エッ、本人確認?! エッ、委任状?!――ハイ、あなたを守るため
戸籍事務・住民票窓口事務が厳格

戸籍法・住民基本台帳法の改正
〜平成20年5月1日施行〜



 私たちにとって最も身近な法律の一つである「戸籍法」が改正され、戸籍の届出や戸籍謄本等の申請手続きが,よりきびしく厳格になりました。また、これに伴って、「住民基本台帳法」も改正され、住民票の申請にあたっても同様のルールが適用されることになりました。

プライバシー保護
      不正な届出を防ぐため

 近年、プライバシーの保護を求める考え方が高まり、「個人情報保護法」(そよ風124号)も制定され、個人情報に関連する多くの法律が改正されています。戸籍や住民登録をめぐっても、当初の原則公開制は改められ、今では住民基本台帳の閲覧もきびしく制限されています(そよ風144号) 。戸籍謄本や住民票の交付は、すでに自治体ごとにプライバシー保護のための基準を決めて運用しているところですが、今回の法改正により、この基準が全国的に統一されてきびしいものとなりました。
 また、近年、多額の借財を抱えた人がさらに借入をするため名前(姓)を変えるなどさまざまな便宜上の目的で、実体がないにもかかわらず養子縁組や婚姻の届を出すといった事例が散見されます。そこで、こうした不正な届出を防ぐためのルール作りがなされたものです。

交付申請は厳格に――本人確認を徹底

 戸籍謄本や住民票などの交付は、誰が請求するかによってルールが異なります。

「戸籍法」「住民基本台帳法」の対象となる主な交付書類は?
・戸籍謄本
 戸籍の記載全部をそのままコピーしたもの。
(手数料450円)
・戸籍抄本
 戸籍の記載のうち請求者が指定した部分だけ
   抜いてコピーしたもの。

(手数料450円)
・記載事項証明書
 戸籍がコンピュータ化された後、戸籍謄本・
   抄本にかわって発行されるもの。
   全部証明と一部の証明がある。

(手数料450円)
・除籍謄本・抄本
 死亡・婚姻・転籍などのため戸籍内の全員が
   いなくなり、除かれた戸籍の謄・抄本。

(手数料750円)
・改製原戸籍謄本・抄本
 戦後家制度の崩壊・コンピュータ化などで、
   新たに戸籍簿が作成されることになったため
   閉鎖された元の戸籍簿の謄・抄本。

(手数料750円)
・戸籍の附票の写し
 戸籍内の各人について、その住所の変遷を
   記載したものの写し。

(手数料は自治体で異なる。約300円)
・住民票の写し
 住民票の一部についての写し。
(手数料は自治体で異なる。約300円)

A 本人等による請求
戸籍の中に記載がある本人、その配偶者(夫・妻)、直系血族(祖父母・親・子・孫など。兄弟姉妹・おじおば・いとこ等は傍系となり不可)は、原則として、請求の理由等も問われることなく自由に交付請求できます。
(住民票の写しについては、同様に自由に交付請求できるのは、同一世帯内の人に限定される。)
B 第三者による請求
それ以外の第三者が交付請求できるのは、次の3つの場合のみです。
表  職務上の請求が可能な有資格者 
1 弁護士
2 司法書士
3 土地家屋調査士
4 税理士
5 社会保険労務士
6 弁理士
7 海事代理士
8 行政書士
     (各法人を含む)

C 弁護士等有資格者による職務上の請求と公用請求
 右表の8つの有資格者は、受任した事件・事務の中で必要となった際には交付請求ができます。また、国や自治体等も、公用事務で必要なときには交付請求ができます。ただ、いずれの場合も、平成20年5月からは従来より厳格な取扱いが行われています。

 次に、どういう方法で交付請求されるかによっても、手続きが異なります。

◆請求者本人が窓口に出向いて請求するとき◆
 本人であることを確認するものを持参しなければなりません。免許証やパスポートなど写真付の公的な証明があればそれを、もしなければ健康保険証や年金手帳などを二種類提示する必要があります。

◆請求者本人ではなく、代理の人が窓口に出向く場合◆
 請求者本人が確かに委任したという委任状の提出が必要です。そして、窓口に出向いた人は、その本人確認のために、自分自身の免許証等、前述の証明書類を持参しなければなりません。
◆郵便で交付請求する場合◆
 同じく請求者本人であることを証明するために免許証等のコピーを同封し、送付先を住民票記載の現住所にしなければなりません。

このように、戸籍謄本や住民票の交付申請においては、きびしい本人確認の措置がとられることになります。

不正な届出が心配なら あらかじめ不受理申出を

 さて、不正な戸籍の届出がなされないために改正された点は以下のとおりです。
 「結婚」「離婚」「養子縁組」「(養子縁組の)離縁」「(父による子の)認知」の5つの届出は、原則として、窓口に出向く必要があります。
その際、本人でも、本人確認のための同様の書類を持参しなければなりません。また、代理人の場合は、代理人自身の本人確認書類を持参します(委任状は必要なし)。
 そして役所では、届出を受理した後、窓口に出向かなかった当事者がいる場合(たとえば、代理人が届を出した場合や夫婦の一方だけが離婚届を出しに来た場合など)、窓口に来なかった当事者に、届出を受理した旨を通知することとなります。
 さらに、不正な届出を防止するため、あらかじめ不受理申出をすることもできるようになりました。
 たとえば、離婚をめぐってもめているとき、一方的に離婚届がなされるのを防ぐために、役所に離婚届の不受理申出があらかじめできるという制度が、従来からもありました。しかし、これは有効期間(6ヶ月)もあり、限定的なものでした。
 今回導入された制度は、上記の5つの届出すべてについて、本人が窓口に出向かない限り受理しないようにと、あらかじめ申し出ることができるもので、有効期間もありません。この不受理申出をしておけば、本人が知らない間に誰かが届出をしても受理されることはなく、しかも、こうした届出がなされた旨は本人に通知されます。
 ただし、この不受理申出の手続きは、必ず本人が役所の窓口に出向く必要がありますのでご注意ください。
<不受理申出用紙PDF文書

 一旦、戸籍に不正な届出がなされてしまった場合には、その戸籍を訂正するには、家庭裁判所での煩雑な手続きが必要となります。離婚や将来の相続などをめぐってもめていたり、不正な届出が懸念される場合には、この制度を利用されるのが一番です。
ちなみに、戸籍謄本等の交付申請をめぐって不服がある場合には、当該市町村役場の所在地を管轄する法務局・地方法務局にまず審査請求をすることとなります。

<ことば欄>
☆ 血族
血筋のつながっている血縁者のグループを「血族」という。ただし、血筋がつながっていなくても「養子」は、法律上、血族とされる。血族には「直系血族」と「傍系血族」があり、直系というのは、自分を中心にして直接上下の関係にある者(祖父母、父母、子、孫など)をいい、傍系というのは、直系の者から枝分かれした系統にある者(兄弟姉妹、おい・めい、おじ・おば、いとこなど)をいう。




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