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犯罪被害者等基本法
H17.4.1スタート
痛み分かちあい──
被害者・家族・遺族の人権を守り支える

オウムサリン事件、大阪教育大附属池田小事件、薬物中毒者の通り魔殺人、飲酒運転による暴走事故等々……心を引き裂かれるような事件があとを絶ちません。国民の誰もが、いつ犯罪に巻き込まれるかわからないのです。
犯罪の被害にあった本人やその家族・遺族は、事件そのもので直接的に被害を受けたうえに、捜査段階では事務的にあるいは「証拠のひとつ」としてしか扱われず、刑事裁判では蚊帳の外に置かれたまま犯人がどうなったかさえ知らされず、そしてマスコミの執拗な取材にプライバシーを侵害され、さらに心ない市民からは嫌がらせまでされる…こうした2次的被害まで受けて、肉体的・精神的・経済的にひどい状況に追い込まれかねません。
法治国家として、加害者・犯罪者の人権については適切な取扱いがなされるよう法的保護がなされている一方で、こうした犯罪被害者とその家族の人権は、長い間何の手当もなされないまま放置されてきました。
1981年(昭和56年)には「犯罪被害者等給付金」制度がスタートし、遺族や重度障害を負った被害者への、国家による補償が始められました(下記ことば欄参照)。
そして1990年代後半に入ってようやく、被害者とその家族の人権への配慮・取組が徐々に行われるようになり、刑事事件の処理結果や裁判結果等を被害者に通知する制度も整います。平成12年には、刑事訴訟法等の改正とともに「犯罪被害者保護法」が制定され、刑事裁判で被害者等が証言する際の配慮や、公判途中での記録の閲覧・謄写制度、示談・和解内容を公判調書に記載する刑事和解制度も始まりました(くわしくはそよ風109 号)。
これらの動きをまとめ、改めて、被害者とその家族の人権を守るための基本法として制定されたのが、「犯罪被害者等基本法」です。本法の制定により、施策がより総合的・計画的に進められることが期待されます。
まず基本理念として、(1)犯罪被害者とその家族・遺族は個人の尊厳にふさわしい処遇を保障される権利を有すること、(2)施策は被害の状況・原因その他の事情に応じて適切に講ぜられること、(3)さらに被害を受けたときから再び平穏な生活を営めるまでの期間途切れることなく必要な支援が行われるようにすることと、もっとも基本的な考え方が決定されました(3条)。
国と地方自治体は、この基本理念にのっとり、施策を策定・実施する責務を負います(4・5条)。そして国民(マスコミも含む)も、犯罪被害者等の名誉や生活を害することのないよう十分配慮し、これら施策に協力するよう努めることとしました(6条)。さらに、国・地方自治体・民間の支援団体等の関係機関は、連携協力して円滑な実施をめざします(7条)。
さらに政府は、「犯罪被害者等基本計画」を定めて、総合的・長期的な大綱と施策推進に必要な事項を公表します(8条)。この基本計画を実際に作成し、その実施状況を監視する特別の機関として、「犯罪被害者等施策推進会議」が設置されました(24条、会長:内閣官房長官)。
さて、この基本計画で取り上げられるべき基本的施策として、本法では、次の13項目があげられています(11〜23条)。
- (1)相談及び情報の提供等
- 事件の直後からのケア、そして長期にわたる支援体制が必要です。さらに各場面で各種の支援を受けられるよう、相談等の窓口を一本化する、コーディネーターを育成するなどが望まれます。
- (2)損害賠償請求についての援助等
- 被害者等の負担を減らすため、刑事裁判に附帯して損害賠償訴訟を行う制度、あるいは刑事判決中に被害者に対する賠償を命ずる制度などが検討されることになります。
- (3)給付金制度の充実等
- 現行の犯罪被害者等給付金制度の拡充や医療費等の支給・補償が求められています。
- (4)保健医療・福祉サービスの提供
- PTSD(心的外傷後ストレス障害)や後遺障害に対する支援制度の確立、女性や子どもを対象にする取組みが望まれます。
- (5)安全の確保
- 矯正の程度や出所時の情報の開示、一方で被害者の氏名・住所の原則非公開、危険を回避するための専用シェルターの設置等が検討される必要があります。
- (6)居住の安定
- 自宅に住めない被害者や生活建て直しまでの当面の手当に、公的住宅への優先入居が行われる予定です。
- (7)雇用の安定
- 長期にわたる欠勤等を余儀なくされるなど、雇用不安に陥る被害者を支援する施策が必要です。
- (8)刑事手続きへの参加制度の整備
- 刑事手続きの進捗状況を知らせる制度のほか、刑事裁判等へ被害者らも参加するシステムを拡充するなどが検討されることになります。
- (9)保護・捜査・公判等での配慮等
- 各場面で被害者等に接する関係職員らの研修を行い、被害者の心情・状況を理解して必要な措置をとることができるようにしなければなりません。
- (10)国民の理解の増進
- 生命を大切にするための教育、広く国民への広報啓発活動が進められます。また、取材・報道姿勢が改めて問い直されねばなりません。
- (11)調査研究の推進等
- 被害の実態を調査し、専門的知識に基づくよりよいサポートができるように必要な措置がとられます。
- (12)民間団体に対する援助
- とくに財政的な援助、被害者への支援に欠かせない適切な情報の提供等が求められています。
- (13)意見の反映及び透明性確保
- 犯罪被害者等の現実の声を施策に反映できるよう、また策定過程を透明なものとする措置が必要です。
* * *
すでに、犯罪被害者等施策推進会議の第1回会合がもたれ、平成17年12月には「犯罪被害者等基本計画」は決定される予定です。本法とこの基本計画の策定により、被害者とその家族・遺族の人権を守る各施策が、これから具体的に一層進められることとなります。
* * *
なお、本法の対象とされるのは、日本国民に限りません。国籍・人種等を問わず、あらゆる犯罪被害者等が対象です。また、刑法などで処罰される狭い意味での犯罪に止まらず、それに類する行為(たとえば、ストーカーに類するつきまとい、DVによる身体的暴力に準ずる精神的暴力、児童にわずかしか食事をさせない等)も法の対象となっています。
ことば欄
☆ 犯罪被害者等給付金
「犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律」により、昭和56年(1981年)1月からスタートした制度。
本来、犯罪被害の損害賠償の責任は、加害者に第一義的にある。しかし、通り魔など犯人がわからないとき、また、犯人に賠償する資力がないときに、代わって国が被害者等を経済的に支援するために創設された。
被害者が死亡した場合に支給される「遺族給付金」と、被害者が障害を受けた場合に支給される「障害給付金」に大別される。
平成13年7月の同法改正により、給付金額が各引き上げられたほか、障害給付金は障害等級1〜14級と幅広く支給されるようになった(以前は1〜4級のみ)。また、同改正で、「犯罪被害者等早期援助団体」制度が創設され(公安委員会指定)、犯罪が起こったとき、警察等との連携で、いち早く駆けつけ、被害者やその家族のケアに大きな役割を果たしている。
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