生活弱者を食い物に…悪徳商法を撃退せよ!
過量販売はクーリングオフ1年!
クレジット業者も責任をもて!
特定商取引法・割賦販売法の改正
〜H21.12.1施行〜

 私たち消費者にとってもっとも身近な法律のひとつである「特定商取引法」及び「割賦販売法」が大きく改正され、平成21年12月1日より施行されました。両法は、消費生活の変化とともに、これまでもたび重なる改正がなされてきました。トラブルに巻き込まれないための、あるいはトラブルから抜け出すための知識が満載された法律です。是非、ご確認ください。

悪徳商法が狙う生活弱者
     依然として深刻な被害が

「特定商取引法」が規制する6つの取引
    ( )内はそよ風で取り上げた号
(1) 訪問販売38133号)
 自宅等への訪問販売のほか、キャッチセールスやアポイントメントセールス(路上であるいは電話等で販売目的を告げずに営業所等に誘い出す)を含む。
(2) 電話勧誘販売84133号)
 電話で勧誘して申込みを受ける。
(3) 通信販売133号)
 新聞雑誌・インターネット・テレビ・カタログ等で広告し、郵便や電話・パソコン等の通信手段で申込みを受ける。
(4) 特定継続的役務提供(102133号)
 高額な価格を伴う長期・継続的なサービス(エステ・語学教室・家庭教師・学習塾・パソコン教室・結婚情報サービスの6つが対象)を提供する。
(5) 連鎖販売取引84133号)
 [いわゆるマルチ商法]
 個人を販売員として勧誘し、さらに次の人を勧誘させて、次々に販売組織を連鎖的に拡大して商品・役務を販売する。
(6) 業務提供誘引販売取引(111133号)
 [いわゆる内職モニター商法]
 仕事を斡旋すると引きつけ、仕事に必要だと商品購入や講座受講等を義務づける。

 「特定商取引に関する法律」(特商法)は、消費者トラブルの事例が多い左の6つの取引形態を規制しています。
 (1)・(2)は消費者が求めもしないときに突然勧誘を受けるわけで、(3)も対面で商品や販売条件を確認できないという難点があり、また(4)は長期にわたり高額の負担となり、(5)・(6)はビジネスに不慣れな個人を勧誘する点で、いずれも、消費者を保護するために特別な措置が必要です。
 そして今回改正となったのは、このうち主に(1)・(2)・(3)についての規制です。
 近年、消費者トラブルの筆頭にあげられるのは、いわゆる「次々販売」と呼ばれるものです。ひとたび購入等の契約をすると、それからいわばカモとして次々に販売業者が訪れて、不要な契約を次々に結ばされてしまいます。しかも、悪徳商法は、年金生活、生活保護、一人暮らしといった生活弱者を狙います。認知症の姉妹に不要な住宅リフォーム契約を何度もくり返させ、代金を払えなくなるとその自宅をクレジット会社が競売にかけたという悲惨な事例まで発生しています。
 また、インターネット取引の広がりとともに、返品をめぐるトラブルも増加してきました。
 今回の法改正は、これらに対応して行われるものです。

いよいよ指定制廃止!すべての商品・役務を規制

 従来、特商法では、(1)〜(3)(訪問販売・電話勧誘販売・通信販売)の規制の対象となるのは、同法施行令で定めた58品目の指定商品・21の指定役務(サービス)・3種類の指定権利だけでした。悪徳商法は法の手が届かない指定外のものを扱って被害者を出し続け、政府はそのたびに指定の枠を広げるなど、いたちごっことなっていました。
 そして今回、ようやく商品・役務の指定制度が廃止され、すべての商品・サービスについて、訪問販売・電話勧誘・通信販売の規制対象となりました(2条)。
表1 クーリングオフできない商品・役務
           (施行令6〜7条)
◇◇契約締結後すぐに履行
  ・飲食店での飲食
  ・あんま・マッサージ・指圧
  ・カラオケボックスの使用など
◇通常契約に際し熟考されるもの
  ・車
  ・車のリース・レンタル
◇契約締結後すみやかに提供が必要
  ・電気・ガス等 
  ・葬式
◆使用・一部消費により価額が著しく減少
  ・健康食品
  ・防虫剤・殺虫剤・防臭剤・脱臭剤
  ・化粧品・石鹸・浴用剤・ワックス等
  ・履物
  ・壁紙など
◇3,000円に満たない商品・役務
 ◇◇には書面交付義務もない。
 ◆は開封使用した部分についてのみで,
未開封部分はクーリングオフができる。

