
悪徳商法に待った!!
消費者の代表として消費者団体に差止権を付与
消費者団体訴訟制度の創設
消費者契約法の改正〜H19.6.7施行〜

「消費者契約法」は、平成13年4月1日に施行された比較的新しい法律です(くわしくはそよ風110号)。私たち消費者と、豊富な知識・情報をもち高い交渉力を有する事業者という、対等でない者の間の契約について、基本的なルールを定めたもので、全部で12条からなるシンプルな法律でした。
しかしこの法律を武器として、これまでも、さまざまな分野で消費者を保護する内容の判例が積み上げられてきました。たとえば、大学入学を辞退した際には払い込んだ授業料は返してもらえる、借家の敷金・保証金は自然消耗分まで差し引かれることはない等々。消費者からみれば当たり前の内容ながら、従来は歪んだ慣行がまかり通っていたものが、この法律の適用によってようやく是正されつつあります。
とはいえ、消費者契約法は、トラブルがあった後の個々の紛争について、取消し等の事後の救済措置を可能にしたにとどまります。残念ながら、多発する同様のトラブルを防いだり、事前に止めることはできませんでした。
そこで、今回新たに、消費者契約法の中に、消費者団体訴訟制度が導入されました。不当な取引を事前に差止めることで、被害の拡大を防ぐことができるようにとの改正です。
本来、事業者を相手に訴訟ができるのは、被害にあった個々の消費者に限られます。ところが、今回創設された消費者団体訴訟制度は、自らは被害を受けていない第三者である消費者団体に、消費者全体の利益を守る立場から、事業者に対して不当な行為・契約をやめるよう求める権利を特別に与えるというユニークなものです。
この差止請求の対象となるのは、消費者契約法の中で定められている下表の不当な勧誘行為と不当契約条項についてです。これら不当行為や不当条項の適用をやめるように求めるわけで、当該事業者の業務全体を停止させるよう求めるものではありません。
消費者契約法で規制される不当行為
不当行為の類型 | 具体的に想定される事例 |
不 当 な 勧 誘 行 為 | 不実告知 (4条1項1号) | 「これを付ければ電話代が安くなる」と勧誘するが、実際は効果がない。 |
断定的判断の提供 (4条1項2号) | 元本保証はないのに「確実に値上がりする」と販売。 |
不利益事実の不告知 (4条2項) | 隣接マンションが建つのを知りながら「眺望・日照良好」と事実を隠して販売。 |
不退去 (4条3項1号) | 自宅等で、帰ってくれと言っても長時間にわたり勧誘。 |
監 禁 (4条3項2号) | 販売店等で帰りたいと言っても長時間にわたり勧誘。 |
不 当 契 約 条 項 の 使 用 | 事業者の損害賠償責任を 免除する条項(8条) | いかなる理由があっても一切損害賠償責任を負わないとする条項。 |
消費者が支払う損害賠償額を 予定する条項(9条) | 消費者が解約したとき、支払済代金は一切返還しないとする条項。 |
消費者の利益を一方的に 害する条項(10条) | 賃貸借契約において、借主に過重な原状回復義務を課す条項。 |
とはいっても、いざ訴訟になれば、事業者には重い負担がかかり、また、消費者団体から訴えられるだけで一気に信用が失墜して大きな打撃を被ることも十分に考えられるわけで、適切な権利の行使が求められます。また、消費者団体の名で、逆に消費者の利益を害するような和解行為が行われることは絶対に防がねばなりません。
そこで、消費者契約法は、一挙に53条へと大幅に条文がふやされて、差止請求ができる消費者団体についてくわしく定めたほか、初めて罰則規定も盛り込むなど、適切な差止請求権の行使を確保するためのきびしいシステムが作られました。
まず、差止請求ができる消費者団体(適格消費者団体)をきびしく選ぶこととし、内閣総理大臣による認定制としました(13条)。
要件は、たとえば、次のようなものです。
- 特定非営利活動法人(NPO法人。くわしくはそよ風95号)か公益法人に限る。
- 主たる目的が不特定かつ多数の消費者の利益を守る活動であり、しかも活動実績(原則2年以上)があること。
- 差止請求や訴訟ができるよう、消費生活専門相談員など消費者問題についての資格のある専門家に加え、弁護士・司法書士など法律の専門家の体制が整備確保できていること。
- 特定の事業者や業種に関係した理事が集まらないような理事会の構成がなされていること。
- 経済的基礎があること。
- もちろん、暴力団に関係していないこと。
- 政治団体でもないこと等々。
