国際取引・国際結婚・海外での事故……
国際的なトラブルをどの国の法で解決するか
基準を定めた「法の適用に関する通則法」
〜平成19年1月1日施行〜



国際化社会と多発するトラブル……準拠法は?

 「法例」という言葉をご存知ですか。実はこれ、れっきとした法律の名前です。“法を適用するときの通例を定めたもの”という意味で、3世紀中国の晋の律令に由来する由緒ある名前です。
 明治31年(1898年)に制定されて以来、これまで、文語体・カタカナ書きのままずっと使用されてきました。
 どんなことが定められているかというと、まず、法律の施行(実際に実施され効力をもつようになること)について、とくにその法律の中で定めていないときには、公布から20日後に施行すると決めています(旧法1条,新法2条。ただ、現実にはそれぞれの法律の中で施行日は明記されている)。また、公序良俗に反しない慣習のうち、法令で認めているもの、あるいは法令でとくに定めていない事項についての慣習は、法と同一の効力を認めると定められています(旧法2条,新法3条)。
 そして、それ以外の規定はすべて、準拠法について定めたものです。つまり、国際取引や国際結婚など国際私法上のトラブルが起こったときに、どの国の法律に準拠して判断すべきかを定めているのです。

準拠法についての法律   
  全面改正・口語文へ

 「法例」のうち、準拠法について定めた条文の中の、夫婦や親子関係といった親族法についての部分は、平成元年(1989年)に見直され、現代的な家族制度や国際化時代にふさわしい内容へと改められました。
 しかし、法例制定から100年以上を経て、制定当時には想像もできなかったほど国際取引が飛躍的に増大しているにもかかわらず、国際的な契約などの財産法関係の準拠法についての規定は手直しがなされないままで、今では実態にそぐわないものとなってしまっていました。
 そこで今回、この「法例」を全面的に改正し、わかりやすい口語体・ひらがな書きにするとともに、法律の名前も、「法の適用に関する通則法」と改めました。と同時に、懸案の財産法関係のルールも新たに大きく改正されることとなりました。
 今回の改正点のうち、私たちの生活にとって身近な問題について、いくつか取り上げてみることにしましょう。

国際取引では契約に最も密接な国の法を適用

 海外で品物を買ったり、個人輸入で海外から商品を取り寄せたことのある方もいらっしゃるでしょう。

 国際取引では、どこの国の法律を適用するのかは、契約の際に、当事者の間で決めることができます。もしこれを決めていない場合には、従来は、契約を結んだ国の法律が準拠法とされていました。しかし、インターネット取引が日常化している現代では、どこで契約を結んだかが判然としないケースが頻発しています。
 そこで新法では、とくに当事者間で準拠法を決めないときには、その契約に最も密接に関係する国の法律を適用することとしました(8条)。その際、不動産についてはその所在地の国の法律が準拠法と推定されます。また、その契約を特徴づける給付を行う側の当事者がいる国の法律が準拠法と推定されることとなります。たとえば、車の輸出入なら、その契約は車を給付することが特徴的な契約といえますから、車を輸出する国の法律が準拠法として推定されるわけです。ただ、これはあくまで「推定」ですから、個々の事情に応じて、いずれが最も密接に関係する国かが決まることとなります。

消費者契約には特別に保護規定を追加

 さて、契約の中には、当事者が対等とはいえず、とくに一方を保護するための措置が必要な契約があります。「消費者契約」と「労働契約」がその典型といえましょう。新法では、これらに特別な規定をおきました。
消費者契約とは──
 個人(事業として契約するものは除く)と事業者(法人・財団・社団等。
事業のために契約する個人も含む)との間で締結する契約をいう。

強行規定とは──
 たとえ当事者が合意したとしても、破ることができない法律上の規定。
たとえば、労働時間や最低賃金についての規定、
消費者に一方的に不利な規定など。
強行規定に違反した合意内容は無効となる。

 まず、「消費者契約」ですが、取引に際してどこの国の法律を適用するかを決めていないときには、消費者の住む国の法律が準拠法となります(11条2項)。さらに、たとえ、契約時にそれ以外の国の法律を適用すると決めていても、消費者は、自国の法律のなかの消費者保護規定(強行規定)を主張すれば、その規定が適用されることとなります(11条1項)。つまり、日本の消費者がインターネットなどで外国から商品を購入する際には、日本の「消費者契約法」などの保護規定を受けることができるわけです。ただ、わざわざ外国に出向いてそこで契約したとき、あるいは海外できちんと商品も受け取ってしまっているときなどは、これらの保護は受けられません(11条6項。ただし、日本にいるときに現地に出向くよう勧誘されて出掛けた場合は除く)。
 次に「労働契約」ですが、契約時にとくに取り決めがなければ、労働契約に最も密接な関係がある地の法、つまり現に労働に従事している国の法が準拠法と推定されます。また、たとえ労働契約の中で、労働者への保護が不十分な国の法律が準拠法に定められている場合でも、実際に働いている国の労働者保護規定(強行規定)を主張すれば、その保護規定が適用されることとなります(12条)。そこで、日本で働いている労働者については、「労働基準法」をはじめとする労働者保護のための法規定で守られるわけです。

不法行為の損害賠償には結果が発生した国の法律

 不法行為(故意や過失によって他人の権利・利益を損なうこと)に対する損害賠償請求等についての準拠法は、従来は、その原因となる事実が発生した地の法とされていました。しかし、原因が発生した地では被害者にとって不利なことが多く、またどこで原因が発生したかわからないことも往々にしてあります。
 そこで、被害者の立場を優先するため、新法では、不法行為の準拠法は、原則として、不法行為の結果が発生した(被害が生じた)場所の法律を適用することとしました(17条)。
 ただ、「生産物責任」「名誉・信用の毀損」については特例が設けられています。
 PL法(製造物責任法)のように、生産物の欠陥によって被害が生じた場合は、被害者がその生産物の引渡しを受けた地の法律が準拠法となります(18条)。たとえば、外国製品を日本で購入し、海外赴任先で使っているときに発火してけがをしたようなケースでは、商品を入手したのは日本ですから、日本の法律が適用されることとなります。
 また、名誉・信用の毀損は、被害者の住んでいる国の法律が準拠法となります(19条)。世界各国で名誉を傷つけるような行為がなされたとしても、被害者の国の法律にしたがってすべて裁かれることになるわけです。
 ただ、不法行為の当事者の住まいが同一の国であるなど、法で定められた準拠法の基準よりも明らかに密接な関係がある国がある場合には、その国の法律が適用されることになります(20条)。たとえば、ヨーロッパにスキーに行った日本人同士がぶつかってけがをしたような場合には、日本法が適用されるわけです。
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 新法は、平成19年1月1日より施行されました。しかし、施行日前になされた契約や不法行為については、従前の法例の規定が適用されることとなります(附則3条)。




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