 ただし、他の法律で特別な取扱いを規定している商品・役務(不動産・金融商品・旅行など)は、特商法の対象外です。また、クーリングオフ(=頭を冷やして解除。契約後一定の期間内なら無条件で理由も負担もなしに契約を解除できる制度)など一部の規定が適用されない商品・役務もありますのでご注意ください(26条。表1参照)。

訪問販売への規制強化!
    断わられたら再勧誘禁止
    過量販売には1年のクーリングオフ期間

 そして、とくに(1)訪問販売について、次のような規定が新たに取り入れられました。
(1) 一度断わられたら再度の勧誘は禁止!(3条の2)
 しつこい勧誘に根負けして…といった理由で結ばれる契約は正常なものとはいえません。すでに(2)電話勧誘販売では規制されていました(一度断わられたら重ねて電話できない)が、今回、訪問販売にも適用されることとなりました。もっとも、異なる商品についての勧誘や長期間経過してからの再勧誘まで制限はしていません。毅然とはっきり断わることが必要です。また、家の門に「訪問販売お断り」と貼り紙しただけでは、法的には断わったことになりませんのでご注意ください。

(2) 通常の量を超えての契約(過量販売)は1年間クーリングオフ可能!(9条の2)
<参考>
通常、過量には当たらないと考えられる
分量の目安

         (社)日本訪問販売協会作成
健康食品
補正下着等
着物・帯等
アクセサリー
寝具
浄水器
健康機器
化粧品
学習教材
住宅リフォーム
1人につき1年に10ヶ月分
1人につき1年に2セット
1人につき1セット
1人につき1個
1人につき1組
1世帯につき1台
1世帯につき1台
1人につき1年に10個
1人につき1年に1学年分
築10年以上の住宅で1戸につき1工事

 久しぶりに実家に帰ったところ、老親が山のような健康食品・羽布団・浄水器等々に囲まれていた、あるいは屋根・床下・外壁等工事をくり返していた……こんなケースでもあきらめるのはまだ早い!訪問販売で、通常必要とされる量を著しく超えた契約をしたときには、通常のクーリングオフ期間の8日間を過ぎても、1年の間はクーリングオフできることとなりました。過量と知りながらなされたこれらの契約は解除することができます(ただし特別に必要な事情があったと業者が立証できればダメ)。

(3) クーリングオフすればすでに使用した商品の代金も原則返還!(9条5項)
 クーリングオフ期間は、訪問販売では契約から8日以内(過量販売では1年以内)ですが、不実告知(ウソを告げる)や故意に重要事項を告げないとき、あるいはクーリングオフを妨害するような行為があったときには、たとえその期間を過ぎていてもクーリングオフは可能です。

 とはいえ、従来は、その間に使用した商品については、その代価の支払いが必要でした。それに対して役務なら、すでにサービスを受けていたとしても、その代金を請求されることはなく、もし改装工事などが始まっていたときには、業者の負担で原状回復を求めることまでできます。そこで今回の改正で、訪問販売については、受け取った商品をたとえ使ってしまっていたとしても、その代金を請求できないこととしました。つまり、前述の過量販売で布団や浄水器をすでに使用していても引き取ってもらえるということです。返送にかかる費用はもちろん業者もちです。もっとも、健康食品などクーリングオフに制限があるもの(表1)については、開封した部分の負担は必要となりますのでご注意ください。

