境界トラブル−法務局がスピーディーに解決します!
筆界特定制度の創設
不動産登記法の改正〜H18.1.20スタート〜

境界トラブルを簡単解決   新制度のスタート


 あなたの土地は、隣地との境界がはっきりしていますか。最近でこそ、境界標を埋め込んだりして明確にするようになっていますが、古くからの土地なら、この溝の中央の線あるいは塀から○○cm外側と聞いているなど、不確かなことも多く、いざ改築・転売という段になってもめることがままあります。
 こうしたとき、これまでは境界確定のためには裁判で決着をつけるほかありませんでした。ただ、時間がかかるほか(平均約2年)、証拠資料などすべて双方の当事者が用意して主張しなければならず、大変労力を要する難しい手続きでした。
 平成18年1月20日に新たにスタートした「筆界(ひっかい)特定制度」は、法務局に申請することで、登記上の筆界を明らかにして、現地での境界線を特定してもらえる制度です。

筆 界――登記の際にその土地の境界を定めた線

 人に戸籍があるように、土地にも地籍があり、これは登記簿によって確認することができます。あなたが土地を買おうと思ったら、この登記簿を見れば、地番・広さ・所有者・抵当権の有無など、その土地の基本的な権利関係がわかる仕組みです。登記簿は誰にでも広く公開されており、土地取引をする際の不測の損害を防ぎ、取引の安全性を確保するために作られました。また登記所(法務局)には、同時に地図(多くの場合「公図」と呼ばれる。ことば欄参照)が備えつけられています。
 そして、土地の登記の単位は「一筆(いっぴつ)」と呼ばれ、土地が登記されたときにその土地の範囲を定めた線が「筆界(ひっかい)」というものです(隣地との互いの所有権の境を表す「境界」とは異なる場合もあるが、登記は、本来、実質の権利関係を反映すべきものであり、大半の事例では筆界=境界となる)。
 「不動産登記法」の改正により、新たに生まれた「筆界特定制度」は、登記されたときに決めた筆界が、現地でどの位置になるかを特定するものです(第6章123〜150条。したがって所有権をめぐって新たに筆界を決めるものではなく、それには合意・裁判による変更登記が必要37条)。

申請できるのは登記簿上の所有者かその相続人等

 さて、筆界特定の申請は、隣地所有者と共同でもできますし、一方の土地所有者だけが単独でも行えます。共同所有の土地であれば、そのうち一人の所有者だけが申請することも可能です。
 また、一つの土地をめぐって、それに接する複数の土地との筆界を一度に特定してもらうことも、もちろん可能です。
 ただ、登記上の筆界を特定する制度ですから、申請ができるのは、登記簿に所有者として記載されている人、あるいはその相続人等に限られます。たとえほんとうの所有者であっても、登記簿と異なる場合はできません。
 申請先は、当該土地を管轄する法務局・地方法務局です(124条)。

筆界調査委員の調査に関係者一同が意見等提供

 実際に調査にあたるのは、筆界調査委員という専門家で、弁護士や土地家屋調査士・司法書士などの中から選ばれ事件ごとに指定されます(127条等)。筆界調査委員は、資料を調べたり、申請人や関係者から事実を聞き取ったり、実地調査をしたり、必要によっては、測量や鑑定を行うことになります。実地調査や測量の際に、それらの立入りを妨害すると30万円以下の罰金に処せられる一方、もし立入りの際に何か損失が生じたら(立木が倒壊、柵が破損等)、その損失は国により補償されます(137条等)。
 さて、筆界特定が行われることになれば、申請人だけでなく、関係人(相手の土地所有者や筆界点に接している土地所有者等)にも通知がなされ、互いに、手持ちの資料や意見書を提出することができます(139条)。また同じく、実地調査・測量に際しては、事前に日時の通知があるので、現場に立ち会うこともできます(136条)。
 さらに、意見聴取期日が必ずもうけられ、その場で意見を述べることができ、その内容は調書としてまとめられます(140条)。こうして手続きの間に提出された資料や作成された調書等を、申請人や関係人が調査の途中で閲覧することも保証されています(141条)。

