新「会社法」での主な変更点
内 容 | 現行制度 | 新「会社法」 |
表 記 | カタカナ文語体 | ひらがな口語体 |
設立できる会社 | 株式会社、有限会社、 合名会社、合資会社 | 株式会社、合名会社、 合資会社、合同会社 |
最低資本金額 | 株式会社:1000万円 有限会社:300万円 | 制限なし |
取締役の数 | 株式会社:3人以上 有限会社:1人以上 | 1人以上 |
取締役の任期 | 株式会社:2年 有限会社:制限なし | 原則2年 (株式譲渡制限会社は最長10年) |
会計参与 | 規定なし | すべての株式会社で設置可能 (新設) |
企業の合併・買収 | きびしく規制 | 規制を緩和 |
同一市町村の類似商号 | 不可 | 可能 (商標登録されているものを除く) |
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そこで、まず、株式会社が画期的に柔軟化されることになったとはどういうことでしょうか。
柔軟化の極端な例をあげれば、それは、たとえば、資本金がわずか100円の株式会社、株主はたった1人でその株主が取締役(ひとり社長)になる会社をも認めようというものです。これには、これまでの株式会社法制が、現実に照らして余りにも融通がきかない窮屈なものとなっていることへの反省があります。
これまでの株式会社の制度(商法典第2編)は、大規模な上場会社、公開会社(その会社の株式の譲渡について会社の承認を要しない会社)を前提として設計され、会社の設立・会社の機関・会社の財務等全般にわたって、大規模会社を念頭とする、厳格で緻密な法規制が、強行法規として敷かれてきました。
しかし一方で、わが国では、株式会社形態の企業のほとんどが中小零細企業であり、大規模公開会社法制ともいえる株式会社法は余りにも現実と乖離(かいり)していました。零細企業では、株主総会や取締役会が現実に開催されていないのに、議事録の書面だけつくろわれている現実はその一端です。
そこで新会社法では、株式会社の基本型は、小規模の閉鎖型会社(株式を公開しない)であるというところから出発しようとしています。そして、それぞれの企業が、その規模(大会社かどうか)、性質(公開会社かどうか)、経営方針(守りか攻めか)などの事業上のニーズによって、各組織や手続きを選択できる法制度となります。
たとえば、株式会社の機関を例にとれば、株式会社ですから、株主総会はもちろん最高機関として必ず置かねばなりません。そして株主総会以外の機関として、取締役、取締役会、監査役、監査役会、三委員会(監査・指名・報酬)、会計参与、会計監査人などがありますが、この中で、取締役1人は必置機関であり、必ず設置しなければなりません。しかし、それ以外は、設置は原則として、任意であり自由です。
ただし、任意であるからといって、大会社の公開会社が、取締役しか設置しないというのでは問題かもしれません。そこで会社法は、公開会社か公開会社でない会社(株式譲渡制限会社)か(法2条5号)、大会社かそうでない会社か(法2条6号イ・ロ)などの区分けによって、具体的に、必置すべき機関、置かなくてもよい機関を規定しています(株主総会以外の機関の設置、327・328条)。たとえば、前述の公開会社の大会社の場合には、取締役会・監査役会(または三委員会)・会計監査人は設置しなければなりません。
このように、枠組みの中ではありますが、それぞれの株式会社が、そのニーズに応じ、機関設定を柔軟に選択できるようになるのです。
このほか、最低資本金制度が撤廃されました。したがって、資本金は1円以上であればよいこととなります。
さらに、株券は原則不発行となります。定款(ていかん)で定めた場合のみ、株券が発行できます。また、配当の回数や時期についても、定款で自由に決められることとなりました。
また、株主が、取締役等役員の責任を追及する株主代表訴訟について、原告株主などの不正な利益を図る目的や、会社に損害を与える目的の訴訟は禁止されることとなりました(法847条)。これまで、不当な訴えを排斥するための明文の規定がなく、従前から問題があるとされていたものの一部を類型化したうえで、不当な株主代表訴訟を制限したものです。
表 平成16年の類型別企業数
株式会社 有限会社 合名・合資会社 相互会社 |
693,683 (45.35%) 815,145 (53.29%) 20,782 (1.36%) 6 (0.00%) |
合 計 |
1,529,616 (100%) |
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さて、新会社法では、有限会社という会社形態がなくなります。有限会社は、身内で経営するのに都合がよい会社として、その数は株式会社をしのぐとまで言われています。
