隠れた差別も見逃さない!労働現場でのトラブルに対応
性を理由とする差別を禁止
男女雇用機会均等法の改正
H19.4.1施行



 今や女性の管理職も珍しくない時代です。とはいえ、現実にはまだまだ男女間の格差があり、差別事案は、表立ったものから、一見してわかりにくい複雑なものへと様変わりしているといえそうです。
 「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)」が改正され、平成19年4月1日から施行されました。

進む女性の社会進出――時代に対応した均等法に

 1986(昭和61)年4月、均等法が施行される以前は、女性の結婚退職制は広く当たり前のこととされていました。均等法の成立により、初めて、定年・退職・解雇などについて女性の差別的取り扱いが禁止されたものの、募集や採用・配置・昇進などについてはまだ努力義務にとどまりました。そして「受付女子」といった募集や女性のみへの湯茶接待の教育なども、当時は女性に不利なものではないと考えられていました(そよ風22号参照)。
 ところが、全雇用者の4割を女性が占めるようになり、社会の考え方も変わってきました。1999(平成11)年4月には、均等法はいよいよ第2ステージに入り、募集や採用・配置・昇進・教育訓練についても、女性への差別はようやく禁止されました。女性を排除することはもちろん、男女で異なる扱いや女性のみを対象とするケースも、結局は男女の役割分担の固定化につながると禁止されます。労働基準法の中の女性保護規定(時間外・休日・深夜労働)も、女性の社会進出を妨げると、このとき、原則としてすべて撤廃されました(そよ風98号参照)。
 均等法制定から21年が経過し、平成19年4月から、同法はさらに一歩踏み出したものとなります。主な改正点をご紹介しましょう。

女性差別ではなく
      性差別を禁止する

 たとえば、一般事務に男性が応募しても採用してもらえない、あるいは、看護師の資格はあっても男性だからと就職できない……こういった事例は、これまで、同法の規制の対象外でした。条文も、従来は「女性労働者に対する差別の禁止」と、もっぱら女性労働者の救済を対象としたものでした。
 改正により、「性別を理由とする差別の禁止」へと、男女双方を対象に、差別を禁止する法律に生まれ変わりました(5条)。いわゆるセクシャルハラスメントについても、男性が被害者となるケースもこれからは規制の対象となります(11条。セクハラ対策は、これまで事業主の「配慮義務」とされてきたが、改正により「必要な措置を講じなければならない」と義務が強化されている)。
 もっとも、このことは、男女格差を解消するために積極的になされる措置(ポジティブアクション、たとえば女性管理職が少ない分野で女性を優先的に昇進させるなど)を禁止するものでないことはもちろんです。

あらゆる雇用管理の場面で差別禁止を徹底

 従来から禁止されていた、募集・採用、配置・昇進・教育訓練、福利厚生、定年・解雇の各場面における差別に加えて、新たに、(1)降格、(2)職種の変更、(3)雇用形態の変更、(4)退職の勧奨、(5)労働契約の更新(雇止め)についても、男女の性別による差別的取り扱いが禁止されます(6条)。そして配置については、とくに、業務の配分と権限の付与を含むことが明記されました。いずれも、現実にトラブルが生じているケースを念頭に整備されたものです。
 たとえば、同じ営業職でも男性は外回りをするが女性は内勤しかさせないとか、男性社員には一定の決定権を与えるのに女性社員は上司の許可を要するとか、契約社員から正社員への登用に際して男女で基準に差をもうけるとか、合理化の際に女性だけを降格したり女性だけに早期退職を働きかけたり雇止めしたり、といった事例が明確に禁止されるわけです。

あからさまでさえなければ……間接差別の禁止!

 あからさまに男女の性別で差をつけることはしないものの、一定の措置をとることによって、一方の性にのみ不利な結果を生じる──これは間接差別といわれ、諸外国ではすでに広く規制の対象となっていました。今改正により、均等法にもこの考え方が取り入れられました(7条)。
 間接差別とされるのは、(a)一見、性別以外の基準で行われているが、(b)結果として一方の性に相当程度の不利益を与えており、(c)その措置に合理的な理由がないものです。均等法の規制対象としては、きわめて限定的に運用されることとなりました。すなわち、同法施行規則で定める次の3つのケースで、合理的な理由がない場合だけが、均等法違反とされることとなります。

