労働者の最低限の生活を守る安全網(セイフティネット)
地域別最低賃金の役割強化
最低賃金法の改正〜H20.7.1スタート〜



今こそ出番! 最低賃金制度の存在意義

 最低賃金──自分に適用される金額はいくらかご存知ですか。漠然と、労働者の生活を最低限守ってくれる決まりといったイメージはあるものの、実際のところはその内容・実態を知らないというのが実情ではないでしょうか。
 近年、雇用はきわめて不安定となり、フリーターやワーキングプア、ネットカフェ難民といった言葉まで生み出す時代……まじめに働いても、生きていくことすらままならないほど深刻な状況……こんなときこそ、最低賃金制度がその役割を発揮しなければなりません。
 「最低賃金法」が実に40年ぶりに大きく改正され、平成20年7月1日からスタートしています。新たな制度の仕組みをご紹介しましょう。

地域別最低賃金とはこんなものです

平成20年度地域別最低賃金
(  )内は平成19年度
都道府県最 低 賃 金発効予定年月日
北海道※
青森※
岩手
宮城
秋田
山形
福島
茨城
栃木
群馬
埼玉※
千葉※
東京※
神奈川※
新潟
富山
石川
福井
山梨
長野
岐阜
静岡
愛知
三重
滋賀
京都※
大阪※
兵庫※
奈良
和歌山
鳥取
島根
岡山
広島※
山口
徳島
香川
愛媛
高知
福岡
佐賀
長崎
熊本
大分
宮崎
鹿児島
沖縄
667(654)円
630(619)円
628(619)円
653(639)円
629(618)円
629(620)円
641(629)円
676(665)円
683(671)円
675(664)円
722(702)円
723(706)円
766(739)円
766(736)円
669(657)円
677(666)円
673(662)円
670(659)円
676(665)円
680(669)円
696(685)円
711(697)円
731(714)円
701(689)円
691(677)円
717(700)円
748(731)円
712(697)円
678(667)円
673(662)円
629(621)円
629(621)円
669(658)円
683(669)円
668(657)円
632(625)円
651(640)円
631(623)円
630(622)円
675(663)円
628(619)円
628(619)円
628(620)円
630(620)円
627(619)円
627(619)円
627(618)円
H20.10.19
H20.10.29
H20.10.30
H20.10.24
H20.11.2
H20.10.30
H20.10.22
H20.10.19
H20.10.20
H20.10.16
H20.10.17
H20.10.31
H20.10.19
H20.10.25
H20.10.26
H20.10.25
H20.10.19
H20.10.22
H20.10.25
H20.10.16
H20.10.19
H20.10.26
H20.10.24
H20.10.26
H20.10.18
H20.10.25
H20.10.18
H20.10.22
H20.10.25
H20.10.31
H20.10.26
H20.10.19
H20.10.18
H20.10.26
H20.10.29
H20.11.7
H20.10.19
H20.10.24
H20.10.26
H20.10.5
H20.10.25
H20.10.30
H20.10.17
H20.10.29
H20.10.26
H20.10.18
H20.10.31
※は生活保護レベルより低い都道府県
平成19年度の全国加重平均は687円
 まずは右表をご覧ください。これが、「地域別最低賃金」です。
 あまねく地域を網羅し、各都道府県ごとに一つずつ定められねばなりません(9条1項、地域別最低賃金の義務化。何と、これまでは全国各地域において最低賃金を決める法的義務はなかった)。
 きわめてシンプル!年齢、性別、学歴はもちろん、正社員・パート・アルバイト・派遣社員・契約社員等々といった雇用形態も問いません。いやしくも労働者として働いたからには、職場のある地域の最低賃金額が最低限保証されます。埼玉県に住む人が東京都で働くなら、東京都の最低賃金が適用されるわけです。派遣労働者の場合には、派遣先の事業所のある地域の金額が適用されます(13・18条。従前は、派遣元の最低賃金が適用)。
 単位は1時間当たり(3条。従前は、時間・日・週などバラバラだった)。
 対象となる賃金は、基本給と各種手当ですが、次のものは除外して計算されます。

 つまり、基本給のほかに、職務手当・役職手当・営業手当・住宅手当等々、呼び方はさまざまでも、通常の労働時間・労働日に対応する賃金が対象となります。また、食事が支給されるなど現物で支給される分も適正に評価されることとなっています。
 日給制の方は、日給額を1日の所定労働時間で割って比較してみてください。月給制の場合には、賃金額を時間当たりに換算しなおして(月給額×12を年間所定労働時間で割る)比較することとなります。

労働者の最低限度の生活を保障するセイフティネット――地域別最低賃金

 地域別最低賃金は、毎年、10月頃に改定されます。
 中央最低賃金審議会で一応の目安を示し、それを参考に各都道府県最低賃金審議会(いずれも公益代表・労働者代表・使用者代表が各同数で構成される)が意見を出して、最終的に各都道府県労働局長が決定します。
 決める際に考慮されるのは次の3点です。

