100年はタイコ判!!
頑丈に造って計画的に手入れする
長期優良住宅法の制定
〜H21.6.4施行〜



30年で取り壊される日本の住宅……

 住宅は多くの人にとって、生涯をかけた大きな買い物です。とはいえ、長期にわたる住宅ローンを払い終わった頃には、建物の評価額はほぼゼロになっている…というのがいわば常識といえましょう。土地は近年神話が崩れたとはいえまだ資産足り得ますが、建物については資産としていかにも頼りない存在です。
 しかし、世界最古の木造建築という法隆寺は1300年たっても世界遺産として大事に守られるなど、けっしてわが国の建築技術が劣っているわけではありません。
 ヨーロッパやアメリカでは、古い建物に手を入れて住む、ライフスタイルにあわせて次々に(中古住宅を)住み替えるといったことが当然のように行われています。ところが、日本では取り壊される住宅の平均年数は築わずか30年にすぎません。一方、アメリカでは平均55年、イギリスでは77年です。また、日本では売買されるのは新築住宅が主流で、中古住宅の流通量は全体のわずか13.1%でしかありません。これに対してアメリカでは77.6%、イギリスでは88.8%を占めています。
 日本では、まだ住める家がどんどん取り壊されているのが実情です。家族構成が変化したから取り壊す、土地の高度利用をはかるために取り壊す──土建国家日本は、次々に建物を取り壊すことが豊かさだと勘違いしてきたのかもしれません。
 ここにきて、経済は長期にわたり低迷し、人口減少の時代を迎え、また地球環境への負荷を減らすことも急務となっています。これからは、住宅を長期にわたり利用する必要が生じてきました。
 そこで、良質な住宅を確保して長期にわたり利用しようと「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」が新たに制定されました。

こんな建築計画を”長期優良住宅”と認定

<ことば欄>
☆建築主事
 都道府県と一定の市町村に勤務する公務員で、
建築技術・建築法令に精通した専門家。
建築確認や工事完了検査などの事務に当たる。
都道府県と政令指定都市(人口25万人以上)
に設置が義務づけられているが、
その他市町村も任意に置くことができる
(建築基準法4条外)。
 そして認定制度を導入することとしました。
 住宅を新築・増築・改築しようとするときに、国が定める一定の基準を満たすなら、その計画を「長期優良住宅建築等計画」としてお墨付きを与えるものです(法5条)。申請先は、建築主事(ことば欄参照)を置く市町村・都道府県知事で、詳細な設計図や説明書を添付する必要があります。
 さて、長期優良住宅と認められる基準は以下のようなものです(法6条、2条4項。「長期使用構造等とするための措置及び維持保全の方法の基準」でくわしく規定)。いずれも、住宅性能評価基準を上まわるきびしいものとなっています。

1 長期使用構造・設備であること(新築住宅に適用)
   (a) 構造躯体の劣化対策
  少なくとも100年程度は使用できるよう、細かい仕様が決められる。
  木造住宅では、点検のために床下等の点検口の設置や点検のための高さも確保する。
  (b) 耐震性
  きわめてまれな大地震にあっても継続使用できるよう、損傷を少しでも抑える基準が定められる。
  (c) 可変性
  ライフスタイルの変化に応じて間取りの変更が可能なように、共同住宅では配管・配線のための天井裏の高さを確保する。
  (d) 維持管理・更新の容易性
  内装設備は構造躯体に比べ寿命が短いため、補修・更新などが容易にできる措置を講じること(配管等を躯体に埋め込まない等)。
  (e) バリアフリー性
  将来のバリアフリー改修に対応できるよう、共同住宅では廊下の幅員やエレベーターの入り口幅などに必要なスペースを確保する。
  (f) 省エネルギー性
  断熱性能等が高く、平成11年省エネ基準に適合すること。

2 住宅規模の定め
 一戸建てで75平方メートル以上、共同住宅で55平方メートル以上(1つの階につき階段部分を除いて40平方メートル以上必要)。
 ただし、地域事情に応じて基準の引上げ・引下げも可能(下限は一戸建て55平方メートル・共同住宅40平方メートル)。

3 居住環境の維持・向上に配慮する
 地域の景観にふさわしいもので、地区計画や建築協定、景観協定などを遵守していること。

4 あらかじめ維持保全計画を定める
 将来を見すえて、定期的な点検・補修の計画を策定する。構造躯体や雨水浸入部、給排水設備について、少なくとも10年ごとに定期点検を実施し、地震・台風時には臨時点検を実施する。その結果を踏まえて修繕・改良を加えること。

 このように、住宅自身を頑丈なものにするだけでなく、将来の保守管理体制をも整えて長期利用をめざします。居住者・管理組合では、「住宅履歴書」を作成し、いつどんな内容の点検・補修等を行なったかをきちんと残しておく必要があります(法11条)。中古住宅の売買の際には、当初の設計図等の資料に加え、この住宅履歴書とその資料ごと引き継がれていくことになります。
 そして長期優良住宅では、住宅性能評価書「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(そよ風105号)により平成12年導入されすでに広く活用されている)が売買契約を結ぶ際に添付・交付されたときには、たとえ中古住宅であっても、その評価書に記載された性能をもった住宅を引き渡すことが約束されたことになります(法16条。ただし、契約書にそうしない旨を記載した場合は無効)。
 これらの措置により、中古住宅への信頼が増し、日本でも中古住宅市場が活性化することが期待されます。新婚世帯から子育て世帯、親との同居世帯、そして再び夫婦2人世帯へと、ライフステージにあわせて気軽に住み替える時代がやってくるかもしれません。

長期優良住宅には さまざまな優遇税制

 長期優良住宅では、住宅金融支援機構を利用して最長50年のローンも可能となりました。また35年ローンでも優遇金利(0.3%引下げ)を当初20年間受けることができます。高齢者が維持保全のための資金貸付けを受ける際にも配慮がなされます。
認定長期優良住宅への住宅ローン減税
居住開始控除対象
限度額
控除率控除期間最 大
控除額
平成21年5000万円1.2%
(1.0%)
10年間600万円
(500万円)
平成22年5000万円600万円
(500万円)
平成23年5000万円
(4000万円)
600万円
(400万円)
平成24年4000万円
(3000万円)
1.0%400万円
(300万円)
平成25年3000万円
(2000万円)
300万円
(200万円)
 また長期優良住宅には、税制上の優遇措置もあります。住宅ローン減税も一般住宅に比べて手厚く、性能強化費用分の所得税控除も認められます(右表)。このほか、平成22年3月末までの期間に限って、(1)所有権保存・移転登記の際の登録免許税を0.1%に引下げ(一般住宅は0.15%、0.3%)、(2)不動産取得税の課税控除額を1300万円に引上げ(同1200万円)、(3)固定資産税の減額措置(2分の1に)の適用期間を戸建てで5年間(同3年)、マンションで7年間(同5年)に延長する措置がとられています。税制上の優遇措置には、いずれも独自の適用条件がありますのでご確認ください。
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 大手デベロッパーは、すでに新制度を受けて盛んな営業活動を行なっています。しかし、長期優良住宅の認定制度が、逆に既存の優良な住宅を取り壊すことになっては本末転倒であり、慎重な対応が望まれます。




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