ゆらぐ食への信頼
食品の安全を守るために

「食品安全基本法」を新たに制定
「食品衛生法」の大幅改正


「食」への不安―― 何を食べればいいの?!


 平成13年のBSE(牛海綿状脳症)発生以来、今、食の安全への信頼が大きく揺らいでいます。0−157、無登録農薬や添加物等の使用、輸入野菜の残留農薬問題、遺伝子組換え食品、牛乳や卵の虚偽表示と食中毒事件、そして鳥インフルエンザ……食品をめぐる科学技術が進歩し、また、食品流通が世界的な規模で活発に行なわれている現代、まして食料の多くを外国に頼っている日本では、食品の安全を確保することは緊急の課題となってきました。
 そこで平成15年春、食品の安全性をめぐっての法改正があいついで行なわれました。そのなかで主なものを取り上げてみましょう。

食品の安全をめぐって、初めての基本法制定

 まず、食品の安全を確保するための初めての包括的な法律として「食品安全基本法」が制定され、平成15年7月1日より施行されています。この法律により、食品の安全をめぐっての基本理念と基本的な政策の枠組みが定められました。
 基本理念は次の3つです。
 この基本理念のもとに、国は総合的な施策を策定し実施する責任があり、さらに地方公共団体はその地域の独自性を踏まえた施策を策定し実施する責任があると定められました(6・7条)。そして、食品関連事業者には(食品の生産・加工・販売にとどまらず、農薬・肥料・飼料・添加物・容器包装等を生産・輸入・販売する者も広く含む)、食品の安全性を確保する第一義的責任があることを認識して、適切な措置をとることが義務づけられます(8条)。また消費者も、あなた任せではなく、安全性への知識と理解を深めて、積極的に意見をのべて施策に反映させるという役割が明記されました(9条)。

科学的客観的に評価し、政策の決定実施にいかす

 さて、被害を未然に防ぎ、食品の安全を確保するための施策を策定するための基本方針は次のようなものです。
 まず、
が主要な柱となります(リスク分析法、11〜13条)。

食品健康影響評価の対象となる危害要因等の例
食品との関係 危  害 種      類
生物学的 化学的 物理的
食品に含まれる 人の健康に影響を及ぼすおそれがある「要因」 ・食中毒菌
[腸炎ビブリオ等]
・ウイルス
[小型球形ウイルス等]
・寄生虫
[アニサキス等]
・プリオン
・農薬
・動物用の医薬品
[合成抗菌剤等]
・添加物
[保存料・乳化剤等]
・重金属
[カドミウム等]
・容器包装溶出物質
[可塑剤等]
・かび毒
[アフラトキシン等]
・自然毒
[ふぐ毒(テトロドトキシン)等]
・異物
[ガラス・金属・プラスチック等]
・放射線
食品が置かれる 人の健康に影響を及ぼすおそれがある「状態」 ・菌叢
・腐敗
・pH ・温度

 このほかにも、緊急事態に対処するための体制整備や試験研究体制の整備、さらに食品表示制度の適切な運用など、主な基本的な方針が盛り込まれています(14〜20条)。そしてこれらの基本方針を実施するために、個々の方針についての基本事項を政府が定めることとなり、平成16年1月22日に公表されました(21条)。

食品安全委員会を新設―― 中立公正な評価を

 従来は、健康への影響を評価するのも厚生労働省や農林水産省が内部で独自に行い、しかも施策の作成・実施にも当たってきました。これでは十分な情報開示や意見交換もなされず、また、タテ割り行政では施策も後手にまわることになります。
 そこで、食品健康影響評価を、公正な立場で客観的・科学的に行なう独立した機関として「食品安全委員会」が内閣府に設置されました(22条〜38条)。同委員会は、公衆衛生学などの専門家7人で構成されます(両院の同意で総理大臣が任命)。この委員は産業界や消費者の代表といった立場ではなく、科学的客観的な評価を行なうもので、在任中に政治団体の役員になったり積極的に政治運動をすることも禁止されます。
 食品安全委員会では、食品健康影響評価を行なうと同時に、これに基づいて、厚生労働省や農林水産省がとるべき施策等を勧告することもできますし、情報・意見交換の中心的役割を担うことになります。

