解雇ルールを法律に明記
合理的理由のない・社会通念上認められない解雇は無効!
有期雇用契約の上限3年・5年に延長
労働基準法の一部改正
平成16年1月1日スタート

 「労働基準法」の一部が改正され、平成16年1月1日より施行されました。さらに、平成16年3月1日には「職業安定法」「労働者派遣法」の改正法もスタートすることになり、さまざまな雇用形態で働く人がこれから一層ふえることになりそうです。

有期雇用契約―― 上限年数を延長

 労働基準法では、労働契約に期間を定める場合(契約社員や季節工など)、建築工事など事業そのものに一定の完了があるものは別として、原則として、最長一年までと定めてきました。そして高度な専門的知識を有する一定の労働者と60歳以上の労働者だけは例外的に最長3年までの契約が認められていました。

表1 最長5年の有期契約が認められる高度な専門的
   知識を有する労働者とは
   (厚生労働省告示356号)
(1) 博士号取得者
(2) 公認会計士・医師・歯科医師・獣医師・弁護士・一級
  建築士・税理士・薬剤師・社会保険労務士・不動産鑑定
  士・技術士・弁理士
(3) システムアナリスト・アクチュアリーの試験合格者
(4) 特許発明の発明者・登録意匠を創作した者・登録品種
  を育成した者
(5) 一定の実務経験を積んだ、理科系の専門技術者やシス
  テムエンジニア・各種デザイナーで、1年当たりの賃金
  が1,075万円以上の者
(6) 国等により知識・技術・経験が優れた者として認定さ
  れて、上記(1)〜(5)に準ずると労働基準局長が認める者

 この制限が、それぞれ、3年と5年に延長されました。高度な専門的知識を有する労働者については、その範囲が表1のとおりとなり、さらにこれら労働者は、再契約する際には1年しか認められていなかったものが、今改正で、60歳以上の労働者と同じく、5年の再契約が認められるようになりました(14条1項)。
 一方、最長3年までの契約しか認められない一般の労働者については、当面、1年を経過したら申出によりいつでも退職することができるという条項が盛り込まれ(附則137条)、不当に長期にわたり拘束されないように配慮されています。
 こうした有期契約では、契約期間の終了と雇止めが大きな問題となります。そこで、
という基準が厚生労働大臣によって定められました(有期労働契約の締結・更新及び雇止めに関する基準、告示357号)。


 アメリカのように、原則として自由に解雇ができる場合は、有期契約は、労働者にとっても一定の安定した雇用を保証するものとなります。しかし、ヨーロッパや日本のように、解雇に合理的な理由を要する国では、有期契約は正社員に代わって不安定な雇用を増大する要因となるおそれもあり、期間の延長は若年定年制にもつながるのではという懸念もあります。一方、多様な生き方の中で束縛の少ない契約社員の道を選択する人もふえ、契約期間の長期化により、より安定した契約になって、労働の質の向上にもつながるとの見方もあります。

解雇のルール―― 法で初めての明文化

 業務災害による休業者や産前産後休業者への解雇は、法律により制限されています(19条)。また、解雇するには30日前の予告を要し、予告しない場合は当該日数の予告手当を支払うことという規定もあります(20条)。
 しかし労働基準法ではこれにとどまり、一般に、解雇に制約はあるのか、どんな場合に解雇が認められるのかといった基本的なルールは、法律では定めていませんでした。そのため、解雇をめぐっては裁判で争い、その判例の中から、解雇についての実質的なルールが形成されてきました(判例法理、「整理解雇の4要件」労基署窓口から参照)。
 しかし、解雇は無制限ではないという、雇用システムの根幹をなす規定が、法律上明文化されていないのは大きな問題といえます。そこで、このたび労働基準法の中に、判例でつくられてきたルールを、新たに次のように明文化しました。
 「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」(18条の2)
 裁判で争わない限りなかなか認められなかった不当な解雇も、この労働基準法への明記により、解雇権の濫用に実質的に歯止めがかかるのではないかと期待されています。なお、解雇については、就業規則の中に、解雇の事由を盛り込むことが義務づけられました(89条3号)。このほか、従来は退職後にしか交付されなかった解雇理由の証明書を、解雇の予告から退職までの期間中でも、請求があれば、交付することとしました(22条2項)。

裁量労働―― 本店等の規制撤廃

 その業務の性質上、時間をもってその労働をはかることが不可能な特殊な場合に限って、一定の時間働いたとみなす特別の措置がとられることがあります(裁量労働制)。

表2 特別な技能や資格を有し「裁量労働」が認め
   られる業務
   (労基法施行規則24条の2の2第2項)
1 新商品・新技術の研究開発等
2 システムエンジニア
3 記事や番組の取材・編集
4 各種デザイナー
5 プロデューサー・ディレクター
6 労働大臣の指定する以下の業務
    コピーライター・情報システムエンジニア
    インテリアコーディネーター・ゲームソフト制作
    証券アナリスト・金融商品の開発・大学教授の研究
    公認会計士や弁護士・建築士・不動産鑑定士・弁理
    士・税理士・中小企業診断士の業務

 この制度が広く解釈されると、労働時間の法規制は有名無実なものとなり、過酷な長時間労働を許すことになりかねません。そこで、本来、この裁量労働は、特別な技能・資格を有する一定の業務に限られていました(38条の2、専門業務型裁量労働表2参照)。
 それが、平成12年4月より、一般サラリーマンでも、一定の特殊な業務につく場合に限って、裁量労働の対象とすることになりました(38条の3、企画業務型裁量労働そよ風 104号参照)。
 平成16年1月1日からの改正では、この企画業務型裁量労働の対象を広げる措置がとられています。
 従来、「事業運営上の重要な決定が行われる事業場」と限定して、本社や地域を統括する支社に適用事業所を限っていた規定が廃止されました。さらに、この制度を導入するためには、労使委員会(賃金・労働時間等の労働条件を調査審議し、事業主に対して意見を述べることを目的とする委員会)を設置して、委員全員の一致で決議しなければなりませんでしたが、これを、5分の4以上の多数決で決めることができるようにしました。このほか、労使委員会の設置の行政官庁への届出制を廃止するなど、所要の緩和措置がとられています。
 裁量労働制の利用は、厚生労働省の調査によれば、専門業務型が1.2%、企業業務型が0.9%にすぎません(2002年)。利用が広がるか注目されるところです。

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 平成16年1月1日施行の労働基準法の改正により、働き方はますます多様なものとなります。解雇ルールだけでなく、労働契約全般についての「労働契約法」の制定が待ち望まれています。




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