(1) 募集・採用にあたって、身長・体重・体力を要件とするケース
 たとえば、荷物運搬業務で運搬に必要な以上の筋力を要件にするとか、機械を使って運搬するのに筋力を要件にするとか、単なる受付など防犯を本来の目的としない警備業務なのに身長・体重を要件にするなど。
(2) いわゆる総合職の募集・採用にあたって、転居を伴う転勤に応じることを要件とするケース
 たとえば、転居を必要とするような広域にわたる支店網やそうした計画もないとか、現実には転居を伴う転勤の実態がほとんどないとか、幹部としての能力育成にそうした転勤の必要性がとくに認められないなど。
(3) 昇進にあたり、転勤の経験があることを要件とするケース
 たとえば、その役職をするためにとくに転勤経験が必要とは認められないなど。

妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いを禁止

 女性が働きつづけるためには、妊娠・出産といった母性の尊重・保護は欠かすことができません。これが逆に、女子労働者への差別につながるようでは、均等法は有名無実となりましょう。
 これまでも、妊娠・出産・産前産後休業をとったことを理由とする解雇は禁止されていました。しかし、現実には、出産に伴う退職の強要や、正社員からパート・アルバイトへの身分変更をやむなくされるなど、さまざまなトラブルが生じています。
解雇その他不利益取扱いが禁止される理由
・妊娠
・出産
・妊娠中や出産後の健康管理措置を申請又は受けた
・坑内業務や危険有害業務の就業制限で働けない旨の申出
 又は従事しなかった
・産前や産後休業を請求または取得
・軽易な業務への転換を請求または転換した
・時間外や休日・深夜労働をしないことを請求または従事
 しなかった(変形労働時間制の職場で法定労働時間内
 での勤務を請求も含む)
・育児時間を請求または取得
・つわりや切迫流産など妊娠出産に起因する症状のため
 働けないまたは労働能率が下がった

 そこで今改正では、保護対象の枠を右表のとおり大幅に広げるとともに、解雇だけでなく、その他不利益な取扱いも禁止することとなりました(9条)。
 たとえば、これらを理由に、雇止めしたり、降格したり、正社員からパート等への身分変更をしたり、本人の意思に反して自宅待機を命じたり、不利益な給与等の算定や配置変更を行うことなどが禁止されます。ここでいう不利益な給与算定とは、他の疾病で同期間休んだり、同程度労働能率が下がったケースと比較して、不当に低く算定することをいいます。
 ちなみに、これらの規定は、当然ながら派遣労働者も対象となります。派遣元・派遣先事業主ともに、これらの理由で、十分働けるにもかかわらず、派遣労働者の交替等を求めることはできません。
 そして、妊娠中及び出産後一年未満の労働者を解雇したときは、事業主がそれ以外が解雇理由であることを証明しないかぎり、その解雇は無効であると定めました(9条4項)。従来は、解雇されてしまうと、復職を裁判で争う際に、労働者が解雇理由のないことを立証しなければならず、大きな障害となっていました。

罰則のない法律から
     はじめての過料を導入

 均等法はこれまで罰則のない法律でした。ただ、事業主に必要な報告をさせ、助言・指導・勧告をし、その際、禁止事項について勧告をしたにもかかわらずこれに従わなければ、企業名を公表するという形での「強制」をおこなってきたのです。ところが、罰則がないばかりに、報告に応じない悪質な企業は企業名を公表されず、一方で報告に応じた企業が公表されるという矛盾が生じていました。
 そこで今改正で、報告しない場合、あるいは虚偽の報告をした場合には20万円以下の過料に処すこととしました(33条)。
*       *       *

 今改正では、同時に「労働基準法」の一部も改正され、女性技術者の要望に応える形で、坑内の監理・監督業務等への女性の従事も認められることとなりました(64条の2)。女性が坑内労働につくことは、これまで原則として禁止されていました。これからは、人力・動力(遠隔操作は除く)・発破による掘削採掘作業など、いわゆる作業員の業務を除いて、女性も坑内業務に就労することができることとなります。ただ、妊婦及び産後1年以内で申し出た女性については、坑内労働に従事させることはできません。
 均等法についてのご相談・お問合せは、各都道府県労働局の雇用均等室へご連絡ください。雇用均等室では、このほか、育児・介護休業法とパート労働法についても扱っています。




ホームページへカエル
「最近の法令改正」目次にもどる
次のページ(「法の適用に関する通則法」〜法例の全面改正〜)に進む