通信販売への規制強化!
    とくに記載がなければ8日以内の返品OK

 次に、(3)通信販売についても見直され、とくに返品制度が整備されました。

通信販売における返品トラブルの内訳
苦情内容件数構成比
返品・交換513件24.9%
顧客対応356件17.3%
電話が
つながらない
254件12.3%
商品の
未着・延着
235件11.4%
その他703件34.1%
(日本通信販売協会2006年度「通販110番」)
 通信販売では、インターネットであれ、テレビであれ、カタログであれ、消費者は購入するかどうかをじっくり考えることができます。このため、残念ながら、法律上、クーリングオフ制度はありません(もっとも、多くの業者は実際には返品に応じている)。
 特商法では、この返品の可否等について、広告に記載することをこれまでも義務づけていました。とはいえ、記載がないときには返品できないという扱いでした。このためインターネット取引の拡大とともに、返品トラブルが急増していました。そこで今改正で、広告の中に返品について記載がないとき、あるいはたとえ記載されていても非常にわかりにくい場合には、商品等を受け取った日から8日間は返品ができることと定めました(15条の2)。ただし、送料は消費者の負担です。もし「返品不可」等きちんと明確な表示があれば、その表示どおりの扱いとなり、あくまでクーリングオフはできませんのでご注意ください。
   *       *       *

 ちなみに、電子メールでの広告は、平成21年12月1日より、あらかじめ消費者が請求・承諾しない限り、原則として送信が禁止されています(オプトイン規制。12条の3・4)。契約の成立・商品発送の通知メールに付随して広告する、あるいは消費者の承諾を受けて送るメールマガジン等に広告を掲載するなどが例外的に認められるだけです。

被害額拡大の最大原因! 個別クレジットの怠慢

 ところで、消費者被害がこれだけ深刻なものになっている大きな原因は「個別クレジット」にあります。

 現金取引なら持っているだけ、カードでの買物でも限度額まで(包括クレジット)と、たとえ被害にあっても限度があります。ところが、訪問販売でよく行われるのが、カードを使わず、契約ごとに書面で分割払いの申込みをするやり方です(個別クレジット)。このやり方では、クレジット会社はほとんどチェックせず、次々販売で契約が重なると被害額は青天井となりとても支払いきれない額に達してしまいます。
 というわけで、特定商取引法の改正にあわせ、「割賦販売法」も大きく改正されました。
 まず、これまではクレジットカードを発行する会社のみが登録の対象でしたが、改正により、カードを発行せずとも個別クレジットを扱う業者にも登録制が導入されました(35条の3の23)。純資産額や法の遵守・苦情処理体制が整っているかなど一定の基準を満たさなければならず、また、行政による指導監督がようやく届くことになります。
 そしてこの個別クレジット業者(個別信用購入あっせん業)に、販売業者の活動を監視させるなど、重い責任を課すこととなります。

クレジット会社は悪徳業者を監視せよ!

 これまでは、契約をするのは販売業者、クレジット会社はお金を立て替えるだけと、トラブルのかやの外ですませてきましたが、当該契約によってクレジット会社も利益を得るわけですから、個別クレジット業者も、これからはそれに見合った責任を負うこととなります。
 特商法の(1)訪問販売、(2)電話勧誘販売、(4)特定継続的役務提供、(5)連鎖販売取引、(6)業務提供誘因販売取引をめぐってのクレジット契約について、次のようなことが個別クレジット業者に義務づけられます。
(1) 販売業者と加盟店契約を結ぶ際にまずチェック
 これらの取引を行う業者と加盟店契約をする際には、不実告知や威迫・困惑的勧誘が行われていないか等をきちんと調査し、その記録は保存されます。
(2) 消費者との個別契約時にも再度チェック(35条の3の5・7)

 これらの取引についてクレジット契約の申込みがあった際には、消費者に対して、販売業者による不適切な行為がなかったかを電話等で調査し、記録を5年間保存します。問題があれば、与信(立替払)はもちろん禁止されます。
(3) 申込時と契約締結時に書面交付を義務づけ(35条の3の9)
 クレジット契約締結時の書面交付(従来から義務づけ)に加え、契約申込時点でも書面を交付することとなりました。記載事項も拡充され、申込時点で支払総額がわかるようになっています。
取引形態ごとの
クーリングオフ期間
(1) 訪問販売           8日間
   (ただし過量販売なら1年間)
(2) 電話勧誘販売        8日間
(4) 特定継続的役務提供    8日間
(5) 連鎖販売取引       20日間
(6) 業務提供誘因販売取引 20日間

