景観保護のための初の総合法
景観法の制定
!!! わが街・わが村の景観を守ろう !!!
平成17年6月1日全面施行



景観法――良好な景観を保全するために


 この法律は、私たちの地域生活の場における良好な景観を保全しようというものです。

 開発とこれに伴って生じた公害への対処に追われ、私たちの生活空間の美観やうるおいを保全するための取組みは、ともすれば取り残されがちでした。もちろん、これまでも、「都市計画法」では、都市生活における地域地区制度として美観地区・風致地区・伝統的建造物群保存地区があり、個別立法には「古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法(古都保存法)」などもありました。しかしこのたび、はじめて、景観そのものを正面からとらえた総合的な法体系が用意されたことになります。
 「美しく風格のある国土」「潤いのある豊かな生活環境」「個性的で活力ある地域社会」の確保が、この法律の目的です(景観法1条)。
 そして、良好な景観をつくり守るための基本理念として、次の5つの考え方が示されました(2条)。

 具体的には、歴史ある建物の保全や管理、整った街並みづくり等を後押しする、次のような制度がつくられました。

景観計画――住民の側からの提案も可能に

 景観行政は「景観行政団体」が担うこととなります。この景観行政団体は、指定都市・中核市についてはその市が、その他の地域は都道府県が担当します。また、あらかじめ知事と協議し同意を得れば、指定都市・中核市以外の市町村も景観行政団体となることができます(7条)。

 景観行政団体は、公聴会など住民の意見を反映させる手続きを経て、良好な景観の形成に関する計画である「景観計画」を定めることができます(8・9条)。
 この景観計画には、

などの項目が盛り込まれます。
 この景観計画は、つねにトップダウンで作られるものではなく、土地所有者等の3分の2以上の同意のもとに、住民の側から、景観行政団体に対し策定の提案をすることも可能です(11条)。
 景観計画区域内では、景観行政団体の長が、「デザインや色・高さなどが周囲と合わない」と判断すれば、設計の変更等を勧告することができます(16条)。さらに、条例で、良好な景観の形成のためにとくに必要であると認める行為(特定届出対象行為)を定め、その制限に適合しない建築物等の意匠や形態につき、必要な限度で変更その他の措置を命令できるものとしました(17条)。
 このように、景観計画区域内では、建築等についてあらかじめ景観行政団体の長への届出が義務づけられ、必要とされる場合には、勧告や命令を受けることになりました。
 しかし、設計の命令までいくのは私権の制限として行きすぎだとする反発も考えられます。このことも懸念して、すでに景観条例を策定している自治体が、前述の特定届出対象行為に関する命令に必要な条例の新設に進むかどうかは注目されるところです。

景観重要建造物及び樹木――外観の変更には許可

 また、景観行政団体は、景観計画区域内にある良好な景観の形成に重要な建造物(建築物・工作物)または樹木を、「景観重要建造物」または「景観重要樹木」として指定することができます(19条・28条)。
 景観重要建造物または景観重要樹木の所有者等には、これらを適切に管理する義務が課せられ、増改築や伐採など、その外観を変更しようとする場合には、景観行政団体の長の許可が必要です。
 その許可が得られなかった所有者には、景観行政団体から、そのことで通常生ずべき損失の補償を受けることができます(24条・32条)。
 また、保全の対象は外観であることから、文化財とは異なり、建造物の内部を変更することは差し支えなく、制限を受けないものとされています。
 なお、所有者が、人的・物的理由により、景観重要建造物等を自ら管理することが困難な場合には、景観行政団体や景観整備機構と協定して管理を委ねることができるものとしています(36条)。

景観整備機構――適切な管理を支援・代行

 「景観整備機構」は、景観保全の実務を担当または支援する組織として、景観行政団体の長が、公益法人(民法34条の法人)や特定非営利活動法人(NPO法人)の中から指定するもので、その活動が注目されています(92条)。
 たとえば、管理協定に基づいて景観重要建造物の管理を行う、あるいはその建造物の景観と一体となる広場など公共施設の事業を行う、棚田等の景観を保全するため農地の所有者に代わって工作するなどの業務を行うものとされ、景観行政団体の長の監督に服するとともに、国や関係の自治体から情報の提供や指導・助言を得られることになっています(95・96条)。

景観地区――都市計画で建物の形態・意匠を制限

 一方、こうした景観行政団体がつくる景観計画とは別に、市町村では、市街地における良好な景観の形成を図るため、都市計画に「景観地区」を定めることができるものとしました(61条、都市計画法8条1項6号)。
 景観地区に関する都市計画の中では、建築物の形態・意匠の制限について必ず定めるとともに、建築物の高さの最高限度または最低限度、壁面の位置の制限、建築物の敷地面積の最低限度のうち、必要なものを選択的に定めるものとしています(61条)。なお、景観地区の創設に伴い、市街地の美観を維持するための地域地区である美観地区は、その目的が景観地区の目的に含まれることから廃止することとされました。
 景観地区内で建築物の建築をしようとするものは、あらかじめ、右の都市計画に定められた建築物の形態・意匠の制限に適合するかどうか市町村長の認定を受けなければなりません(62・63条)。都市計画の制限に違反した建築物に対しては、市町村長は、建築物の改築・修繕等、違反を是正するために必要な措置を命ずることができます(64条)。
 なお、形態や意匠以外の制限(建築物の高さなど)については、建築基準法による建築確認の手続きの中でチェックされることになります(建築基準法6条・68条)。
 また市町村は、条例で定めれば、建物だけでなく、景観地区内の工作物についても、その形態・意匠の制限、高さの最高限度や最低限度の制限等を定めることができるものとしました(72条)。さらに、同じく条例によって、景観地区内の開発行為についても、必要な規制をすることができます(73条)。

さらに打つ手は……
      準景観地区景観協定

 ところで、景観地区は、都市計画で定める制度なため、都市計画区域や準都市計画区域内にしか設置することができません。しかしそのほかにも、たとえば昔ながらの温泉地など、すでに良好な景観が形成されている地区も多数あります。そこで、たとえ都市計画区域等でなくとも、景観計画区域内であれば、「準景観地区」として、景観地区と同様の規制を行うことができる区域を、市町村は設けることができることとしました(74・75条)。
 このほか、景観計画区域内の土地所有者等が全員合意すれば、建物や工作物・緑地・看板等々、景観についてのさまざまな事柄について「景観協定」を結ぶことができ、しかも、その協定について景観行政団体の長の認可を得ておけば、たとえ土地所有者等が変わっても、その協定の効力が新しい所有者にも及ぶこととしました(81〜91条)。

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 ところで、良好な景観の破壊については、これまでしばしば裁判で争われてきました。現在も、東京都国立市の大学通りの景観をめぐる裁判は多くの関心を集めています。この国立市の裁判では、個人として、良好な景観を享受する権利や利益(環境利益)があるかどうかが大きな争点です。しかし、この景観法は、個人としての権利等については何ら規定していません。説明してきたとおり、景観計画区域・景観地区等における規制等について措置を講じたものです。したがって、こうした措置がとれない場合や、間に合わないケースについては、制度的対応の限界があります。この意味でも、わが国の懸案である「環境権」の法制化が強く望まれるところです。まず、その一歩として、去る平成13年6月に国会で採択された「自然環境権」の法制化が早急に実現されることが望まれます。




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