しかし、有限会社のメリットとされる主な点((a)取締役は1人でもOK、(b)取締役会・監査役を設けても設けなくてもよい、(c)取締役の任期がない、(d)決算公告の義務がない)は、新株式会社でほぼ達成されています。新株式会社でも、(a)・(b)のメリットは確保できます。(c)については、取締役の任期を「10年」まで延長できます。ただ、(d)の決算公告の義務を免れないことだけが、有限会社と異なるのです。したがって、新株式会社は、実質上、有限会社を統合しているといえなくもありません。
従来からの有限会社を、定款変更により株式会社とすることはもちろん可能です。また、引き続き、従前どおり存続できるように措置されていますので、有限会社のままで変わりたくない場合は、そのまま現状維持での経営もできます(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律2条)。
ところで、わが国のGNPの多くを稼ぎだすようなトップ企業から、1990年以降さかんに主張された国際競争上の危機感の一つとして、わが国の、企業合併・買収あるいは企業再編といった企業結合法制の点での後進性がありました。
新しい会社法は、企業の合併や分割などの組織再編行為の要件を緩和し、組織再編をしやすくする方向で見直しをしています。
組織再編とは、合併(748〜756条)・分割(757〜766条)・株式交換(767〜771条)・株式移転(772〜774条)などによって、会社組織を再編成することをいいます。
まず、新会社法では、簡易組織再編の要件を緩和しました。たとえば、吸収合併をする際に、存続会社が消滅会社の株主に対価として交付する株式その他の財産合計が、存続会社の純資産の20%以下であれば、存続会社は、株主総会での合併承認の特別決議(309・795条)を要せず、取締役会の決議だけで決められることになりました。それまではこの基準は、消滅会社の株主に割り当てる株式が、存続会社の発行株式総数の5%以下でなければなりませんでした。大会社で株主総会を開くことは、時間的にも経費的にも容易ではなく、これを省略できることは大きなメリットとなるのです。
次に、新会社法は、略式組織再編の制度を設けています。これは、もともと親会社が、子会社の90%以上の株式を保有している特別の支配関係があるケースでは、吸収合併をするようなとき株主総会の承認決議を不要とするものです。
さらに、吸収合併の対価の柔軟化も規定されているところです。株の代わりに現金を渡す交付金合併や、子会社の合併の際に親会社の株を渡す三角合併も解禁になります。しかし、三角合併の場合には、吸収する会社が対価として外国の親会社の株式を交付することを許すことになり、その結果、外国企業が金銭を使わずに日本企業を買収することが危惧されています。このため、この部分の施行は1年間延期され、その1年間に開催される定時総会において定款変更を行うなど、企業が防衛策を採用する機会が与えられることになりました。
次に、「株式会社」とは異なるもう一つの類型、「持分会社」の話に入りましょう。 持分会社とは、出資者として持分をもつ社員が業務を行う会社をいいます。前述のとおり、従来から、合資会社・合名会社の2つの形態がありました。新法では、「合同会社」という新しい会社類型の登場が注目のポイントです。この合同会社をつくったわけは、ひと言でいえば、人的資産を活用する起業の促進です。
近年、富を生み出す成長産業が、IT技術やナノテクノロジーなどの新しい分野に移行しつつあります。こうした分野での競争力に大きくかかわっているのが、ベンチャー起業のニーズへの対応です。この状況の中で、知識・人材・資金の有効な結合を求める「閉鎖的な株式会社の有益性」が重視されるに至っています。
このたびの新会社法では、このようなベンチャー起業のニーズに応えるため、「株式会社」の形態以外に、ある意味でこれに競合するものとして、新たに「合同会社」を設けたものです。
合同会社は、社員の有限責任と定款自治がその特徴です。社員は出資した額までの責任しか負わなくてよく、また、定款によって会社の内部ルールが自由に決められます。たとえば、定款で定めれば、出資金に対する配当比率が出資比率と異なってもかまわないのです。また、各社員が会社の業務を執行し代表することが可能で、法令よりも定款による規制が濃厚な会社といえましょう。社員として無限責任を免れつつ、法令の規制も弱いという、いわばいいとこどりが特徴です。まさに、会社経営の負担を軽くして起業の促進を図る制度として誕生したものです。
この合同会社は、アメリカでLLC(Limited Liability Company)と呼ばれるもので、アメリカでは日本と異なり、税法上パススルー(構成員課税)といわれる恩典が与えられています。