
社会が支える子育て−支援2法が制定
雇用環境見直して……
企業にも行動計画の届け出を義務づける
次世代育成支援対策推進法
少子化社会対策基本法

女性が生涯に産む子の数の平均(合計特殊出生率)が、平成14年はとうとう1.32となり、過去最低をさらに更新しました。昭和50年に2.0を切って以来、年々低下を続けています(ちなみに、人口を維持するには2.08が必要)。平成18年に日本の人口はピークに達し、その後は減りつづけることとなります。
出生数も、平成14年は約115万人と、30年前の第2次ベビーブームに比べて2分の1近くに減っていますが、今後50年間で、さらに今の半分に減ると予測されています。
先進国の合計特殊出生率(2000年)
アメリカ フランス イギリス ドイツ イタリア |
2.13 1.89 1.65 1.63 1.23 |
すでに平成6年より、少子化対策は進められ、保育所の数をはじめ具体的な数値目標も設定して施策がとられてきました。しかし現実には、出生率は低下するばかりです。 これまでは、女性の高学歴化・職場進出などが原因で晩婚化し、その結果、子どもの数が減ったと考えられてきましたが、もはやそれだけでは説明がつかず、現代の社会が、子どもを生み育てることに喜びや安心を十分に見いだせないという大きな問題を抱えていることが明らかとなりました。
そこで政策も、これまでの「仕事と子育ての両立を支援する」ことを中心としたものから、さらにすすめて、次の四つの柱に沿った対策を総合的に行なおうとしています。まず、(1)男性を含めた働き方の見直し、そして(2)地域における子育て支援、(3)社会保障における次世代支援、(4)子どもの社会性の向上や自立の促進、これらを計画的に進めることとしました(平成15年3月「次世代育成支援に関する当面の取組方針」)。
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目標値
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平成11年度
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男性の育児休業取得率
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10%
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0.55%
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女性の育児休業取得率
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80%
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57.9%
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子どもの看護休暇の普及率
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25%
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11.2%
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未就学の子をもつ親の勤務時間短縮等の措置の普及率
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25%
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9.2%
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そして平成15年夏、新たに2つの法律が制定されました。
まず、「次世代育成支援対策推進法」で、平成27年3月末までの時限立法です。
この法律は、保護者による子育てを困難にしている障害を取り除き、子どもたちが健やかに生まれ育つ環境の整備や取組を、国・地方公共団体さらに事業主が、積極的に進めようというものです。
市町村・都道府県は、それぞれ、5年ごとに、具体的な行動計画を策定することとなります(8・9条)。内容は、(1)地域における子育て支援、(2)母・子の健康の確保増進、(3)健やかな成長のための教育環境の整備、(4)子育てに良好な住宅・住環境の確保、(5)仕事と家庭の両立の推進などについて、具体的な目標を定めて取り組むこととなります。
さらに、常時雇用者が300人を超える事業主も、雇用環境整備等のための具体的な行動計画を作成し、厚生労働大臣に届け出なければなりません(12条、300人以下には努力規定)。届出がない場合には、厚生労働大臣が勧告をします。
一方、一定の基準を満たした計画を作成し、しかも達成した事業主は厚生労働大臣の認定を受けることができ、その認定マークを広告等に使用できるようになります(13・14条)。企業の存続にとって、次代の労働力の確保が重要なことはもちろん、この認定制度によって「働きながら子育てしやすい」とアピールして優秀な人材の確保ができるというわけです。
市町村・都道府県行動計画と事業主行動計画は、ともに平成17年4月1日からスタートすることとなります。
この行動計画の作成に向けて、平成15年8月22日、「行動計画策定指針」が公表されました(7条)。
それによると、事業主行動計画では、子育てと仕事の両立支援として、子どもが生まれた父親の5日間程度の休暇制度や休業後の現職復帰、短時間勤務制度などがあげられたほか、働き方の見直しとして、所定外労働は例外的な場合にのみ行なわれるものだとの認識を深めるなど、職場優先意識の改革をはじめ、年休取得の促進や多様なワークシェアリングの導入が盛り込まれるなど、事業主も積極的に取り組むことが期待されています。
このほか、事業主の団体や連合会を次世代育成支援対策推進センターとして指定し、行動計画策定・実施の援助を行なうこととしました(20条)。さらに、その地域に応じた施策を協議するために、地域協議会をさまざまな形で組織して、自発的に取り組むことも期待されています(21条)。
もう一つ新たに制定された「少子化社会対策基本法」は、少子化が、将来の社会・経済全体に深刻な影響を及ぼすことを憂慮して、議員立法として成立したものです。急速な少子化に対して、総合的な対策を進めるための基本理念を法制化しました。
国・地方公共団体が取り組むべき基本施策としては、雇用環境の整備や保育サービスの充実、地域社会による子育て支援の整備、母子医療の充実(不妊治療を含む)、ゆとりある教育の推進、生活環境の整備、経済的負担の軽減などが盛り込まれています(10〜17条)。
そしてこれを推進するための機関として、内閣総理大臣を会長とする少子化社会対策会議が、内閣府に組織されました(18・19条)。
この法律は、平成15年9月1日より施行されています。
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けっして「産めよ増やせよ」の時代に逆戻りしたり、国があるべき人口を定めるなどといった、個人の権利を国が管理する政策が行なわれてはならないのはもちろんです。社会環境を整備するなかで、結果として、少子化に歯止めがかかるという本来の姿を今一度確認しなければなりません。
そのためにも、政策の遂行にあたっては、(1)子どもにとっての幸せの視点で(子どもを数としてだけ考えない!)、(2)産む産まないは個人の選択(子どものない人を追い詰めない!)、(3)多様な家庭形態・生き方に配慮する(共働き・片働き・片親・未婚の母・子どものない夫婦等々、多様な生き方を尊重する!)ことが、少子化対策を進めるうえで留意されねばならないと認識されています。


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