民事訴訟法の一部改正
〜適切で迅速な民事裁判のために〜
・計画的な審理     ・専門家の活用
・証拠集めを容易に  ・特許等は専属の裁判所で…
H16.4.1施行

 迅速で、適切で、信頼される司法をめざして、急ピッチに司法改革が進められています。「裁判迅速化法」では、第1審の裁判は2年以内に終わらせることと、具体的な目標が定められました(くわしくは「そよ風126号」)。
 これを実現させるために、民事裁判の手続きについて定めた「民事訴訟法」も改正され、平成16年4月1日より施行されています。

複雑な裁判も「スケジュール」を決めて計画的に

 まず、訴訟の計画的な進行に、裁判所も、当事者も、どちらも努力することが改めて確認されました(147条の2)。
 とくに、審理事項が多数あったり錯綜していたりして複雑な事件などでは、当事者と協議のうえで「審理計画」を定めることが、裁判所に義務づけられています(147条の3)。たとえば、大規模な公害訴訟や、争点が複雑な医事紛争・建築紛争などが想定されています。
 具体的には、次の点についてスケジュールが定められます。

 とはいっても、スケジュールを守るために杓子定規な進行を義務づけるものではなく、必要に応じて当事者と協議のうえで計画の変更をすることはもちろんです。しかし逆にルーズになったのでは実効性はあがりません。そこで、審理の中で裁判所が、特定の事項について、いつまでに攻撃防御方法を提出するようにと指示したのに、その期間を過ぎて提出した場合には、相手からの申立てあるいは裁判所の職権で却下できる(受け付けない)こととなりました(156条の2、157条の2)。もっとも、それにより訴訟の進行に著しい支障が出る場合に限られ、また、期間内に提出できないやむを得ない理由があった場合は却下は免れます。

訴訟の準備段階でも証拠収集を容易に

 迅速で計画的な審理のためには、訴訟の当初からできるだけ多くの証拠がそろっていることが望ましいといえましょう。ところが現実には、訴訟で相手方となる予定の者から必要な情報を提供してもらうのは困難ですし、その他関係資料を取り寄せようにもさまざまな制約があって、訴訟の基礎資料でさえ入手できないことが往々にしてあります。
 そこで、訴訟の準備段階でも、一定の手続きを踏めば、証拠収集できる制度を盛り込みました。
 まず、訴えの提起を予告する通知(予告通知)を、相手方に書面でする必要があります。その中には、請求の要旨と紛争の要点を記載しなければなりません。これを受け取った相手方では、同様に訴訟に向けて証拠を集めようと思えば、この予告通知に対して、答弁の要旨を記載した書面で返答する必要があります。この手続きさえしておけば、両者とも、次のような手続きが可能です。

(1) 提訴前照会(132条の2)
 相手方に対して、期間を定めて、書面で回答するように書面で求める。ただし、主張・立証の準備に明らかに必要な事項に限られる。しかも、私生活上の秘密で社会生活に支障を及ぼすものや営業秘密に関するものなどは除外。照会手続きは、予告通知から4ヶ月以内にすること。たとえば、医事紛争で、手術に関与した医師・看護師の氏名などの入手に活用を想定。
(2) 提訴前証拠収集処分(132条の4)
 裁判所に対して、立証に必要となるのが明らかであり、かつ、自ら収集が困難な証拠について、次のいずれかの処分を申し立てる。
 上記の(a)〜(d)の処分が裁判所によって決定されれば、これに対して不服申立はできないことになっています(132条の8)。

鑑定人への質問方法を見直し

 裁判官は法律の専門家ではありますが、裁判の中では、その判断に各分野の専門的な知識が必要になる場合がしばしばあります。そんなとき、その分野の専門家の判断を報告してもらい、判決の参考とすることがあります。これを「鑑定」といい、鑑定結果は証拠の一つとして採用され、判決を導くための判断材料とされます。
 この、各分野の専門家である鑑定人に対しても、従来は一般の証人尋問と同じ扱いしかしてきませんでした。このため、鑑定結果に不満のある側がともすれば人身攻撃のような質問をしたり、あるいは鑑定人は一問一答式の質問に答えるしかなく思うようにしゃべれないなど、これが鑑定の引受け手がなかなか見つからない原因の一つだともいわれています。
 そこで、新たに「鑑定人質問」という手続きがとられることとなりました(215条の2)。最初に、鑑定人に意見陳述をしてもらいます。そのうえで、まず裁判官が質問し、さらに鑑定を依頼した側の当事者が質問し(再質問も可)、最後に相手側が質問するという順序です。また、鑑定人が遠方・多忙等でも支障がないよう、テレビ会議システムなども活用されることとされました(215条の3)。