(4) 個別クレジット契約にクーリングオフを導入(35条の3の10・11)
 これまでは、訪問販売等の契約をクーリングオフすればそれ以降はクレジットの支払いは不要とはいえ、すでに支払った分までは戻ってきませんでした。今改正により、カードを使わない個別クレジットではクーリングオフができることとなりました。
 これら販売業者との取引に際して個別クレジットを利用した場合には、これからは、クレジット会社にクーリングオフ手続をして契約を解除することとなります。そうするとクレジット会社は支払ったお金を消費者に返還します(ただし、頭金等を販売業者に直接支払っていたときには販売業者に対してその返還を要求)。そして商品については、販売業者の費用負担で販売業者に返還することになります。ちなみに立替金は、販売業者がクレジット会社に返還します。
(5) とくに過量販売があったときにはクレジット契約も1年間クーリングオフ可能(35条の3の12)
 訪問販売で前述の過量販売が行われたときには、これに伴う個別クレジット契約も、同じく1年以内ならクーリングオフが可能です。手続きは4)と同様です。

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 「割賦販売法」ではこれまで、2ヶ月以上3回払い以上の分割払いを対象としてきました。しかし、法律が適用されないようにボーナス一括払いとするケースもあるため、今改正で、クレジット契約については2ヶ月を超える取引なら、たとえ一括払いであっても規制の対象とすることとしました。
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 クレジット規制については、さらに平成22年6月ころまでに「支払い能力を超える過剰な立替払」を禁止するための新制度もスタートする予定です。「支払い能力を超える過剰な貸付」を禁止するための改正貸金業法が全面施行されるのと同時に実施される見込みですが、今のところ施行日ははっきり決まっていません。新制度スタートに合わせてそよ風紙でも改めて解説する予定です。

悪徳商法の差し止めを適格消費者団体が請求

 特商法をめぐっては、平成21年12月1日から、もう一つ新たな制度がスタートしました。「消費者団体訴訟制度」の導入です。
現在認定されている「適格消費者団体」
◎ NPO法人「消費者機構日本」
◎ NPO法人「消費者支援機構関西」
◎ 社団法人「全国消費生活相談員協会」
◎ NPO法人「京都消費者契約ネットワーク」
◎ NPO法人「消費者ネット広島」
◎ NPO法人「ひょうご消費者ネット」
◎ NPO法人「埼玉消費者被害をなくす会」 

 「消費者契約法」の中には、消費者全体の利益を守る立場から、個々の被害者に代わって第三者が、事業者の不当な行為・契約をやめるよう差止め請求ができる制度があります(そよ風148号参照)。本来、被害者のみがもつこれら請求権を、第三者に付与するユニークなシステムです。交渉・裁判によって差止め請求ができるのは、認定された一定の消費者団体(適格消費者団体)に限られ、現在7つの団体があります。
 平成20年の法改正により、この適格消費者団体に、さらに一定の差止め請求権を与えることが決まりました。具体的には、「不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)」「特定商取引に関する法律(特商法)」に規定する不当行為の差止めです。すでに平成21年4月1日からは、景品表示法については施行されており、不当表示への対応が可能となりました。
 そして平成21年12月1日からは特商法についてもいよいよ施行されます(58条の4〜10)。放置すれば消費者被害が拡大しそうなときには、弱い立場の個々の消費者に代わって、適格消費者団体が不当な行為の差し止めに乗り出すこととなります。
 こうして、法律に基づく行政処分や刑事処分と並んで、消費者被害を防止するための民間団体の活躍も期待されるところです。
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 今回の特定商取引法・割賦販売法の改正では、罰則も強化されています。「不実告知」「重要事項不告知」「威迫・困惑行為」という重大な禁止事項を犯した場合、登録なしに個別クレジット業を営んだ場合には、3年以下の懲役または300万円以下の罰金(併科あり)に処せられることとなりました。
 もし、現実に悪徳商法の被害にあったら、あるいは被害にあいそうになったら、一人で悩むことはありません。お近くの消費者センターに迷わず相談しましょう。妥当で適切な解決の道をさがす心強い味方です。




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