身勝手な”ヒト”の犠牲となる生物
生態系を守り多様な生物を次世代に引き継ぐ
外来生物被害防止法
〜平成17年6月1日スタート〜


かけがえのない地球のかけがえのない多様な生物


 ダーウィンは、ガラパゴス諸島で珍しいさまざまな生物に出会って進化論を発見しました。そしてガラパゴス諸島に限らず、私たちの住む地球は、その地域ごとに特色のある、実に多様な生物相をもっています。それはまさに地球の生成の歴史と気候風土が生み出したものであり、そこに生活する人間は、こうした地域の生態系を背景に、独自の文化・産業を発展させてきました。わが島国日本も、もちろんその例外ではありません。
 しかし、鎖国から解き放たれた明治以降、さらに外国との行き来が飛躍的に増大した現代、日本の在来種は、外国からやって来た生物によって大きな脅威にさらされています。外来生物(外来種)は、家畜や益虫・獣として、また防災や緑化のため等々、さまざまな意図のもとに持ち込まれたものもあれば、あるいは、荷物などにまぎれて非意図的に侵入したものもあり、どちらも、人間の活動に伴って膨大な数がやって来ます。
 もちろん、日本の気候風土になじめずに死滅する外来種も多数あります。それでも、環境省の調査によれば、外来種はわかっているだけでも実に2200種以上が日本に根づいているのです。そして、長い時間をかけて日本の生活文化に浸透したもの、在来種と共存したものもいる一方で、日本の在来種・固有種に取り返しのつかない多大の影響を及ぼす生物もいます。
 こうした侵略的外来生物については、従来から国際的にも、“種の多様性保護”という観点から、自然環境保全と並んで問題視されてきました(そよ風64号「希少動植物保存法(未搭載です)」参照)。
 そして新たに、「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」(外来生物法)が制定され、侵略的外来生物に対処する新制度が平成17年6月1日からスタートしています。

生態系に被害あり――「特定外来生物」に指定

 外来生物のうち、とくに次のような被害を及ぼす、あるいはそのおそれがあるものは「特定外来生物」として指定され、きびしい規制がとられることとなりました(法5条、令別表1)。

 本法施行の平成17年6月1日時点でこの「特定外来生物」に指定されたのは、アライグマやヌートリアなど37種の生物です(表1参照。対象は卵・さなぎ等の形を問わず生命体すべて。植物については茎・根のみも含む)。
 自然保護団体が候補とした350余種に比べまだわずかですが、さらにその後、第2次、第3次そして第4次の指定が行われ、平成18年2月1日より新たに43種が、同年9月1日より3種が、平成20年1月1日からさらに12種が追加指定されました(表1参照)。


特定外来生物――飼育等は許可制(ペット不可)

 「特定外来生物」に指定されると、飼育等はすべて主務大臣(環境大臣・農林水産大臣)の許可制となります。
 許可が与えられるのは、(a)学術研究、(b)動物園等での展示、(c)教育、(d)生業の維持を目的とする場合に限られ、しかも、きちんと管理できることが条件です。個体には、マイクロチップを埋め込んだり、タグ・脚環を取り付けたり、標識・写真を掲示したりして識別できるようにします。そして各生物ごとに定められた基準に適合する飼育施設等を有している必要があります。
 つまり、愛玩用・鑑賞用・ペットとしての飼育等は、原則として認められません。ただ、「特定外来生物」に指定された時点ですでに飼育している場合に限り、右のようにきちんと管理できることを条件に、その個体一代については許可を受けることができます。この許可申請は指定から6ヶ月以内に行わねばなりませんので、施行時に「特定外来生物」に指定された表1の37種をペット等としてお持ちの方は、平成17年12月1日までに申請する必要があります。また、第2次指定の43種をお持ちの方は同様に平成18年8月1日までに、第3次指定の3種をお持ちの方は平成19年3月1日までに、そして第4次指定の12種をお持ちの方は平成20年7月1日までに申請が必要です。

無責任に“捨てる”等……厳罰で取り締まり

 この許可なく、飼育・栽培・保管・運搬・販売・譲渡・輸入等することは、一切禁止されます。また、「特定外来生物」は、施設外の野に放つ・植える・まくことも、一切厳禁です(法9条)。
 たとえば、池などでブラックバスを釣った場合、生きたまま持ち帰ることはできません。まして他の池・川などに放流することは厳禁です。しかし、その場で殺すなら持ち帰って食べることもOKです。また、釣ってすぐにその場で逃がすことは規制されていません(条例等で禁止する地域はある)。
 そして、生態系に大きな被害を与える行為はきびしく罰せられます。たとえば、「特定外来生物」を許可なく輸入したり、販売・頒布目的で許可なく飼育等をしたり、あるいは不正な手段で許可をとったり、施設外へ捨てる(放つ)などすれば、3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられます(法32条、併科あり)。さらに、法人や人の代理人・使用人・従業員などがその業務に関連して同様の違反をした場合は、当該行為者を罰するほか、その法人等に対しても別途、1億円以下の罰金が科されることとなります(法36条)。

国が緊急・計画的に捕獲・防除に当たる

 さらに「特定外来生物」は、必要に応じて、国が緊急にあるいは計画的に防除にあたります(法11条)。すでに、その生物の種類に応じて、防除を行う区域や期間・目標・方法などがそれぞれ具体的に公示されています。そして地域の実情に応じて適切な防除が行えるように、地方自治体やその他の者も、この公示に沿った防除を、主務大臣の確認・認定を得て行うことができることとなりました(法18条)。
 防除のためには、必要な限度で、他人の土地に立ち入ることや捕獲の支障となる樹木を伐採することも可能です。そのために受けた損失は国が補償します(法13・14条)。
 逆に、特定外来生物を捨てるなどして、捕獲・防除を必要とする原因をつくった者は、その防除費用の全部または一部を負担させられることがありますので、くれぐれもご注意ください(法16・17条)。

“実態不明”はとりあえず輸入ストップ

 そして「特定外来生物」のほかにも、それに近類の種のうち、被害を及ぼす可能性があるかどうかなど実態がよく分からない生物は、「未判定外来生物」として指定されます(法21〜24条、規則別表第1)。
 この「未判定外来生物」については、“シロ”とはっきりするまでは、日本に持ち込むことはできません。もし、輸入(日本へ輸出)しようとするなら、あらかじめ、主務大臣に届け出ることが義務づけられます。そして主務大臣は、届出から6ヶ月以内に、当該生物の影響を判定し、持込みの当否を通知します。
 加えて、こうした「特定外来生物」と「未判定外来生物」、さらにそれらと外見で見分けるのが難しい生物(規則別表第2)については、日本に持ち込む際に、外国の政府機関などが発行したその生物の種類が記載されている証明書の添付が必要となります(法25条)。しかも、輸入できる場所は、成田国際空港・中部国際空港・関西国際空港の3ヶ所に限定されます。
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 本法で規制の対象とはならなかった生物の中にも、「要注意外来生物」として環境省が、被害の予防に取り組んでいるものがあります。たとえば、アカミミガメ(ミドリガメ)・外国産クワガタなど、私たちの身近な外来生物がたくさん含まれています。
 私たち人間の身勝手で、生態系に打撃を与えることのないよう、国だけでなく、国民一人一人の責任ある行動が必要だといえましょう。





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