H21.5.21スタート
裁判員制度(上)

「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」



 平成16年5月の法制定から実に5年の準備期間をへて、いよいよ平成21年5月21日より裁判員制度がスタートします。そよ風誌でも、今号と来号の2回に分けてこの新制度を解説しましょう。

裁判員が裁くのは――重大な刑事事件に限定

 裁判員制度が導入されるのは、「刑事裁判」(ことば欄参照)についてです。犯罪を犯したとして訴えられた人(被告人)が有罪か無罪か、もし有罪ならどれくらいの刑を科すのが妥当かを、原則として、裁判官3人と裁判員6人の合議体で決めることとなります(2条2項、6条1項)。
表1 裁判員制度の対象となる事件とは?
(1) 殺人(人を殺した)
(2) 強盗致死傷(強盗が人にケガをさせたり死亡させた)
(3) 現住建造物等放火(人が住んでいる家に放火した)
(4) 身代金目的誘拐(身の代金を取る目的で人を誘拐した)
(5) 危険運転致死(ひどく酔って車を運転して人をひいて死亡させた)
(6) 傷害致死(人にケガをさせた結果死亡した)
(7) 保護責任者遺棄致死(子供に食事を与えない等放置して死亡させた)
などの重大な犯罪

 素人である裁判員が判断するのですから、判断が容易な軽微な犯罪か…というと、まったく逆で、対象となる犯罪は、(1)死刑または無期の懲役・禁錮にあたる罪、(2)法律上裁判官が複数で審議することとなっている事件のうち故意の行為で被害者を死亡させた罪、ときわめて深刻な罪に限定されていて(二条一項)、具体的には表1のような犯罪をめぐる裁判を扱うこととなります。
 もともと裁判員制度は、裁判官や弁護士・検察官といった専門家に司法を任せっきりにするのではなく、広く国民の良識を反映させ、司法に対する国民の理解・信頼を高めようと考えて導入されたものです。重大な刑事事件に、広く国民の意思を取り入れようというわけです。

裁判員が裁くのは――一審地方裁判所に限定

 ただ、裁判員制度が行われるのは、第一審の地方裁判所レベルです。
 日本では、ご存じのように三審制が採用されています。一審の判決に不服があれば高等裁判所へ(控訴審)、さらに不服があれば最高裁判所へ(上告審)と、裁判を受ける権利は3回にわたって保障されています。裁判員はこのうち、1回目の審理を担当するもので、控訴審・上告審は従来どおり裁判官だけで判断します。
 そして実際に裁判員制度が導入されるのは、全国にある地方裁判所の本庁50ヶ所(各都道府県所在地と北海道の函館・旭川・釧路)のほか、地方裁判所の支部10ヶ所(立川・小田原・沼津・浜松・松本・堺・姫路・岡崎・小倉・郡山)の合計60ヶ所のみに限定されています。その他の地裁支部では裁判員制度は行われません。
 裁判員としてみなさんが出向くのは、原則として、お住まいの近くの上記地方裁判所となります。

裁判員候補者にあなたも選ばれる!?

 それでは、いったいどのようにして裁判員は選ばれるのでしょうか。
 毎年、各地方裁判所では、その管内での裁判員制度の対象となる事件件数を考慮して、管内の市町村に必要な人数を連絡します。そして各市町村の選挙管理委員会は、くじで、衆議院選挙名簿から必要な人員を選び出し、これをもとに裁判所は翌年の裁判員候補者名簿を作成します(20〜23条)。

 そして毎年11月、こうして選ばれた裁判員候補者に一斉にお知らせが発送されます(25条)。平成20年秋は、全国で約29万5000人に発送されました。その中には「調査票」が同封され、裁判員になることに支障がないかが調査されます。
表2 裁判員への就職禁止事由
(1) 国会議員・国務大臣・国の行政機関の幹部職員
(2) 裁判官・検察官・弁護士(やめた後もダメ)
(3) 弁理士・司法書士・公証人
(4) 裁判所職員・法務省職員・警察職員等(非常勤は可)
(5) 大学の法律学の教授・准教授(助教授)
(6) 知事・市町村長・特別区長
(7) 自衛官
(8) 禁錮以上にあたる罪で起訴されて裁判中の人
(9) 逮捕・勾留されている人
など

 裁判員になるにはいくつかハードルがあります。
 まず、欠格事由と呼ばれるもので、(1)義務教育を終了せずその程度の学識がない者、(2)禁錮以上の刑になった者、3)心身の故障で職務遂行に著しい支障がある者、については裁判員となることはできません(14条)。
 また、表2のとおり、広く国民の意見を反映するための制度という趣旨から司法の専門家は除かれ、その他一定の職の人は裁判員になれません(就職禁止事由、15条)。
 これとは別に、希望すれば辞退することができるケースもあります(辞退事由、16条)。
 そこで「調査票」で、まず、就職禁止事由はないか、辞退事由はないかが調査されるのです。
 1年を通じて辞退が認められるのは、次のような人です。

