☆中小企業の承継円滑化法☆
経営者の交代をスムーズに
金融支援と相続税の納税猶予
//H20.10.1施行//



経営者の後退・引継ぎに中小企業は四苦八苦

 日本の中小企業には、その道では世界で一、二を争うほどの高い技術をもった会社も少なくありません。また大企業も、これら中小企業の下支えなしにはとても成立しえません。そして何より、日本の企業の約9割は中小企業であり、雇用者の約7割はそこで働いているのです。日本経済が安定するには、こうした中小企業の健全な活力が不可欠といえましょう。
 ところで、中小企業の大半は、実質的に社長一人のワンマン会社であったり、親族が経営を独占しています。そのため、苦労するのが「相続」にからんだ承継の問題です。社長や会長の死亡をきっかけに会社そのものの存続が危ぶまれる事態が発生することになります。
 たとえば、相続税。納税するために会社の株式や事業用資産の売却・物納を考えている経営者は実に21%にのぼります(平成18年中小企業庁アンケート)。また、相続による資産の分散。中小企業経営者の個人資産のうち平均3分の2は自社株式や事業用不動産等で占められています(同アンケート)。このため、一人の後継者だけにそのすべてを譲ることはきわめて困難です。さらに、相続の際にはさまざまな資金が必要となります。納税資金はもちろん、相続のときに分散してしまった株や不動産などを買い戻す資金、経営者が交代したことで信用が低下して金融機関が貸渋り運転資金が困窮する等々、問題は山積です。
法の対象となる中小企業者の範囲
 資本金  または  従業員数
製造業・その他3億円以下300人以下
※1
卸売業1億円以下100人以下
小売業5千万円以下50人以下
サービス業5千万円以下
※2
100人以下
※3
※1 ゴム製品製造業(自動車又は航空機用タイヤ及び
   チューブ製造業並びに工業用ベルト製造業を除く)は900人以下
※2 ソフトウェア・情報処理サービス業は3億円以下
※3 ソフトウェア・情報処理サービス業は300人以下
   旅館業は200人以下
 そこで、こうした中小企業の承継問題を支援するため、新たな法律「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」が制定されました。対象となるのは、左表のような中小企業(会社・個人)です。

承継に必要な資金を少しでも借りやすくする

 まず、平成20年10月1日からスタートしたのが、金融支援策です。
 経営者の承継がらみで金策に困っている中小企業(ただし、非上場会社か個人事業主)であることを経済産業大臣に認定してもらえば、その解決に必要な資金繰りのための便宜がはかられます(12条。申請は各地方経済産業局で受け付ける)。
(1)信用保証協会に貸し倒れの際に支払われる信用保険(中小企業信用保険法3条・3条の2・3条の3)は、事業の承継にかかる資金については通常とは別枠で増額できるようになります(13条)。このため、金融機関に融資してもらいやすくなります。また、(2)会社の代表者個人には、株式会社日本政策金融公庫等からの融資を受けることも可能です(14条)。ただし、いずれも、金融上の審査はもちろんなされるので必ず借りられるとは限りませんのでご注意ください。
 なおこの金融支援は、相続によって親族が承継する場合に限定されていません。経営者が退任して承継するときや、親族以外の役員や従業員が買収によって承継するときにも広く活用できる制度となっています。

相続税の納税猶予――自社株の80%

 相続税については、税法の改正はまだ行なわれておりません。しかし、次の通常国会で審議され、平成20年10月1日以降に発生した相続にまでさかのぼって適用されることになる予定です(附則2条)。
 内容は、相続税課税額のうち、自社株式にかかる分の80%を納税猶予してもらえるというものです。
 ただし、一定の基準を満たす非上場中小企業の株式が対象で、経済産業大臣の認定を受ける必要があります。また、その後五年間はその会社の代表者として経営し続けなければならず、その間、雇用も八割以上を維持する必要があり、相続した株式は売却や譲渡はできず保有し続けねばならない、といった規制がなされる見込みです。
*       *       *

 そして、平成21年3月1日から施行されるのが、相続の際の「遺留分」をめぐる規定です。民法の特例を定めたものですが、これについては次号で紹介することとします。




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