

バブル時代には、リストラクチュアリング(リストラ・事業再構築)の言葉は、経営理念・組織の再編整備を意味し、主に、研究開発費の拡充・新規事業への資本投入など、明るい将来ビジョンを目指して使われていました。
ところが、バブルがはじけ、深刻な経済環境に入ると、リストラは、雇用調整(人員削減)を意味して使われるようになります。現在、「リストラ」は、イコール「整理解雇」です。
経営不信による深刻なリストラ解雇に関する相談は、言葉の意味の変化にあわせて、増えるばかりです。

「会社存続には、整理解雇しか方法がない。どのような手順が必要なのか」
「急に会社から整理解雇を提案された。組合もないし、どきように対応すればよいのだろうか」
労使双方から、整理解雇のきびしい問題に直面して、戸惑う相談を受けます。しかし、相談を受ける私も、会社の実状がはっきり分からず、回答するのに困惑しています。ただ、整理解雇の基本的要件だけは、しっかりと理解してもらって帰っていただくように努めています。

整理解雇は、もっぱら会社経営者側の事情による解雇で、一般的に、従業員には責任ないしは落ち度もなく行われます。
したがって判例では、次のように考えています。
「 賃金のみによって生存を維持している労働者及びその家族の生活を根底から破壊し、不況下であればあるほど労働者の再就職は困難で、解雇が労働者に及ぼす影響はさらに甚大なものであるから、使用者が整理解雇に当たっては、労働契約上の信義則により導かれる一定の制約に服するものが相当である」(大村野上事件:昭和50年12月24日長崎地裁大村支部判決)。

そこで、整理解雇が正当化されるための要件や手法が問題となりますが、多くの判例を踏まえて、次のとおり、「整理解雇の4要件」に集約されてきました。
- 1 〔経営上の必要性〕
- 企業が重大な危機に陥り労働者を解雇するのでなければ、企業の維持・存立が困難になり、長期的に業績が悪化するなど、近い将来、企業も労働者も共倒れになることが予見される状態にある。
- 2 〔解雇回避の努力措置〕
- 経営改善の努力を尽くし、解雇以外の出向・配転・任意退職募集などの余剰労働力吸収の手段を尽くしたうえで行うものである。
- 3 〔人選の合理性〕
- 整理解雇の人選において、その基準設定及び適用の合理性・公平さが保たれている。
- 4 〔手続きの妥当性〕
- 解雇の必要性・人選の基準等につき、労働者側の納得を得るための努力を怠らない。

このように、4つの要件に整理されますが、いざ、具体的事情がその要件に該当するかどうかの判断に、この問題の難しさがあります。
たとえば、1の〔経営上の必要性〕についても、判例の判断基準は、次の3つに大別されます。
- (1) 企業の維持存続が危うい程度に差し迫った必要性を要するもの。
- (2) そのような状態に至らないまでも、企業が客観的に高度の経営危機下にあることが必要とするもの。
- (3) より緩やかに、企業の合理的運営上やむを得ない必要性があれば足りるとするもの。
(3)の立場にたつ判例としては次のようなものがあります。
「企業においては、人員整理を行うことが企業運営上合理的でやむを得ない場合には、その必要性を肯認すべきものであって、企業が自己の財産をまず処分し、また倒産寸前といったぎりぎりの状況に至るまで必要となった労働力を手元に置かなければならないと解すべきでない」(佐伯学園事件:昭和56年11月26日福岡高裁判決)。
他の要件についても、同様に、個々の事案によって、判例の判断基準が分かれているケースがあります。

さて、手続きの妥当性のポイントは、従業員への説明義務です。
たとえ頑(かたくな)な労働組合であっても、判例では、「組合側の同意を得るため各種資料を提示して誠意をもって協議に当たったにもかかわらず、組合が、硬直的態度をもって反対に終始したことは、会社は信義則に基づく協議を尽くしたというべきである」(大和通信工業事件:昭和46年1月29日名古屋地裁決定)と、会社の誠実さは評価されています。
おおた せいぞう(社会保険労務士・元天満労働基準監督署総合労働相談員)

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