結論を筆界特定書に作成 登記所で公開

 調査が終了すると、筆界調査委員は意見をまとめ、筆界特定登記官に提出します。筆界特定登記官は、登記官の中から法務局の長により指定された者で、調査委員の意見を踏まえ、登記記録や図面その他の事情を総合的に考慮して、最終的に「筆界特定書」が作成されます(143条)。
 この筆界特定書は、筆界特定の結論と理由の要旨を記載したものです。もしどうしても結論が出ない場合には、筆界があると考えられる範囲が特定されることになります。添付される図面には、三角点からの座標値(それが無理なら恒久的な地物=鉄塔・橋などを基準にした座標値)や境界標があるときにはそれも記入され、どの地点が筆界となるかが現地でもはっきりわかるように記録されます。
 筆界特定書ができると、その写しが申請人に送付されるほか、その原本は登記所において永久保存されることになります。そして登記簿と同じく広く公開され、誰でも写しの交付を受けることができます(1000円、149条)。さらに登記簿には、筆界特定がなされた旨が記載されます。

期間は6ヶ月〜1年めど  費用は申請人の負担

 こうした手続きにかかる期間は、約6ヶ月〜1年が標準的な処理期間として予定されています。そして費用の方は、申請の際に手数料が若干(筆界をはさむ土地の価格から算出される。たとえば合計4000万円なら8000円)かかるほか、測量の費用などの手続費用はすべて申請人の負担です。
 申請などの手続きは、弁護士のほか土地家屋調査士に依頼することもできます(低価の案件では一定の司法書士でも可)。
 もし、筆界特定の結果に不満があるとき、あるいは所有権を争うようなときには、やはり裁判所で訴訟をする必要があります。ただ、裁判の中でも筆界特定の際の資料が取り寄せられて、専門家の意見として尊重されることとなります。もちろん、筆界特定制度を利用せずに、最初から裁判で争うことも可能です。
 この裁判で、異なる結論が出た場合には、判決が優先されることになります。また、一度判決が出た境界をめぐっては、筆界特定制度を利用することはできません。
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 登記所に備えつけられている地図は、現在整備が急がれています。都市部では、平成20年までに5割、平成25年でほぼ完了が目標です。筆界特定制度も、これを補完する手続きとして、紛争の早期解決に役立つことが期待されています。
 なお、「不動産登記法」は、平成17年3月7日より、オンライン申請が導入されたのに伴い、同時に、それまでのカタカナ表記から現代語化へと全面改正されています。

ことば欄
 公図
 昭和35年(1960年)まで存続した旧土地台帳法の下では、旧土地台帳の附属地図が「公図」と呼ばれていた。その後、不動産登記法の旧17条(現在は14条)が登記所に設置を義務づけた地図(従来は「17条地図」と呼ばれていた)についても、一般に「公図」と通称されている。
 旧土地台帳附属地図としての公図は、一般の取引はもちろん、訴訟上の証拠資料としても利用された。この公図は、上記の17条地図が完備されていない登記所において、現在も17条地図の代用として広く利用されている。しかし、目下、国土調査法による地籍調査が長年にわたって進行中であり、この地籍調査により作成された地籍図が、順次「17条地図」として登記所に備えつけられている方向にある。
 ただ、初期の地籍図には、その現地復元性において精度が17条地図に値しないものが少なくなく、これらは「17条地図に準ずる書面」として取り扱われる。
 なお、前述の国土調査法による地籍図のほか、土地改良登記令・土地区画整理登記令等に関する土地の所在地その他これに準ずる図面についても、地籍図と同様、「17条地図」として備えつけられることとなる。
 したがって、旧土地台帳の附属地図、国土調査による地籍図等で、登記所に備えつけられた地図を「公図」と総称しているのが現状である。
 なお、土地だけではなく、建物についてもその所在地につき同様の備付けがなされるが説明は省略する。
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