専門委員を任命して理解を助ける

 鑑定とは異なるものの、裁判の的確・迅速な遂行に、各分野の専門家の力を借りるために新たに導入されたのが「専門委員」制度です。
 専門委員は、最高裁判所が、専門的な知識経験を有する者の中から任命し、2年間の任期を非常勤で勤めることとなります(専門委員規則)。医事紛争や建築紛争、知的財産をめぐる紛争、労働事件や金融関係の事件など、幅広く専門委員は活躍する予定です。
 専門委員の仕事は、裁判官が理解するのを助けるために、専門的な内容を説明することです。この説明は、鑑定とはちがい、証拠としては取り上げられず、判決のための判断材料とはなりません。とはいえ、実質的に裁判結果を左右するものにもなりかねないため、厳格な規定が置かれています。

専門委員と鑑定人の主な相違点
専門委員 鑑定人
身分 裁判所に所属する職員
(専門的な知見に基づく説明をするために必要な知識経験を有する者)
裁判所に所属する職員ではない
(鑑定に必要な学識経験のある者)
関与の場面 争点及び証拠の整理等の手続き
証拠調べ
和解
主に証拠調べ
説明または
意見の性質
専門的な事項に関する当事者の言い分や証拠などについて,裁判所のアドバイザー的な立場から,分かりやすく説明をする。
この説明は,アドバイザー的な立場からのものであり,説明した内容は証拠とはならない。
裁判所から求められた鑑定事項について,意見を述べる。
(鑑定人の意見として,書面=鑑定書の提出を求められるのが一般的である)
この意見は証拠となり,判決の基礎となる。

 まず、争点や証拠の整理、あるいは証拠調べに専門委員を関与させるには、裁判所は、当事者の意向を聞いた上で決定する必要があります。さらに、証拠調べで直接証人などに質問したり、あるいは和解の手続きにも関与するケースでは、当事者の同意が必要とされました。しかも、専門委員がどんな説明をしているかを透明にし、その説明に当事者が反論する機会を与えるために、説明はすべて書面でするか、あるいは当事者が立ち会う裁判期日の場で行うことが義務づけられています(92条の2)。
 さらに、裁判官と同様、除斥や忌避の制度も設けられました(92条の6)。

特許についての訴訟は東京・大阪地裁に限定

 専門知識が必要な訴訟の中でも、特許訴訟は莫大な利害に結びつきその遅延は決定的な打撃ともなりかねないため、企業はわざわざ外国で訴訟を提起することまであるほどです。技術の高度化はめまぐるしく、知的財産をめぐる訴訟は複雑に、そして急速に増大し、それに対して裁判所はとうてい対応しきれていない実情でした。
 そこで、人的にも技術的にも専門的処理体制の比較的整っている東京地方裁判所と大阪地方裁判所に、(1)特許権、(2)実用新案、(3)回路配置利用権、(4)プログラムの著作物についての著作者の権利、をめぐる訴えは限定することとしました。さらに控訴する際には、東京高等裁判所だけが担当することとなります(6条)。これら裁判所では、特許等についての専門部が複数もうけられており、大学や企業の研究者・弁理士ら140人が専門委員としてすでに任命されています。
 この措置により、遠方の裁判所に提訴せざるをえず費用等の負担が生ずることもあるため、必要に応じて電話会議やテレビ会議システムを活用したり、専門的内容を伴わないケース(たとえば特許料の不払い)などでは地元の裁判所へ移送する措置もできると、柔軟な体制はとられています(20条の2)。
 また、特許ほどではないにしても、専門的な判断が必要とされる意匠権・商標権・著作者の権利・出版権などをめぐる裁判は、地元の裁判所のほかに、東京地方裁判所あるいは大阪地方裁判所にも提訴できることとしました(6条の2)。

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 このほか、簡易裁判所が扱う少額訴訟の上限が、30万円から60万円に引き上げられました。この制度は、原則として1回の期日で審理を終えて、その日のうちに判決の言渡しを受ける簡易な制度です(くわしくは「そよ風90号」参照)。




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