当事者納得!“仲裁人”に解決一任!
裁判よりも早い・安い・便利?!
新 仲 裁 法 の 制 定
平成16年3月1日スタート



裁判外の紛争解決手段のひとつ―― 「仲裁」


 今回の一連の司法改革の中では、「裁判」以外にも紛争を解決する手段を広く整備して、その選択肢の中から国民が便利なものを選べるようにしようという改革が同時に進められています。この「裁判外紛争解決手段」はADRと呼ばれ、ADR基本法の制定が急がれているところです。ADRでは、その多様性・自主性をできるだけ尊重する一方、その信頼性をいかに確保するかをめぐって、基本法制定が進められています。
 このADRの一つとして、「仲裁」という制度が、実は古くからありました。何と明治24年(1891年)の民事訴訟法制定の当初から、その法文中に盛り込まれ、平成8年(1996年)に新民事訴訟法に移行する際にも、手つかずのまま、「公示催告手続及ビ仲裁手続ニ関スル法律」の一部として名前を変えただけで、横滑りして放置されていました。そしてこの仲裁制度は、ほとんど利用もされてきませんでした。

国際関係・国際商取引で広く活用される「仲裁」

 一方、国際関係の中では、「仲裁」は便利な手段として大いに活用されています。裁判では、法に基づく厳格な手続き等を要するため、どうしても長期化しがちですが、仲裁なら柔軟な手続きによる早期解決も可能です。また、国際関係では、法・慣習・宗教等まったく土台が異なる当事者の間でも、仲裁による解決は有効なものとして広く使用されています。
 そのため、UNCITRAL(国際連合国際商取引法委員会、アンシトラル)では、1985年(昭和60年)、「国際商事仲裁模範法モデル法)」をつくって、各国がこのモデル法を採用するよう呼びかけていました。そして日本でも、110年ぶりに全面改正され、新たに「仲裁法」が制定されたことで、世界で45番目の採用国(地域)となりました。これにより、日本でも国際仲裁が活発化することも期待されています。

当事者が「仲裁」で解決することに書面で合意

 「仲裁」とは、紛争の解決を仲裁人という第三者にゆだねて、その仲裁人の判断に服するという制度です。
 その大前提となるのが、仲裁によって紛争を解決することに、当事者が合意することです(仲裁合意、13条)。
 紛争の内容は、和解できる民事上の争いなら何でも構いません。新「仲裁法」は、国際間の争いか国内の争いかは問わず、また、商事上の争いかそれ以外の争いかも問わず、あらゆる民事上の紛争を網羅する法律としてつくられました。また、すでに起こっている紛争だけではなく、将来生ずるおそれがある場合にも、あらかじめ契約書の中に仲裁合意について決めておくことも可能です。
 ただ、離婚と離縁についてだけは、当事者本人の直接の意思が何より大事ですから、仲裁の対象から除外されています。
 もし、仲裁合意があるにもかかわらず、当事者の一方が裁判所に訴訟を起こした場合は、相手方の申立により、裁判所はこれを却下することとなります(14条)。
 仲裁合意にはこれだけ重い意味をもたせていますので、この仲裁合意は書面で交わすことが義務づけられています(メールなども可)。

当事者自治が原則
手続きは合意で決定可能

 仲裁は、当事者自治が原則です。仲裁人の数や選任方法・忌避手続き、あるいは、仲裁地、使用する言語、準拠すべき法、審理の方法等々、すべて当事者の合意で決めることができます。
 そして「仲裁法」では、仲裁地が日本の場合、これらの個々の合意がないときにどうするのかという基本的な枠組みが定められています。たとえば──仲裁人の数は、当事者が2人の場合は3人とし、各当事者が1人ずつの仲裁人を選んで、この2人の仲裁人が残り1人の仲裁人を選ぶ(16・17条)、といった具合です。
 実際の仲裁にあたっては、個々の事件限りで、当事者が仲裁人を選び、個々の仲裁手続きを決めていくことももちろん可能です。また、常設の仲裁機関を利用することもできます。

各地の弁護士会が設置する仲裁センターと連絡先
東京弁護士会あっせん・仲裁センター
第一東京弁護士会仲裁センター
第二東京弁護士会仲裁センター
埼玉弁護士会示談あっせんセンター
横浜弁護士会あっせん・仲裁センター
新潟県弁護士会法律相談センター
名古屋弁護士会あっせん・仲裁センター
        同 上 岡崎支部
大阪弁護士会民事紛争処理センター
岡山仲裁センター
広島弁護士会仲裁センター
03-3581-0031
03-3595-8588
03-3581-2249
048-863-5255
045-211-7716
025-222-3765
052-203-1651
0564-54-9449
06-6364-1238
086-223-4401
082-225-1600