 これ以外は、年に2ヶ月だけ、辞退したい月を回答することができます。その辞退理由として認められるのは、

等々、個々具体的に判断されます。
 就職禁止事由辞退事由に該当する人は調査票を返送し(妥当かどうかの判断材料に学生証や障害者手帳のコピー等簡単な資料を同封するのが有効)、いずれにも該当しなければ調査票の返送は不要です。
 こうして、裁判員になれない人と辞退が一年間認められた人は名簿からはずされることとなります。

*       *       *

 そしてここまでが、平成21年4月1日現在、到達しているところです。
 さあ、ここからは、同法施行の平成21年5月21日以降、どんな手続きが始まるのかを見ることにしましょう。

5月21日からいよいよ呼出状が届いたら……


 これまでは刑事裁判も、月に1〜2度のペースで審理され、長ければ1年以上の期間がかかっていました。裁判員制度の導入に伴い、争点を明確にして集中して審理することとなり、大半は連続した3日間で審理を終える予定です(くわしくは次号で解説)。
 さて、裁判員制度の対象となる事件について裁判の期日が決まると、裁判員候補者には選任手続期日のお知らせ(呼出状)が届きます(26・27条)。
 1つの事件について、50人(3日以内の事件)〜100人がくじで選ばれて(都合の悪い月を記載した人は考慮される見込)、呼出状が発送されます。
 3日以内の審理予定なら裁判期日の6週間前までに、それより長くかかるなら8週間前までに、各地方裁判所は呼出状を発送します。平成21年5月21日以降、選ばれた候補者に順次この呼出状が届くこととなりますが、実際の裁判員裁判が行われるのは平成21年7月以降となるわけです。
 呼出状には、裁判所に行かなければならない日にちと裁判員になったら拘束される日にちが記載されていますが、事件の内容については一切書かれません。そして「質問票」が同封されます。
 「質問票」では、改めて、辞退事由があるか、あるなら辞退したいかが問われます(表3)。これに該当する人は質問票に記載して辞退を申し出て(該当しない人も質問票は返送が必要)、これが認められれば、裁判所から呼出し取消しの連絡が入ります。記載しても連絡の入らなかった人は、辞退がその時点では認められなかったものですから、やはり出頭日には裁判所に出向く必要があります(正当な理由がなく出頭しない場合は10万円以下の過料、112条)。
表3 質問票で尋ねること
(1) 重い疾病又は傷害により裁判所に行くことが困難か
(2) 同居の親族を介護・養育する必要があるか
(3) 事業上の重要な用務を自分で処理しないと著しい損害が生じるおそれがあるか
(4) 親族の結婚式への出席など社会生活上の重要な用務があるか
(5) 妊娠中又は出産の日から8週間を経過していないか
(6) 同居していない親族又は親族以外の同居人を介護・養育する必要があるか
(7) 親族又は同居人が重い病気・けがの治療を受けるための入通院等に付き添う必要があるか
(8) 妻・娘が出産する場合の入通院への付き添い、出産への立ち会いの必要があるか
(9) 住所・居所が裁判所の管轄区域外の遠隔地にあり、裁判所に行くことが困難か
(10) その他、裁判員の職務を行うこと等により、本人又は第三者に身体上、精神上又は経済上の重大な不利益が生ずるか

裁判員はボランティア?
イエ非常勤の国家公務員 日当・交通費も出ます


 ちなみに、裁判員や裁判員候補者として裁判所に出向いた人には、交通費・日当が支払われます。交通費は最も安いルートで計算されますので現実の出費に満たない場合もあります。日当は、裁判員で最高1日1万円、裁判員候補者は最高8,000円です。もし遠方で宿泊が必要なら、宿泊費も1泊8,700円(地域により7,800円)支給されます。

 会社員など雇用者については、「労働基準法」7条で 「労働者が労働時間中に、…公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。」と公民権行使の保障があり、裁判員やその候補者になったことを理由に解雇等の不利益な扱いをすることを禁止しています(100条)。また、企業に対して、裁判員休暇といった有給休暇制度の導入を呼びかけています。ちなみに、有給休暇で給与が出ていても、別途、裁判員等の日当を受け取ることは問題ありません。
 なお、裁判員候補者の名簿に載ったこと、裁判員候補者として呼出しを受けたことなどを、公の場で吹聴する(インターネットでの公表も含む)ことは禁止されています。これは、裁判の公正さを確保すると同時に、裁判員自身をも守るための規制ですのでご理解ください。もっとも、家族や友人、会社の上司など身近な人に話をすることまで禁止しているわけではありませんのでご安心ください。
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 さあ、いよいよ呼出し当日、裁判所に行ってどんなことをするのか、裁判員に選ばれたらどんな仕事をするのかについては、次号で説明することにしましょう。




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