。
 そしていよいよこの協議も成立しないなら、最終的には知事の裁定によってその利用が決まるという仕組みです。所有者が不明の農地についても、遊休農地の公告をすることで知事の裁定ができることとしました。
 ちなみに、農業委員会が農地の実態を把握するために、相続・遺産分割などで農地法の許可を必要とせずに農地の所有者等となった者は、その旨を農業委員会に届け出ることが新たに義務づけられましたのでご注意ください(3条の3。違反すると10万円以下の過料)。
 遊休農地については、これまで実務上、勧告にまで至るケースはほとんどなく、知事の裁定が出た事例はありません。「農地法」に新たに組み込まれたことで、どの程度利用が進むことになるのかが問われるところです。
 なお、耕作放棄地の再生利用のためには、草刈り・土壌改良・機械購入・設備整備・作付け等々、それぞれの必要に応じてさまざまな補助金・交付金の援助を受けることができますのでご活用ください。
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 「農地法」の大変革の中で、「自作地」「小作地」「自作農」「小作料」といった言葉自体が法文からすべて削除されました。また、反地主制の象徴ともいえる小作地の所有制限(不在地主の禁止と在住地主の面積制限)は廃止され、国による小作地の強制買収や農地として開墾すべき土地の国による買収制度などもすべて廃止となりました。

分散した農地を一括して調整し効率的に再分割

 「農地法」の改正に加え、「農業経営基盤強化促進法」も改正されました。同法の改正では、新たに農地利用集積円滑化事業が始まることになります。

 農地の効率的な経営には、一か所に農地がかたまっていることは重要なことです。しかし現実には、農地の購入・借入はバラバラに行われるため農地が分散し、数キロにわたって農地が点在する結果になっていることも珍しいことではありません。
 そこで、全国の市町村で、地域内の農地を農地利用集積円滑化団体(市町村・農協・土地改良区等)が一括して引き受け、耕作しやすいまとまった形に再配分を行うという仕組みが取り入れられることとなりました。これにより、効率的な農作業が可能となります。また、農地の所有者や借り手にとって、個々に相手をさがして交渉する手間もはぶけることとなります。
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 農業は、今、新たな時代を迎えました。法改正の思惑どおりに新たな参入者を迎えて農業は広く発展していくのか。これからが問われます。

<ことば欄>

☆農業委員会
 全国の市町村に設置される行政委員会のひとつ(農地がない、あるいは極端に少ない市町村では設置されない)。農業の発展と経営の合理化をはかるための農民の代表機関として、「農業委員会等に関する法律」により設置される。農地法等に基づき農地の権利移転の許可等の事務を行うほか、農地の利用関係の調整や担い手育成などの業務も行う。
 委員は、20歳以上の一定の耕作者らによる公選挙(市町村の選挙管理委員会が選挙人名簿を作製)で選出された委員と、農協等が推薦する委員と議会が推薦する学識経験者(どちらも市町村長が選任する)で構成される。委員は非常勤で、任期は3年。
 今回の法改正により、農業委員会の役割はきわめて重要なものとなった。

☆農業生産法人
 地域の農業者を中心として農業を主たる事業とする法人。農業収入(自己の農産物の加工・販売等も含む)が売上高の半分を超える必要がある。また形態は、株式会社(ただし公開会社でないもの)・農業組合法人・合名会社・合資会社・合同会社のいずれかに限る。構成員は、農業の常時従事者や農地所有者・農協など農業関係者が総議決権の4分の3以上を占める必要があり、農業関係者以外では農産物の供給を受ける者(スーパーや食品産業等)や当該事業の円滑化に寄与する者の参加しか認められない。また、役員の過半数が農業の常時従事者(原則年間150日以上)であり、さらにその過半数は農作業に原則年間60日以上従事している必要があるなど、きびしい規制がある(農地法2条)。
 ただ、今改正でその制限が若干緩和され、農業関係者以外の関連事業者への議決権制限=1関連事業者につき10分の1以下にとどめるとの規制は廃止されるなど、出資受入れの幅が広がった。




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