 日本にもすでに仲裁機関はいくつかあります。まず、いくつかの弁護士会では仲裁センターが設置されています(下表)。また、紛争の内容によって、「建設工事紛争審査会」(国土交通省の中に中央建設工事紛争審査会のほか、各都道府県に設置)や、常設の海事仲裁機関である「日本海運集会所」(東京・神戸)、そして「社団法人日本商事仲裁協会」(東京・大阪・神戸・名古屋・横浜)などを利用することが可能です。これら常設の仲裁機関を利用する場合は、その機関が制定した仲裁規則に従うことになりますが、当事者間でそのうちのいくつかを除外するよう決めることもできます。
 ちなみに、仲裁人はあくまで公正でなければなりませんから、収賄等の罪には、懲役5年以下などきびしい刑が科せられることになっています(50〜52条)。

合意がむずかしい……
 そこは裁判所が手助け

 すべて当事者の合意で決めるとはいっても、何といっても紛争を抱える当事者同士では利害も対立しているわけですから、すべてで合意をとりつけることは困難といえましょう。
 そこで、合意がとれずに仲裁手続きが進められないような一定の場合には、裁判所が手続きに関与して、適法性を確保したうえで手続きがスムーズに進むように手助けすることになります。
 たとえば、当事者の数が多くて仲裁人の数も決まらないとか(16条3項)、仲裁人の選任がどうしてもできないとか(17条2〜6項)、仲裁人の忌避を求めたが認められずさらに忌避を申し立てる(19条4項)などの際には、当事者の申立によって、裁判所が決定を下すことになります。
 さらに、仲裁の過程で、証拠調べをするのに関係者の協力が得られないなど、仲裁廷(1人の仲裁人またはその合議体)が必要と認めれば、裁判所に申し立てて、民事訴訟法に基づく調査嘱託や証人尋問・鑑定などを実施してもらうこともできます(35条)。

仲裁結果には確定判決と同一の効力

 さて、仲裁の結果は、「仲裁判断」とよばれ、書面が作成されることになります。当事者は、当然これに従わねばなりません。この仲裁判断には、確定判決と同一の効力があります(45条)。
 もっとも、当事者は、仲裁判断の取消しを裁判所に求めることもできますが、その事由は法で列挙されたきわめて限られた場合のみ認められるだけです(44条)。たとえば、準拠するとした法令に違反しているときや、必要な通知がなかったなど手続が保障されなかったとき、また内容が公序良俗に違反するときなどです。
 ちなみに、仲裁の途中でも、申立人が取り下げて他も異議がないとき、やめることに当事者が同意したとき、和解が成立したとき、そして仲裁の続行が不可能だと仲裁廷が認めたときなどには、仲裁手続は途中で終了することになります(40条)。

消費者トラブルと個別労使紛争については特例

 最後に、「仲裁法」では、当分の間、消費者トラブルと個別の労使紛争については、特別の扱いをすることが決まりました。
 まず、個々の労働者と事業主との間の労働条件等をめぐっての紛争(個別労働関係紛争)については、将来起こるかも知れないと事前に仲裁合意を結んでも、これはすべて無効となります(附則4条)。
 また、消費者と事業者の間に、将来生ずるかも知れない民事上のトラブルをめぐって事前に結ばれた仲裁合意については、消費者がこれを自由に解除することができます(附則3条)。もし、事業者がこの仲裁合意に基づいて仲裁を申し立てると、まず口頭審理が開かれることになり、事前の書面とこの審理の中で、消費者に対して、仲裁判断には確定判決と同一の効力ができること、また消費者仲裁合意は自由に解除できることが説明され、消費者が解除権を放棄すると明言しない限り、仲裁合意は解除したとみなされます。この口頭審理に消費者が出頭しなかったときも、同様に解除したとみなされます。
 こうした規定がとくに盛り込まれたのは、事業主と消費者、雇用主と労働者の間には、その情報量や交渉力に大きな格差があるわけで、これを安易に当事者自治が原則の仲裁にゆだねることに大きな懸念があるため、当分の間は、特別の扱いをすることとなったものです。
 ただ、消費者トラブルについては、すでに建設工事紛争審査会など既存の信頼できるシステムが中には存在するため、一概に無効とせず、個々に解除できるとされました。
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 「仲裁」制度は、まだ生まれたばかりの状態です。便利で有益な解決手段として、広く利用されることが期待されています。




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