
シルバーハラスメント…
家庭で、介護の現場で、
高齢者の尊厳を守る
高齢者虐待防止法の制定
〜H18.4.1施行〜

平成15年度に厚生労働省が行った全国的な調査では、家庭内で虐待を受けている老人の1割以上が、もっともひどいときには生命にかかわる危険な状態にあったと見られています(家庭内における高齢者虐待に関する調査)。
本格的な高齢化社会を迎え、すでに平成12年4月1日から、「介護保険法」(そよ風104号)も、「成年後見制度」(民法改正、そよ風103号)もスタートしました。家庭での介護の重荷を社会が支援することで、あるいは、認知症(痴呆)等の老人に後見人などをつけることで、こうした高齢者に対する虐待は減少し防げるものとの期待は、残念ながらかなえられませんでした。

家庭という密室で、あるいは老人介護等施設という密室の中で、虐待をする人は介護疲れなどに苦しみながら、あるいは十分な自覚もないまま虐待は繰り返されています。しかも、虐待をする多くが介護者でもあるため、高齢者も逃げ場がなく、表面に出る虐待事件はほんの氷山の一角といわれます。
家庭という特別な環境で起こる虐待をめぐっては、まず、子どもたちを守るための法律として、「児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法、そよ風108・131号)」が平成12年にスタートしました。また、女性を守るための法律として「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(DV防止法、そよ風113・133号)」も平成13年に相次いで制定されています。
そして今回、高齢者についても、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(高齢者虐待防止法)」が制定され、平成18年4月1日より施行されました。
対象となる虐待は、養護者(同居の親族等)、または老人介護施設や在宅介護サービスのスタッフが、高齢者(65歳以上)に対して行う次のような行為です(2条)。

- (1)身体的虐待
- 外傷が生じたり、生じるおそれのある暴行(殴る・蹴る等々)
- (2)ネグレクト
- 衰弱するような減食や長時間の放置など養護の著しい怠慢(介護や世話の放棄・必要な医療等の制限・同居者による虐待の放置等々)
- (3)心理的虐待
- 著しい暴言や著しい拒絶的対応など心理的外傷を与える(ののしる・子どものように扱う・侮辱する・無視する等々)
- (4)性的虐待
- わいせつな行為をしたり、させたりする(排泄の失敗に対して下半身を裸にして放置する等々)
- (5)経済的虐待
- 財産を不当に処分したり不当に利益を得る(必要なお金を渡さない・預貯金や自宅を勝手に処分する等々。これについては、養護にかかわっていない親族の行為も含む)
こうした高齢者への虐待と思われる状況を発見した人は、それが生命・身体に重大な危険があるときには、必ず、市町村の窓口(地域包括支援センター等)に通報しなければなりません。たとえ、そうした危険まで至っていないケースでも、通報は義務づけられていないとはいえ、やはり通報するよう努力する必要があります(7条)。厚労省では、「まず一報を」と呼びかけています。これがきっかけになって、高齢者はもちろん、介護する家族をも救う方法を見いだせるかもしれないのです。

発見者からの通報があれば、あるいは、虐待を受けている高齢者からの届出があれば、市町村では、さっそく、高齢者の安全を確認したり、通報・届出の事実を確認します(9条)。そして、生命・身体に重大な危険のおそれがあるときは、住居に立ち入り、必要な調査や質問をすることも認められます(11条。ちなみに、児童虐待防止法では、虐待のおそれがあるときに立入調査を認めており、一層きびしい規定となっている)。その際、場合によっては警察の援助を求めることも可能です(12条)。
この市町村による立入調査を妨害したり、あるいは質問に対してウソをついたり、ウソの証言をさせたりするなどの行為は、30万円以下の罰金に処せられます(30条)。
市町村は、関係諸機関と協議して、高齢者を保護するための適切な措置をとることとなります。たとえば、特別養護老人ホームなどの施設への入所をすすめたり、とりあえずショートステイをして在宅のための介護体制を整えたり、必要に応じて成年後見人の審判を家庭裁判所に申し立てたり、事例ごとに具体的に判断されることとなります。
また一方、市町村は、高齢者の保護にとどまらず、養護者のための支援をも行うことが明記されました。介護等の負担を軽減するため、相談に応じたり、必要な指導・助言を与え、適切な機関を紹介するなどの支援策がとられます。緊急避難的にショートステイで高齢者を預かることもできるよう、居室の確保も市町村の役割です(14条)。
このほか、本法では、家族などの養護者や介護スタッフの虐待にとどまらず、とくに、近年社会問題ともなっている高齢者を食い物とする悪質な商法への対策も盛り込まれました(27条)。高齢者が、不必要なリフォーム工事をさせられたり、高額な商品を売りつけられたりしたときにも、市町村が相談にのり、専門機関を紹介し、場合によっては成年後見人等の審判請求をするなど、積極的な役割を果たすことが期待されています。
また、成年後見制度をもっと広く活用することも特記されました(28条)。
* * *
本法では、相談や通報の窓口はすべて市町村に一本化されています。ただ、実際の通報は警察になされることも多いでしょう。警察への通報があった場合も、市町村に迅速に連絡がなされるように手続き化されていますのでご心配はいりません。
なお、高齢者を虐待した者は、当然ながら、一般の犯罪と同様に、暴行罪・傷害罪・横領罪・遺棄致死罪・殺人罪等々、刑法によって罰せられます。


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