民法改正     H17.4.1施行

読んでわかる民法に
カタカナ文語文からひらがら口語文へ
無期限・限度額なし…過酷な実態包括根保証制度に歯止め


不平等条約の撤廃と『民法』制定


 『民法』は、私人相互の法律関係について、基礎となる規則を定めた、もっとも重要な基本法のひとつです。
 はるか100年以上前の明治31年(1898年)7月、近代市民社会の仲間入りを果たすため、不平等条約撤廃のため、明治政府はこの『民法』を施行しました。その内容は、「総則」「物権」「債権」「親族」「相続」の5編からなっています。
 以来、第2次世界大戦を経て、昭和23年1月には、現憲法が定める“個人の平等”“両性の本質的平等”に基づき、「親族」「相続」編が抜本的に改正施行されました。しかし、前半の3編については、現在に至るまで部分的な改正がなされただけです。
 そのため、親族・相続編はひらがな口語文に改められたのに、総則・物権・債権編は未だにカタカナ文語文のままという、変則的な表記になっていました。
 すでに『刑法』は、平成7年6月から、ひらがな口語の現代文に変わっています(そよ風75号参照)。『民法』についても、平成3年から表記を改正する検討が開始され、平成17年4月1日、ようやく現代文へと生まれ変わりました。

現代語化して 読める・わかる民法へ

こんなに読みやすくなった『民法』、たとえば……

第一条〔私権の基本原則、信義誠実の原則、権利濫用の禁止〕
私権ハ公共ノ福祉ニ遵フ
(2)権利ノ行使及ヒ義務ノ履行 ハ信義ニ従ヒ誠実ニ之ヲ為スコトヲ要ス
(3)権利ノ濫用ハ之ヲ許サス

(基本原則)
第一条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3 権利の濫用は、これを許さない。


 ひらがな口語の現代文へ改めるときにもっとも注意されたのは、条文の意味や内容が変わることのないよう、また条文の解釈に影響が出ないようにすることでした。100年以上にわたって、生活の中で根づいてきた民法の意味・解釈が、表記の変更によって揺らぐことがあっては大変です。
また各条文には、それぞれ膨大な数の判例や文献の蓄積があります。条文の番号が変更されて、これらの資料に混乱が生じても大変です。そこで、条番号についても、原則として変更しないこととしました。
表1 死語はわかりやすい語に置き換え
疆界  (きょうかい)→ 境界
囲繞地(いにょうち)→ その土地を囲んでいる他の土地
溝渠  (こうきょ)  → 溝、堀
僕婢  (ぼくひ)  → 家事使用人
薪炭油(しんたんゆ)→ 燃料及び電気

 ただ、すでに死語となっているような言葉については、わかりやすい他の用語に置き換えられています(表1)。
そのほか、文言どおりに単純に現代語化すると、判例などで確立されてきた解釈との間にずれが生じる条文についてのみ、必要最小限の手直しが行われました(表2)。
表2 必要最小限の手直しがあったもの、たとえば……

第一〇八条〔自己契約・双方代理の禁止〕
何人ト雖モ同一ノ法律行為ニ付キ其相手方ノ代理人ト為リ又ハ当事者双方ノ代理人ト為ルコトヲ得ス但債務ノ履行ニ付テハ此限ニ在ラス

第七〇九条〔不法行為の要件と効果〕
故意又ハ過失ニ因リ テ他人ノ権利ヲ侵害シタル 者ハ之ニ因リテ生シタル損 害ヲ賠償スル責ニ任ス  






(自己契約及び双方代理)
第一〇八条 同一の法律行為については、相手方の代理人となり、又は当事者双方の代理人となることはできない。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。

(不法行為による損害賠償)
第七〇九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。


 『民法』は、名実ともに、生活にぐっと身近なものになったといえましょう。

保証契約は書面ですること!

 また今改正では、保証契約の規定についてのみ、内容面での実質的な改正も同時に行われました。
 まず、保証契約は、書面(電磁的記録を含む)でしなければ、その効力を生じないこととしました(446条2・3項)。
 保証には、借金や手形の保証、身元保証や不動産等賃貸借時の保証など、さまざまな種類があります。これら保証契約は、従来は、たとえ口約束だけでも、当事者間に合意があれば契約は成立しました。しかし、平成17年4月1日からは、きちんと書面にすることが要件とされたのです。
 もう一つ、個人の「根保証」制度が大きく変わりました。

保証人に過酷な負担
     包括根保証に歯止め

 「根保証」とは、継続的な取引の中で多数の債権債務が発生するとき、これらすべてについて、継続的に保証する契約です。
 従来の民法では、根保証契約をとくに規制していなかったため、保証の限度額や保証期間などを一切定めない、いわゆる「包括根保証」も広く行われています。とくに、中小企業が融資を受けるときには、十分な物的担保がないことも多く、そのため、社長やその親族が包括根保証することが多用されています。しかし、保証の限度額や期間も定めない契約では、あまりに過酷な責任を負うこととなりかねず、社会問題ともなっていました。
 そこで、新たに、一定の規制を加えることとしたものです。
 対象となるのは、(1)個人が保証人となっている場合で、(2)保証する債務の中に貸金または手形割引による債務を含んでおり、(3)根保証をする契約です(貸金等根保証契約。465条の2、1項)。

極度額は必ず定め
     期間も最長5年まで

 この契約では、「極度額」(保証の限度額)を定めて、書面に記載しなければならないとしました(同2・3項)。極度額とは、債務の元本の合計だけでなく、それに付随する利息・違約金・損害賠償等々の一切を含んだ金額です。したがって、当該保証人が負担しなければならない最大限の額が、はっきり決められることになります。極度額の定めのない契約は無効です。
 さらに、「元本確定期日」も、契約の中で定める場合には、契約日から5年以内とすることが義務づけられました(465条の3、1項)。元本確定期日とは、その期日までの取引については保証するという「保証期間」で、それ以降の取引には責任を負う必要がありません。つまり、その時点までの元本合計と、これに対する利息・違約金等が前述の極度額の範囲で保証人の責任となるものです。
 もし、元本確定期日について、5年以上の期間を定めたり、あるいは、契約でとくに期間を定めなければ、契約日から3年が元本確定期日となります(同2項)。
 それ以降も根保証を継続する必要があるなら、債権者と保証人の合意によって、元本確定期日を変更することは可能です。そのときも、期間については、右のとおりの制限が適用され、変更した日から5年以内の期日にしなければなりません。
 なお、主債務者や保証人が、強制執行などを受けたり、破産手続き開始の決定が出たり、あるいは死亡した場合には、元本はその時点で確定することになり、それ以降の融資については保証債務は負いません(465条の4)。
 また、保証人が法人である場合は、右規制の対象外となるため、これを悪用して、保証人は法人にして、その法人の求償権(弁済した保証債務を主債務者から取り立てる権利)に、個人の保証をつけるといった脱法行為を許さないための規定も設けられました(465条の5)。




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