半世紀ぶり  食品衛生法の大改正

 個別の法律では、「食品衛生法」が、制定以来半世紀ぶりに大きく改正され、平成15年8月29日から施行されています。
 同法にも、食品安全基本法の精神にのっとり、新たに、国・地方自治体・食品等事業者の責務が盛り込まれました。とくに食品等事業者には、自らの責任において食品の安全性を確保することが義務づけられ、そのために必要な知識・技術の習得、原材料の安全性の確保、自主検査の実施等に努めることとされました。また、具体的に、原材料の仕入の記録を作成・保存することも努力義務となっています(3条)。
 さらに、規格・基準を策定するときに広く国民の意見を求めることや、施策実施の状況を公表してその施策に国民の意見を反映させるという原則も明記されました(64・65条)。
 このほか、具体的に次のような規制・改正が行なわれることとなります。

(a) 農薬等のポジティブリスト制の導入(30条2項)
 農薬・動物用医薬品・飼料添加物は、個別に決めた残留基準を超えたもののみを違反としていたが、これでは残留基準が定められていない農薬等が取り締まれないため、残留基準が設定されていない農薬等が残留する食品の流通は原則として禁止することとした(現在、約600の農薬について暫定残留基準を作っているため、平成18年春までに施行予定)。
(b) 天然添加物への規制(附則2条の2・2条の3)
 現在、厚生労働大臣が指定した食品添加物しか使用は認められていないが、平成7年当時すでに使われていた天然添加物(489品目)については例外的に引き続き使用が認められてきた。これを見直し検証を進めて、安全性に問題があることが確認されたものや使用実態のないものを禁止できることとした。
(c) 新食品等への規制(7条2・3項)
 中国のやせ薬が深刻な肝臓障害を引き起こしたが、類似事件が起こらないための措置。食品中の成分を抽出・凝縮して錠剤やカプセルにするなど通常と異なる形で摂取する際は健康を損なわないという確証がなければ、また、被害を生ずるおそれのある物を含む疑いがあるときには、薬事・食品衛生審議会の意見を聞いて販売を禁止できる。
(d) 監視指導指針・計画により立入り検査等の充実(22〜24条)
 従来は、施設の類型に応じて年間の立入検査の回数が決められていたが、これを実情にあわせた効率的なものとするため、また、輸入食品の増大に対処するための措置。監視指導のための統一的な考え方を指針で決め(平成15年8月29日厚生労働省告示)、これに沿って、都道府県知事が監視指導計画を、厚生労働大臣が輸入食品監視指導計画を、毎年策定する(平成16年4月1日施行)。
(e) 民間の検査機関の活用(31〜47条)
 公益法人に限って指定していた検査機関を登録制にして、民間でも公正・中立で適切な検査ができる検査機関を活用して、チェック体制を強化する。
(f) 罰則の強化(78条等)
 とくに法人に対する罰則を強化。たとえば、虚偽表示等は、2年以下の懲役または200万円以下の罰金(従来は6ヶ月・30万円)で、法人については1億円以下の罰金に処される。

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 このほか「健康増進法」(そよ風 123号参照)も改正され、食品の広告等で、健康の保持増進の効果等について著しい虚偽・誇大表示をしてはならないことが定められました(罰則は6ヶ月以下の懲役または100万円以下の罰金)。
 食品の安全は、私たち消費者にとってもっとも身近で深刻な問題です。施策に意見を反映させるためにも、行政の窓口を積極的に活用しましょう。

☆ 「食の安全ダイヤル」        
電話03−5251−9220〜1

☆ 「食品安全委員会」事務局ホームページ
  http://www8.cao.go.jp/shokuhin/





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