人事訴訟法の制定
〜家庭裁判所が訴訟も担当〜
H16.4.1スタート

人事訴訟とは?
   国民に身近な裁判


 刑事訴訟・民事訴訟という言葉は知っている人も多いでしょうが、人事訴訟って何かな、という方が少なくないかもしれません。人事訴訟とは、「離婚や離縁」「子どもの認知や否認」「親子関係の確認」など、家族や親族の身分に関係する訴訟のことをいいます。
 この人事訴訟についての手続き「人事訴訟手続法」が、司法制度改革の一環として廃止され、平成16年4月1日より、名称も新たに「人事訴訟法」と改められ、新法としてスタートしました。国民にとってより身近な事件である人事訴訟の審理を、充実・迅速化し、国民にとってさらに利用しやすいものとすることが目指されています。
では、どのような点が改正されたのか、具体的にみることにしましょう。

家庭裁判所で
  調停も訴訟も一本化

  これまで、人事訴訟は、すべて地方裁判所で行われてきました。そして訴訟にまで至らない親族間の紛争の調停(家事調停)は、もっぱら家庭裁判所で取り扱ってきました。しかも、人事訴訟にいきなりいくのではなく、まず家事調停を行なって話し合うという仕組みとなっています(調停前置主義)。
 この家庭裁判所の家事調停がうまくいかず、改めて人事訴訟によって解決しようという場合に、家庭裁判所ではなく地方裁判所に訴訟を起こさなければならないこれまでのやり方では、一つの事件であるにもかかわらず、その解決が家庭裁判所と地方裁判所という別々の裁判所に分断されてしまう、という問題がありました。
 そこでこのたび、離婚や子どもの認知などの人事訴訟は、地方裁判所ではなく、家事調停が行なわれた家庭裁判所に起こすことに改めることとしました(4条)。したがって、これからは、家族や親族にかかわる紛争の処理は、家事調停も人事訴訟も家庭裁判所に一本化されて国民にわかりやすくなります。

関連請求や附帯処分も
1つの訴訟で同時に審理


 そして、家庭裁判所の機能の一層の充実強化がはかられることとなりました。
 とくに、人事訴訟に関連する損害賠償請求の審理が、家庭裁判所でできるように改められています(関連請求の併合、17条)。たとえば、夫の不貞行為を理由とする離婚訴訟(人事訴訟)にあわせて、不貞行為の相手に対する慰謝料請求訴訟(本来、地方裁判所の民事訴訟)を、1つの訴えで、家庭裁判所に提起することができることになります。
 また、離婚や婚姻の取消しの訴訟においては、子の監護者(多くの場合、親権者がこれに該当)を指定したり、財産分与を決めたり、あるいは養育料の支払いなどについてもあわせて裁判を行なうことができる旨が明記されました(附帯処分、32条)。

「参与員」の活用と
 一般国民の良識を反映

 新法ではさらに、人事訴訟の審理を充実・迅速化するために、訴訟手続き面でもさまざまな改正を行なっています。
 まず、これまで家庭裁判所の家事審判に導入されていた「参与員」の制度を人事訴訟にも導入して、参与員を審理に関与させ、裁判官がその意見を聴くことができるようにしました(9条)。人事訴訟法は、家庭に関する訴訟であり、その審理及び裁判には、一般の民事訴訟以上に一般国民の良識を反映させることが望ましいと考えられます。そこでこの制度が取り入れられることとなったものです。
 参与員は、現在、不動産鑑定士や公認会計士など専門的な資格のある人、地域社会に密着して幅広い活動を行ってきた人など、社会経験の豊富な人たち約6000人が全国で選任され、個別の事件ごとに、事件の性質にあった参与員が参画しています。

人事訴訟では
    裁判の非公開も

 また、本来、訴訟の審理は公開されるのが原則です(裁判の公開、憲法82条)。しかし、人事訴訟においては、その性質上、憲法が認める範囲内で、審理の公開を停止できるものとしています。たとえば、離婚原因に直接かかわる私生活上の重大な秘密に関するような尋問を行う場合には、一定の要件手続きの下に、裁判を非公開にできるという規定を盛り込みました(22条)。
 ここで、審理を非公開にするためには、基本的には「陳述をすることにより社会生活を営むのに著しい支障を生ずる」等の要件をみたす必要があるほか、裁判官の全員一致が条件となります。具体的には、離婚や離縁などの人事訴訟において、「夫婦間の著しく特異な性生活」「養親による著しい性的虐待」などに関する陳述等が考えられます。

裁判上の和解で
      離婚が成立


 また、改正法では、人事訴訟の類型ごとに特例を設けています。婚姻・離婚訴訟の特例の代表的なものは次のようなものです。
 まず、これまでは認められていなかった、裁判上の和解による離婚ができるようになったことが特筆されます(37条)。現行の人事訴訟法では、離婚訴訟中に当事者間で離婚の合意が成立しても、訴訟を取下げさせて、任意に協議離婚をしてもらうか、家庭裁判所の家事調停に付した上で調停離婚をしてもらうという、迂遠な方法がとられていました。今改正により、訴訟上の和解で直ちに離婚が成立することとなります。
 また、新しい人事訴訟法は、離婚など婚姻関係の訴訟において、家庭裁判所調査官の調査を活用することができるようにしています。すなわち、離婚訴訟等に付随する親権者の指定・養育費・財産分与の決定の裁判をするにあたって、家庭裁判所調査官が事実の調査を行い、それを審理に活用することが認められました(33・34条)。調査官はさまざまな資格を有する、人間諸科学の専門家です。家事審判手続きと同様にこの調査官を活用することで、具体的事案に即した柔軟な形で訴訟資料を得ることができることとなります。

*       *       *

 これまでの「人事訴訟手続法」はカタカナの文語体で、明治31年に制定されてから100年以上がたつにもかかわらず、基本的な改正は行われてきませんでした。このたびの「人事訴訟法」において、ようやく、現代語の読みやすいものとなりました。
 これで、名実共に、国民にとって利用しやすい人事訴訟となることが期待されます。




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