リストラ解雇(整理解雇)は、通常、従業員には責任がありません。
 「赤字・事業縮小は経営者の責任だ。それが、責任のない従業員が、なぜ解雇されなければならないのか」
と、素朴な相談を受けることがあります。お気持ちも理解でき、回答しにくいケースです。
 しかし、「企業がそれぞれ独立し、少なくとも収支相償って存続してゆくことを前提とする現行社会体制では、人員整理の制約は企業に対し要求される社会倫理的次元の責任であり、永続的危機を打開し企業の再建・存続のため、経営責任において整理解雇することは違法ではない」(三井三池鉱業所事件:昭和45年6月27日福岡地裁判決)とあるように、経営判断を原因に、解雇を無効とすることはできません。
 それだけに、経営者は解雇権の行使にあたって、前回述べた4つの要件、(1)〔経営上の必要性〕(2)〔解雇回避の努力措置〕(3)〔人選の合理性〕(4)〔手続きの妥当性〕を厳守し(「そよ風」126号参照)、誠実に対応する必要性をつくづく感じます。


 「私は5年パートで働いている。入社2年の新人正社員が残り、私が整理解雇された。納得がいかない」
 中年女性からの相談でした。企業の採算を理由とする整理解雇では、パートタイマー・アルバイト・臨時労働者は、当初から雇用条件として、景気調整のための弾力的・臨時的・一時的雇用であると考えられています。それによって、正社員より解雇の理由が相当軽減されてしまいます。
 春風堂事件(昭和42年12月19日東京地裁判決)の判例では、「おのずと差異が存在し、まずパートタイムの労働者を先にして、その後フルタイムの労働者を解雇すべきである。それを逆にすることは、原則として許されない」と、冷たく言い切っています。


 希望退職の募集は、〔解雇回避の努力措置〕の重要な要件の1つです。
 一般的には、(1)募集人員、(2)募集対象者、(3)募集期間、(4)退職条件、を設定して行われます。
 「再建に必要な人材には残ってもらいたい。対象者の制限は可能だろうか。募集期間はどのくらいか」
整理解雇を進める人事担当者からの相談です。いざ手続きを進めると、あらゆることが気がかりになってくるようです。
 「対象者を、部門・職種・年齢等で限定できますし、残ってもらいたい人については、業務上の都合で退職を認めないことがあるとの条件を付けることを可能です。対象期間は、あまり長くすると申出の撤回等のトラブルも考えられるので、2週間ぐらいでしょうね」と回答すると、ひと安心されるようです。


 希望退職後、いよいよ指名解雇(整理解雇)となります。解雇基準が恣意的であれば、人選の合理性が否定され、解雇も無効とされます。この基準設定も、担当者の悩むところです。
 私が参考としているのは、前述の三井三池鉱業所事件の人員整理基準です。


 整理解雇の4要件について大枠を書いてきました。しかし実務上は、書面だけでも、「希望退職募集通知」「整理解雇に関する協議の申入書」「解雇予定者リスト」「解雇通知書」等があります。
 このような書式例もきちんと記載され、実務的に解説しているのが、橋詰岳幸(社会保険労務士)著『あなたの会社のリストラは正しく行われているか』(清文社)です。退職後の雇用保険・社会保険・税金等の諸手続きについてもフォローされており、退職者不安解消の一助となる解説書です。整理解雇を検討される場合は、是非ご参考にしてください。

太田 成三(社会保険労務士・元天満労働基準監督署総合労働相談員)


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