
〜中小企業の承継円滑化法〜
<相><続><時><の><資><産><の><分><散>
今から備える!新制度登場
平成21年3月1日施行

前号に引続き、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」によって、新たにつくられた制度についてご説明しましょう。
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相続については、「民法」で、誰が相続人になるか、相続分はいくらか、遺言書の書き方は…といった点までくわしく定められています。しかし、相続の際に資産が分散して事業の継続が困難となる中小企業が多数あるため、新法では、この「民法」の規定に特例措置をとることとしました。
といっても、民法に定める法定相続分(下表参照)を後継者に有利に変更する、といったことではもちろんありません。相続の際の「遺留分」について、相続人全員の合意があれば、特別な措置ができるというものです。
主な法定相続人と法定相続分
※ 民法では、とくに遺言がない限り、相続人となるべき者と その相続分が以下のとおり定められている(法定相続)。 |
A 配偶者(夫・妻)がいる場合
- (1) 子供がいるとき
- 配偶者(2分の1)と子供(2分の1を各等分)
- (2) 子供がなく父母がいるとき
- 配偶者(3分の2)と父母(3分の1)
- (3) 子供・父母ともなく兄弟姉妹がいるとき
- 配偶者(4分の3)と兄弟姉妹(4分の1を各等分)
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B 配偶者(夫・妻)がいない場合
- (1) 子供がいるとき
- 子供(各等分)
- (2) 子供がなく父母がいるとき
- 父母(各等分)
- (3) 子供・父母ともなく兄弟姉妹がいるとき
- 兄弟姉妹(各等分)
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* なお、子供や兄弟姉妹がすでに死亡していても、それらに 子供が残されていれば、その遺児にその親の相続権が 与えられる(代襲相続)。 |
「遺留分」とは、法定相続人のうち、配偶者・子供・父母に確保されている一定の相続分のことをいいます(兄弟姉妹には遺留分制度はない)。
人は自らの財産を自由に処分できるとはいえ、身近な親族の生活の安定や公平についても考慮する必要があり、民法では、たとえ遺言でどんな片寄った分配を指定しても、最低限の遺留分は保障しようと定めています。
配偶者・子供については法定相続分の2分の1が、父母の場合には3分の1が、それぞれ遺留分として定められます(民法1028条)。もし、現実の相続分がこの遺留分に満たない場合には、他の相続人に対して、遺留分に足りない部分を請求することができます(遺留分減殺請求)。
遺留分の計算方法は、下図のとおりです。いずれも、亡くなった時点での評価額で計算されます。

このうち「特別受益」とは、
- (a) 遺贈分(遺言でとくに遺産を残してもらった)
- (b) 婚姻・養子縁組のための費用(結納金・支度金・持参金など)
- (c) 生活に必要な費用(たとえば、不動産やその購入資金、営業資金、学費など)
をいい、どんなに昔に贈与されていても、相続開始時点での評価額で計算されます。
そこで、元社長や会長の死亡の際に、こんな問題が持ち上がることになります。生前、当時は二束三文の株式や土地等の事業用資産を譲ってもらい、その後、後継者として奮闘して頑張った結果、相続時点では評価があがって莫大な金額となって遺留分に算入されてしまう。──これでは、懸命に資産を増やした後継者はやり切れない思いを味わうこととなります。また、遺留分請求がなされたときには事業用資産も散逸して、事業の継続そのものが難しくなりかねません。
書面合意で、
生前贈与の株式は
遺留分の計算から除外することも可能に
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そこで、(1)3年以上継続して事業を行っている非上場の会社で、(2)株式・持分の生前贈与が行われており、(3)その生前贈与によって後継者が議決権の過半数を有するようになり、(4)現在、すでに代表者として経営に従事している、という条件のもとに、相続人間で次のような合意ができることとしました。
- (a) 除外合意
- 当該後継者に生前贈与された株や持分は、遺留分に算入しない。
- (b) 固定合意
- 当該後継者に生前贈与された株や持分は、遺留分に算入するとき、この合意時の価額(弁護士・会計士・税理士といった専門家の証明が必要)で計算する。
この合意は(a)・(b)のどちらか一方でもかまいませんし、2つを組み合わせることも可能です(たとえば、生前贈与1000株のうち、400株を(a)とし、残り600株を(b)とするなど)。
合意内容には、その後の不測の事態への対処方法も記載される必要があります。つまり、もし合意後にその内容を大きく損ねるような事態(後継者が当該株式等を処分した。旧経営者が死亡するまでに後継者が会社の経営から退いた等々)が持ち上がったときに、後継者以外の推定相続人がどんなことができるかという内容をも規定しておくわけです(たとえば、合意対象となった株式を売却して対価を得たときはその何割かにあたる金額を他の相続人に支払うとか、当該合意そのものを解除するなどが考えられる)。
合意は、遺産分割協議書と同じで、推定相続人全員が、書面によりしなければなりません。
また、(a)・(b)の合意に際しては、あわせて、次のような合意をすることも可能です。
- ◆ 後継者に生前贈与された株式以外の財産(不動産や預貯金等々)についても、その全部あるいは一部を遺留分の算定から除外する(ただし,b)固定合意に準じた価額固定の内容は不可)。
- ◆ 後継者を優遇することとなるこれら合意とのつりあいを考慮して、他の推定相続人に生前贈与された財産についても、その全部または一部を遺留分から除外する。
- ◆ その他、衡平のために他の推定相続人に有利な取決めをする。
これらは、株式についての(a)・(b)の合意書に併せて記載しておく必要があります。
合意書は、
経済産業大臣の確認→家庭裁判所の許可で、
はじめて効力発生
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できあがった合意書は、このままではいけません。
まずは、経済産業大臣の確認を得ることが必要です(各地の地方経済産業局で受け付ける)。ここで、この法律に沿った内容となっているかどうかがチェックされ、問題がなければ、経済産業大臣名の確認書が発行されます。
そして、この確認を受けた後、今度は、家庭裁判所(合意書で被相続人となっている旧代表者の住所地を管轄する家庭裁判所)に許可を申し立てます。ここでは、合意が当事者全員の真意から出たものであるかどうかが判断され、この許可が出たとき、はじめて合意書の効力が発生することとなります。
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この制度は、平成21年3月1日から施行されます。「相続」に悩む中小企業の経営者にとって、有効な制度として活用されるかどうか、今後の利用実態が問われます。


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