
離婚の増加・財政パンク…給付に限界!
母子家庭は早期に自立せよ?!
母子及び寡婦福祉法等の一部改正(H15.4.1施行)
母子家庭の母の就業支援特別措置法
(H15.8.11 〜H20.3.31時限立法)

母子家庭の平均年収は243万円と、一般世帯の平均602万円に比べ約4割でしかありません(平成14年)。こうした収入の少ない母子家庭の生活にとって、児童扶養手当はまさに命綱ともなっています。
この児童扶養手当は、2年前の平成14年8月に切り下げられましたが(くわしくは「そよ風」118 号参照)、4年後の平成20年4月1日からはさらに大幅に、最大2分の1までカットされることがすでに予定されています。
母子家庭への“給付”という形での支援は、もはやパンク状態に達していました。平成14年には離婚件数は過去最高の29万件を数え、その約6割が子どもを抱えての離婚です。国家財政もピンチの時代に、これではとうてい対処しきれず、国は母子家庭への政策を、“給付”から“自立促進”へと大きく転換させました。それが、平成15年4月1日にスタートした「母子及び寡婦福祉法等の一部改正」です。
この改正では、母子家庭の自立を促進するための方策として、(1)子育て・生活支援、(2)就業支援、(3)養育費の確保、(4)経済的支援の4つの柱をもうけました。具体的には、次のような措置がとられることとなりました。
- (1) 子育て・生活支援
- 保育所への入所を希望する多くの待機児童がいるが、なかでも母子家庭には特別な配慮をして優先入所させる。親の残業や病気に対処できるよう、子どもを夜間や短期間だけでも預かる施設をつくるなど。
- (2) 就業支援
- 母子家庭の低収入の原因は、男女の賃金格差に加え、大半がパートなど不安定な就労形態にあること(正社員は約5割)、さらに就労経験も少ないことがあげられる。そこで、より安定した職につけるよう、新たに母子家庭自立支援給付金制度をもうけた。
- ◇常用雇用転換奨励給付金
- パートとして雇った後に職業訓練を行い、正社員とした事業主には、母子家庭の母1人につき30万円支給。
- ◇自立支援教育訓練給付金
- 知事等が指定する教育訓練講座を受講修了したときは、その母子家庭の母に授業料の4割(最大20万円)を支給。
- ◇高等職業訓練促進給付金
- 看護師等、より安定した職につける資格として知事等が指定するものをとるため養成機関に通う母子家庭の母には、1ヶ月10万3000円を支給。ただし通学期間の3分の1(最長1年)だけ。
- このほか、母子福祉団体
(ことば欄参照)への事業委託をさらに進めたり、公共施設の非常勤職員の雇入れに際して母子家庭の母を優先雇用する、その他都道府県で総合的に就業相談等のサービスを行なう。

- (3) 養育費の確保
- 現在、離婚後実際に養育費を受け取っている母子家庭は21%にすぎない。そこで、離婚しても児童の扶養義務はあることを再確認して、広報・啓発活動に努める。
- (4) 経済的支援
- ここで新たに盛り込まれたのが、前述の児童扶養手当の見直し。まず、従来は離婚等から5年経過すると受給申請できないとしていたものを撤廃(離婚後5年以上たって解雇され、同手当が必要となるときもあるので)。一方、受給開始から5年、あるいは離婚等から7年たったら(どちらか早い方)、児童扶養手当の支給額を一部(最大5割)カットする。
これらの措置をとることにより、母子家庭には、できるだけ早く、自力で生活してもらおうというわけです。
現在児童扶養手当を受給している人も含めて、この手当額の大幅カットが実際に始まるのは、平成20年4月1日からとなります。
そこで、平成15年8月11日から平成20年3月末日までの時限立法として、「母子家庭の母の就業の支援に関する特別措置法」も制定されました。この法律により、実際の児童扶養手当カットが始まるまでの間に、一層の就業支援策をとろうというものです。

たとえば、母子福祉資金貸付金への配慮が盛り込まれています。これは母子及び寡婦福祉法で定められる母子家庭への無利子の貸付金です(ただし一部には年3%の利息)。事業開始(継続)資金・修学資金・技能習得資金・修業資金・就職支度資金・医療介護資金・生活資金・住宅資金・転宅資金・就学支度資金・結婚資金があります。
また、母子福祉団体等への仕事を増やすため、国が物品やサービス(役務)を調達するときは受注機会を増やすよう留意することとしました。これには、法で定めた母子福祉団体に限らず、NPO法人も含めて、母子家庭の母が受注業務を主として担う場合に対象とされることとなります。
また、母子福祉政策には、国とともに、地方公共団体の果たす役割が重要と考えられることから、国の施策(基本方針、平成15年3月19日告示)に即して自立促進計画を立て、国に準じた措置をとるよう努めるとともに、さらに地域の実情に応じた必要な施策を講ずることが望まれます。
さらに、母子家庭の母の就業を促進するためには、困難ではあっても、民間事業者の理解と協力が不可欠です。たとえば求人の際にも、母子家庭の母は、若いときには小さい子どもがいると敬遠され、子どもが大きくなると年齢制限で敬遠されると、困難な現実に直面しています。民間事業者に対しても、国は協力を求めるよう努めることとしました。
平成16年5月25日に、厚生労働省は初の「母子家庭白書」をまとめました。この結果に基づき、さらに支援策がこれから具体化されていくこととなります。
* * *

母子家庭の自立を支援する、それ自体はまことに結構なことです。母子家庭・父子家庭・両親がそろった家庭、形態は違っても、それぞれが自立して生活できる社会はまさに理想といえましょう。しかし、男女共同参画はまだまだ途上であり、世界一の少子化社会となっている現実の日本をみるとき、給付の切り捨てが優先される現状には大きな疑問が残ります。私たちの払っている税金は、ほんとうに有効に使われているのでしょうか。あなた任せの政治ではなく、国民自身によるチェックと参加、意見表明が民主主義には不可欠です。
- ☆ 母子福祉団体
「母子及び寡婦福祉法」で定められた法人(6条6項)。児童を扶養している配偶者のない女子や寡婦の福祉を主たる目的とする社会福祉法人または民法法人で、その理事の過半数が配偶者のない女子で構成されている団体。
国や地方自治体の公的施設では、こうした母子福祉団体の申請があれば、売店や理容室等の設置を許可するよう努力することが義務づけら(25条)、就業機会の増加のための優遇措置がとられている。このため、たとえば身近な公立病院などでも、売店や食堂などの多くはこうした母子福祉団体が運営している。
このほかにも、母子福祉団体が、飲食店業・喫茶店業・理容業・美容業・クリーニング業・物品販売業・物品製造加工修理業を営む場合には、事業開始(継続)資金の貸付を受けることもできる(14条)。
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