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差別のない社会をめざして
性同一性障害特例法の制定
→→平成16年7月16日施行→→
戸籍上の性別変更が可能に…
新たな性で婚姻・養子縁組も

ご存じですか?
       「性同一性障害」


 心は女性であるのに男性として生まれてきた、もしくはその逆の場合、多くの人が自らの性に強い違和感を持ち、また、周囲の差別に苦しみながら生活しています。このように生物学的な性と心理上の性とが異なる「性同一性障害」は、およそ男性3万人に1人、女性10万人に1人の割合で存在するともいわれ、日本でも2200人から7000人程度存在するのではないかとみられています。
 性同一性障害は、WHOが定めた国際疾病分類にも掲載されており、治療を要する医学的疾病であると正式に認定されています。日本国内でも、日本精神神経学会が1997年7月に診断と治療のガイドラインを作成し、これに基づいて、(1)精神療法、(2)ホルモン療法、(3)手術療法の3段階を経た治療が原則的に行われています。また、1998年からは性別適合手術(いわゆる性転換手術)も、国内で正式に行われるようになりました。

偏見のなかで……
     奪われた基本的人権

 しかし、たとえ外見上は心の性に合わせることができても、性同一性障害を理由に戸籍の性別を変更することは、これまでは認められていませんでした。戸籍の性別欄はあくまで性染色体などの「生物学的性」で決定するものとされ、戸籍の訂正が認められるのは、届出時の明らかなミスなど、錯誤があった場合に限られていたのです。法的に認められていたのは、ただ、家庭裁判所に名の変更の許可を申し立てて、名前を心理上の性にふさわしいものに変更することだけでした。
 性同一性障害者は、社会の偏見の中で、日常的にさまざまな差別に苦しみ、就職する際にも大きなハンディを背負い、また、心理上の性を認めたうえで正式に結婚したり家庭をもつ権利も奪われてきたのです。

性別の変更に
     法的な道が開かれる

 そこで、「性同一性障害の性別の取扱いの特例に関する法律」が制定され、平成16年7月16日から、性同一性障害をもつ人の戸籍の性別変更が一定の条件のもとに認められることになりました。
 まず、「性同一性障害者」を次のように法的に規定しました(2条)。

 そして、性同一性障害者のなかで、さらに次の5つの条件をすべて満たした人は、家庭裁判所に性別の取扱いの変更の審判を請求することにより、戸籍上の性別を変更することが可能となりました(3条1項)。

 さらに、この審判を請求するに当たっては、医師により作成された、家庭環境や生活歴、診断や治療の経過なども記載した詳細な診断書を提出しなければなりません(3条2項)。

変更後の新たな性で
    婚姻や養子縁組も可能

 この審判で性別の変更が認められれば、戸籍の続柄の記載が変更されます。もし、戸籍にその人以外の記載(除籍者を含む)があるときは、新たにその人一人だけの新戸籍をつくることとなります(附則4項)。
 これにより、法律上、その人の性は他の性別に変わったわけです(4条1項)。ですから、変更後の性別で正式に婚姻をしたり、そのパートナーの子供を養子にするなど養子縁組も可能となります。なお、原則として審判前に生じた身分関係や権利義務に影響を及ぼすものではありません(4条2項)。

残された課題――
    3年後に見直しを予定

 この法律により、性同一性障害者は、初めて法的にも内心の性に適合する扱いを受けられることになりました。すでに、同法に基づいて戸籍の性別変更が認められた事例もあります。長い間社会的に不利益を受けてきた性同一性障害者にとって、差別解消に向けた大きな前進といえましょう。
しかし一方、性同一性障害を言いだせないまま結婚し、子供を持つ人も多くいます。外国ではこうした人達にも性の変更が認められていますが、今法では対象外とされました。また、手続きには、身体的にも経済的にも負担のかかる性別適合手術を受ける必要があるなど、問題は残されています。このため、施行後3年を目途に、施行の状況や社会的環境の変化等を考慮して再検討し、必要に応じて所要の措置を講じることになりました(附則2項)。
 この法律のほかにも、選挙の投票通知や印鑑証明など性別を記載する必要のない公文書から性別欄を削除するなど、さまざまな見直しも同時にすすめられているところです。性同一性障害が医学的疾病であるという認識を広め、人が人として平等に生きられる、差別や偏見のない社会が目指されねばなりません。




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