 とくに改正法では、このうち(1)生計費について、憲法が保障する健康で文化的な最低限度の生活ができるように、生活保護の支給額とのかねあいに配慮することを新たに盛り込みました(9条3項)。
 現状では、何と12の都道府県において、最低賃金は生活保護のレベルを下まわっています。これでは、生活できないのも当たり前。働く意欲も失せるというものです。そこで、(3)支払能力に傾きがちだった決定を改め、生活保護レベル以上をめざすこととしました。つまり、地域別最低賃金が、労働者の最低限度の生活を保障する安全網(セイフティネット)であると、明確に位置づけたわけです。
 使用者は、この地域別最低賃金以上の賃金を支払わなければ、50万円以下の罰金が科せられることとなります(40条。従前は、2万円以下の罰金)。

より高い水準の最低賃金――産業別最低賃金

産業別最低賃金(特定最低賃金)の一例
[平成20年10月1日時点]
<東 京>
地域別最低賃金766円H20.10.19






鉄鋼業822円H19.12.31
一般産業用機械・装置,
真空装置・真空機器製造業
810円H19.12.31
電気機械器具,情報通信機械器具,
精密機械器具製造業
806円H19.12.31
自動車・同附属品製造業,船舶製造・
修理業,船舶機関製造業,航空機・同
附属品製造業
809円H19.12.31
出版業805円H19.12.31
各種商品小売業779円H19.12.31
<兵 庫>
地域別最低賃金712円H20.10.22






繊維工業,靴下製造業745円H19.12.1
塗料製造業849円H19.12.1
鉄鋼業829円H19.12.1
一般機械器具製造業815円H19.12.1
電気機械器具製造業,情報通信機械器具
製造業,電子部品・デバイス製造業
779円H19.12.1
輸送用機械器具製造業849円H19.12.1
計量器・測定器・分析機器・試験機・
測量機械器具製造業
782円H19.12.1
各種商品小売業752円H19.12.1
自動車小売業796円H19.12.1
別途,全国を適用地域とする産業別最低賃金が1種類だけある。
「全国非鉄金属鉱業最低賃金 日額5,772円 (H元.5.17発効)」
 さらに、その地域内の一定の産業を対象に、地域の基準より高い最低賃金をとくに決めることもできます(16条、特定最低賃金産業別最低賃金。現在は全部で250定められている)。この決定・改廃には、関係労使からの申し出が必要で、この申し出を受けて、最低賃金審議会が意見を出し、都道府県労働局長が決定します(15条)。
 産業分野が限定されるだけでなく、地域別最低賃金と異なり、対象となる労働者の基準も個々にくわしく定められていますので(たとえば、18〜64歳の労働者、2年目以降の技能習得者など)、該当するか否かは、各都道府県労働局やそのホームページでお確かめください。
 この産業別最低賃金が適用されるケースでは、使用者は、地域別最低賃金より高いこの金額以上の賃金を支払うことが義務づけられます。とはいえ、セイフティネットである地域別最低賃金より優遇された基準を決めるわけですから、違反した場合に前述のような罰則までは科されておりません。

一定の場合に限り 減額できる特例措置

 さて、最低基準といえども、一律に決めると弊害が発生します。たとえば、労働能力が著しく低い障害者が敬遠されてまったく就職できないとか、拘束時間は長いものの実質労働はきわめてわずかといったケースへの対応が必要となります。
 そこで、特別に、次のいずれかに該当するときには、使用者は、個々の労働者ごとに都道府県労働局から減額の許可を受けることができます(7条。従来は、適用除外とされて法の埒外となっていた)。

 もっとも、認められるのはきわめて限定的なケースです。たとえば、(b)試用期間中なら、本採用労働者の賃金でさえ最低賃金すれすれで、しかも試用期間中は賃金を著しく低額にする慣行があるときに限られ、試用期間は最長でも6ヶ月、減額割合は20%以内といった具合です。くわしくは、各労働局でお確かめください。

労基署への申告を理由に解雇等は一切禁止!

 最低賃金が守られていないときには、労働者はそのことを労働局や労働基準監督署に伝え、是正のための措置をとってもらうことができます(34条1項)。それを理由に、労働者を解雇したり、不利益な取扱いをすることは禁止されます(同条2項。違反すれば6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金、39条)。
 ちなみに、使用者には、その事業所に適用される最低賃金のあらましを、見やすい場所に掲示するなどして、労働者に知らせるための措置をとることが義務づけられています(8条。違反すれば30万円以下の罰金、41条)。
*       *       *

 地域別最低賃金は、これから2〜5年かけて、生活保護レベルの金額に追いつく予定です。しかし、生活保護なら社会保険料も不要、医療費の自己負担もゼロ、といった点も考え合わせると、最低賃金が生活保護レベルに真に追いつくのはまだまだ多難といえそうです。




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