
冤罪事件の根を絶つ!
捜査段階からの被疑者国選弁護制度
いよいよ平成18年10月2日スタート
>>>刑事訴訟法の改正<<<

「刑事訴訟法」は、刑事裁判(犯罪を犯した者の処罰を決める裁判)と裁判に至るまでの捜査手続きについて定めた法律です。いわゆる六法の1つに数えられ、わが国の法制度を支える最も基本的な法律の1つといえましょう。
平成18年10月2日から「被疑者に対する国選弁護人制度」が新たにスタートしました。
憲法は、被告人(犯罪を犯したとして裁判を受ける人)に対して、弁護人(弁護士)をつける権利を認め、自らこれができないときには国が付けると定めています(37条3項)。これがいわゆる「国選弁護人制度」です。貧困その他の事情で弁護人を選任できない者には、国費で弁護士が付けられます。
しかしこの制度は、これまでは、検察官が裁判を起こした(=起訴)後でなければ適用されませんでした。起訴前の、警察や検察など捜査機関に身柄を拘束されただけの段階では、弁護士を付けるには自分のお金で雇う必要がありました(私選弁護)。
ところで、検察官が起訴するときには、当然ながら、すでに捜査は完了しています。そして刑事弁護において最も重要な段階は、その捜査が完了する以前の段階なのです。犯罪を犯したと疑われる人(被疑者)が、弁護士も付かずに無防備なまま事情聴取等に応じると、法律について無知な状態で自身の権利を守ることもできず、自己に不利な陳述をしてしまったり、ときには不安・恐怖から無実の罪を自白してしまうことまであり、冤罪の温床にもなると考えられてきました。起訴前に弁護士が付かなければ、せっかく憲法で保障されているはずの弁護を受ける権利が実質的に保障されないということになりかねません。
そこで、新たに、被疑者段階から国選弁護人を選任できる制度がつくられました。
ただし、平成18年10月2日からスタートしたこの被疑者国選弁護制度の対象となるのは、一定の重大事件──死刑または無期懲役・禁錮、あるいは、最も短い刑期が1年以上と定められている罪についての事件に限られます(37条の2)。たとえば、窃盗罪は10年以下の懲役と定められています(刑法235条)ので、短ければ刑期は数ヶ月の場合もあるわけですから、今回の制度の対象とはなりません。一方、強盗罪は5年以上の有期懲役と定められています(同236条)から、希望すれば、被疑者国選弁護人を付けることができるわけです。
新たな制度により、たとえお金がなくとも、希望すれば被疑者段階から裁判まで、国選弁護人による一貫した弁護が可能となりました。
* * *
なお、被疑者国選弁護人の制度は、平成21年春から、さらに対象が拡大することが予定されています。
いわゆる必要的弁護事件(289条)とよばれるもので、たとえ被告人本人が弁護士は不要だといっても、弁護人が付かなければ刑事裁判が開かれない一定の罪──死刑または無期懲役・禁錮、あるいは最も長い刑期が3年を超える罪について、被疑者国選弁護が受けられるようになります(37条の2の改正、本法附則1条2号)。先ほどの例でいえば、窃盗罪は長ければ10年の刑ですから、将来は対象となるわけです。
ところで、国選弁護人制度は、基本的に、弁護士を付けるだけのお金がない人にも、国費で負担することによって弁護人を付けて人権を守るための制度です。資産の多寡にかかわらず誰でもが国費で弁護してもらえるというものではありません。
そこで、被告人・被疑者ともに、国選弁護人制度の整備が同時にはかられました。
まず、被疑者・被告人には資力申告書の提出を義務づけ、現金や預貯金といった資産が一定の基準(50万円)に満たない者にのみ、希望すれば国選弁護人を付けることとしました(36条の2。具体的な指定は「法テラス」を通じて行われる)。これ以上の資産がある者については、まず、弁護士会を通じて私選弁護人の選任を申し出ることとなり、この私選弁護人がみつからないといった事情があるときに、はじめて国選弁護人を付けることとなります(36条の3)。ちなみに、弁護費用は後で本人が負担します。
被疑者国選弁護と並んで、平成18年10月2日から、「即決裁判制度」もスタートしました。争いのない明白な事件を簡易・迅速に処理する制度です。
軽微な事件で本人も事実関係を認めているケースでは、起訴の段階で、検察官は被疑者の同意を得て、即決裁判手続きを申し立てることができます(350条の2)。これにより、できるだけ早い期日に公判(刑事裁判)が開かれ、その場で被告人が有罪を認めれば、簡単な証拠調べしたあと、その日のうちに判決を言い渡すこととなります(350条の13)。
ただし、即決裁判では、懲役や禁錮といった実刑を言い渡すことはできず、これには必ず執行猶予を付けなければなりません(350条の14)。一方で、この判決のあとで、やっぱり事実関係は違ったとして、罪となるべき事実の誤認を理由として上訴することはできないとしました(403条の2等)。
このため、安易に有罪が確定してしまうことのないよう、この即決裁判についても、弁護人が必ず必要としました(350条の9、必要的弁護事件)。そして即決裁判に同意しようかどうか迷っている被疑者については、刑罰が非常に軽い罪であっても、被疑者国選弁護人を認めることとしています(350条の3)。
* * *
平成21年春からは、いよいよ裁判員制度も始まり、広く国民が刑事裁判に直接参加することとなります。縁遠いこととおっしゃらず,是非皆さんもご関心をお持ちください。


ホームページへカエル
「最近の法令改正」目次にもどる
次のページ(家庭や介護の現場で高齢者の尊厳を守る!高齢者虐待防止法の制定)に進む