平成19年8月1日現在、認定申請中の消費者団体は2団体ありますが、今のところ現実に適格消費者団体に認定されたところはまだありません。
認定の有効期間は3年で、更新手続きを受けねばなりません(17条)。適格消費者団体は、内閣総理大臣の監督下におかれ、また徹底した情報公開が求められます。
適格消費者団体は、あくまで、不特定かつ多数の消費者利益のために、差止請求権を適切に行使しなければなりません。当然ながら、権利の濫用は禁止されますし、特定の政党や政治目的のために利用することも禁止です(36条)。また、差止請求にからんで財産上の利益を得るようなことがあれば、3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられます(49条)。
さて、差止請求は、現実には、裁判外の交渉から始められることとなります。
これまでも、消費者団体の中には、苦情相談を受けて、事業者に具体的な改善を求める申入れを行ってきたところがあります。しかし、法的な裏付けがないため、回答すらしない事業者も多く存在しました。
新制度の導入で、適格消費者団体には、その申入れに法的な根拠が与えられ、最終的には裁判で争えることから、事前の交渉・申入れも効果的に進むことが見込めます。
この裁判外での交渉がうまくいかなければ、適格消費者団体は、訴訟に先立ち、まず、当該事業者に、書面で差止請求をします(41条)。そして1週間の猶予期間を与えた後、実際に裁判所等に訴えを提起することとなります。裁判の中で和解が行われたり、あるいは確定判決が出ると、以降、同一事業者を相手とした同一内容の差止請求は原則としてできないこととなります(12条5項。再訴制限)。複数の適格消費者団体が、同一事業者・同一内容の訴訟をいくつも提起し、異なる判決や和解が混在する事態は好ましくないとの判断です。とはいえ、弁論終結後に生じた事由に基づいて新たに差止請求することも認められており、実際にどういった運用がなされるかはこれからといったところです。
1つの適格消費者団体の行う和解・判決は、このように大きな影響をもって他の団体をも拘束します。しかもいずれの団体も、多数の消費者の利害の代表者として活動するわけですから、お互いに協力しあって活動することが期待されています。そこで、当初の裁判外の交渉から始まり、あらゆる段階で、他の適格消費者団体にもその内容・情報を通知することが義務づけられました。同時に内閣総理大臣に対しても、提訴や和解・判決内容を報告する義務が課せられます。そして、当該適格消費者団体も、国や国民生活センターも、こうした情報を広く国民に公表することとなります。
消費者契約法だけでなく
差止請求だけでなく
――期待される団体訴訟制度
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消費者団体訴訟制度は、まずは消費者契約法の中に初めてお目見えしました。しかしこの法律にとどまらず、来年度中に消費者保護法制は大幅に改正することが予定されています。たとえば、訪問販売等を対象にした特定商取引法、クレジット契約を規制する割賦販売法、不当な宣伝・広告を禁じる景品表示法なども、消費者保護のために大きな改正が予定されています。そしてその中で、本法と同様に消費者団体訴訟制度の導入が検討されているものです。こうした一連の法改正がなされると、消費者団体によるチェックは、より早く、より有効に、被害の発生防止に役立つことが期待されます。
また、今回は、差止請求だけに機能は限定されましたが、将来的には、個々の被害者を代表する形で、適格消費者団体が損害賠償請求を行うことも具体的に検討されているところです。これが実現すれば、差止訴訟を手弁当で行うしかない現状の改善にもつながるとも考えられています。そしてこうした団体訴訟制度は、消費者団体だけにとどまらず、自然環境を守るために自然保護団体にも付与されるなど、異なる分野にも広がる可能性があります。
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差止請求権の基礎になるのは、私たち個々の消費者から寄せられる具体的な事例の積み重ねです。また、適格消費者団体への組織的・経済的な援助も、活動を支える大切な柱です。この新たな制度を、消費者被害を防止する有効な手段とするため、私たち消費者自身の行動も問われています。


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